“I’m crazy about you.”
“I could stay like this forever.”
“I’ve never wanted anyone the way I want you.”
次々と耳元に落ちてくる英語。
吐息が耳をくすぐるたび、梨歩の身体が小さく震えた。意味はわからなくても、声の柔らかさと、抱きしめる腕の強さだけで、そこに込められた想いが伝わってくる。
わからないことが、もう不安ではなかった。
言葉のひとつひとつを理解できなくても、彼がどんな気持ちで囁いているのかは、触れ合う体温が教えてくれる。
「……全然わかんない」
「それでいい」
「でも……」
梨歩は亞紗斗の胸に頬を寄せた。
耳を澄ますと、すぐそばで彼の鼓動が鳴っている。規則正しいはずの音は、いつもより少し速かった。
「ものすっごく愛されてる感じはする」
一瞬。
亞紗斗が黙った。
腕の中の空気が、わずかに変わる。
そして、梨歩の髪に顔を埋める。銀色の髪が頬に触れ、彼の吐息が髪の間を通って首筋をくすぐった。
“That’s because you are.”
「……?」
顔を上げた梨歩に、亞紗斗は日本語では答えなかった。
ただ、もう隠す気など微塵もない目で梨歩を見つめている。
その瞳に映る自分の姿が見えそうなほど、近い。
こんな目で見られて。
こんな声で囁かれて。
夢中になるなという方が無理だった。
梨歩は、もう英語の意味を尋ねなかった。
尋ねなくても、今の言葉が自分へ向けられたものだと、はっきりわかったからだ。
「……ずるい」
「何が」
「英語」
「便利だろ」
「亞紗斗さんの照れ隠しにね」
「そうだな」
否定すらしない。
その素直さに、梨歩の胸がまた熱くなる。
そして。
梨歩の耳元に唇を寄せて。
最後に、これだけはひどくゆっくりと。
“My love.”
梨歩にもわかる言葉を、わざと選んで囁いた。
声が耳の奥に残り、そこから全身へ熱が広がっていく。
「……っ」
「これはわかっただろ」
「……亞紗斗さんの馬鹿」
真っ赤になって胸へ顔を隠す梨歩を見て。
亞紗斗は満足そうに目を細める。
梨歩の髪に頬を寄せ、背中をゆっくり撫でる。その手つきがあまりに優しくて、梨歩はもう顔を上げられなかった。
けれど、今度は逃げたいとは思わなかった。
恥ずかしさに顔を隠したまま、梨歩は亞紗斗の服を握り直す。離れないという意思を、言葉の代わりに伝えるように。
日本語なら、とてもじゃないが言えない。
けれど英語なら。
恥ずかしさより先に、溢れそうな想いを伝えられる。
そして梨歩もまた、まだ声にはできない想いを、抱きしめる腕の強さに託していた。
だからその夜。
亞紗斗は梨歩を腕の中に抱いたまま。
互いの体温が冷めないように、何度も抱きしめ直しながら。
普段の彼からは想像もできないほど甘く。
何度も、何度も。
愛を囁き続けた。
「ねえ。どうして、そんなに――?」



