梨歩の頬が熱くなる。耳まで熱が広がり、呼吸の仕方さえわからなくなった。
「今、愛してるって言った?」
「さあな」
「言った!」
亞紗斗は答えない。
代わりに梨歩の額へ口づける。
触れた唇の温度が、じんわりと残った。
それから頬。
瞼。
最後に唇へ。
触れるだけだった口づけが、少しずつ深くなる。最初は確かめるようだった触れ方が、重なるたびにためらいを失っていく。息が乱れ、指先に力が入った。亞紗斗の服を掴んだ手が離せない。
唇が離れた、その一瞬。
名残を惜しむように、二人の間で細い吐息が揺れた。
梨歩は、もう一度触れてほしいと思ってしまった。
その願いを見透かしたように、亞紗斗の指が頬を撫でる。
“I want you close.”
低い声が落ちてくる。
“Stay with me.”
「……亞紗斗さん」
“Don’t go anywhere.”
今度は、なんとなくわかった。
梨歩は亞紗斗の胸元を掴む。
その下で、彼の心臓が速く打っているのを感じた。自分だけが動揺しているわけではないのだと知ると、胸の奥が少しだけ軽くなる。
同時に、彼もまた自分を求めているのだという実感が、ゆっくりと胸の奥へ沈んでいった。
「……行かないよ」
亞紗斗の目が細くなる。
その表情があまりに優しくて。
なのに、どうしようもなく色っぽい。
梨歩の背中を抱く腕が、もう一度ゆっくりと強まった。体温も、呼吸も、鼓動も、すべてが近い。
“My beautiful girl.”
「……絶対また恥ずかしいこと言ったでしょ」
「日本語にするな」
「意味教えて」
「嫌だ」
「なんでよ」
「俺が耐えられない」
「自分で言ってるじゃん!」
亞紗斗がとうとう吹き出した。
声を立てて笑うほどではない。
けれど、肩を揺らしながら本当に楽しそうに笑っている。その笑いが近くで響くたび、梨歩の頬にも自然と笑みが浮かんだ。
そんな顔を知っている人は、きっとほとんどいない。
梨歩は嬉しくなって、亞紗斗の首へ腕を回した。
首筋に触れた指先から、彼の体温が伝わってくる。抱きつくと、亞紗斗は一瞬だけ目を見開き、それからさらに深く梨歩を抱き寄せた。
その反応が嬉しくて、梨歩は初めて、自分から彼を求めることをためらわなかった。
「もっと言って」
「意味がわからなくても?」
「うん」
少し考えるように亞紗斗が梨歩を見る。
その視線にまた胸が騒いだ。まるで言葉を選ぶ時間さえ、梨歩を喜ばせるためのもののようだった。
そして、もう一度抱き寄せた。



