揺蕩う雲の向かう先


 私は今日も、教室の隅から窓の外の空を見上げている。
 気持ち良さそうに空を揺蕩う雲は、これからどこへ行くのだろう。

 あれから私の生活は、劇的に変わった。
 なんてことはまったくなかった。

 家庭は相変わらず荒れていて、学校での私も相変わらずいじめられている。

 だけど少しだけ変わったこともある。

「心春、帰るぞ」

 あれ以来、湊は私を気に掛けてくれるようになって、昔みたいにまたお喋り出来るようになった。

「湊、いちいち迎えにこなくてもいいよ。私一人で帰れるし……」
「そうだけど。また心春が独りで抱え込まないか心配なんだよ。幼なじみとして」
「……過保護……」
「なんか言った?」
「なにも……」

 昇降口を出て、私は一歩、また一歩と歩き出す。

「今日、どっか寄って行くか? ファミレスとか」

 湊の誘いに、私は首を振る。

「ううん、今日は用事があるから。またね」
「分かった。また、だな」

 十字路で湊と別れて、私はまた歩き出す。

 一段と空の高い、大きな広場へとやってくる。

 そこには今日も私と同い年くらいの子達がたくさん集まっていて、そこかしこで楽しそうな笑い声が聞こえる。
 その中でも一番派手な、真っ黒なうさ耳の付いたパーカーを着た女の子が、私を見つけて手を挙げた。

「心春~っ! こっちこっち!」
「莉音」

 私は莉音の元に駆け寄る。
 そこには結愛と陽菜もいて、私を笑顔で迎えてくれた。

「心春っ、めっちゃお洒落なカフェ見つけたよん! これからみんなで行かない?」
「うん、行く」

 私は頷いて、莉音達と並んで歩き出す。

「……学校、どう?」

 莉音が私に訊く。

「うーん、あんまり変わってないかも……」
「またうちに来てもいいんだよ?」
「うん、ありがとう。でも……、もうちょっと自分で歩いてみる」



 見慣れた街並を、自分の歩幅、自分の速度で歩く。

 自分の本当の居場所なんて、正解なんて、誰にも分からない。

 きっと私は探し続ける。
 私がここにいてもいいんだって思える居場所を。
 居場所はなにも、一つでなくていい。

 自分の足で歩く。
 私にできるのは、きっとそれだけだ。



 終わり