『先輩発見。最終便で連れて帰ります』
泣き腫らした顔で笑いながら、鷹矢とのツーショット写真付きメッセージを送った。
ほどなくして、祈から、
『ジンギスカン食ってんじゃねえよ、ハゲ!』
と、返信が届いた。
寺を出る頃には、ひどく腹が減っていた。
空港へ戻る前に、二人で夕食を食べることにした。せっかく北海道まで来たのだから、それらしいものを一つくらいは食べたかった。
すぐに、
『でも、よかったね』
と、追加のメッセージが届いた。肉を焼く傍らで、七穂は微笑んだ。
約束どおり、道場の若山にも連絡を入れた。
ジンギスカンを食べながら、ようやく、鷹矢がこの一週間をどう過ごしていたのかを聞けた。
葬儀のあと一度九州の親戚の家へ行き、そこで一緒に暮らさないかと話をされたらしい。それから、一人で考えたくなって、昔家族で来たことのある北海道へ向かったのだという。
「せめて連絡くらいしてくださいよ」
「悪かった」
鷹矢が鞄の一番奥を探ると、充電の切れたスマホが出てきた。七穂のポータブル充電器を使うと、画面がついた。
七穂の送った連投メッセージの量を見て口元を押さえて少し笑っていたが、最後の『電話ください』まで読むと、申し訳なさそうな顔に変わった。
「電話したら気づくって言ったのに、嘘つき」
「ごめん」
「ん」
七穂は鷹矢の肩にすり、と頬を寄せた。そして、鷹矢が育てていた肉をとった。
帰りのタクシーでも飛行機の中でも、眠くて仕方がなかった。正直、ほとんど眠っていた。
何度か目を覚ますたび、隣に鷹矢がいたので、それだけ確認してまた眠った。
ふらふらになった体を、鷹矢に支えてもらったことは覚えている。
疲労困憊だった。
次にはっきり目を覚ました時には、またタクシーに乗っていて、窓の外には見慣れた景色が流れていた。
自宅の前へ到着する。
鷹矢がインターホンを押すと、家族が玄関から転がり出てきた。すっかり夜も遅かったが、全員起きてくれていたらしい。
「おかえり!」
満面の笑みで、二人へ言った。
七穂だけではなく、鷹矢へも向けられた「おかえり」だった。
鷹矢に肩を借りている七穂へ、祈が、
「よくやった」
と言って背中を叩いた。
「ご心配おかけしたみたいで、すみませんでした」
鷹矢は康二たちに頭を下げた。
すると、皆は顔を見合わせてから、溢れる喜びを抑えきれないみたいに、ふにゃりと笑った。
なんだかそれが七穂にとって懐かしく、なんだろう、としばらくぼんやり考えていた。そしてそれが、祈が生まれた朝に、皆が浮かべた笑顔と同じなのだと気がついた。
愛おしいよねぇ、と思ったら、また涙が出そうになった。
涙や愛情は、いつ枯れるのだろう。
「疲れたでしょう。壁島くんも、泊まっていって」
明美は微笑んだが、鷹矢は丁寧に断った。しばらく家を空けていたので、一度帰っておきたいそうだ。
「泊まっていけばいいのに」
七穂が口を尖らせても、鷹矢は苦笑して、
「また今度な」
と手を振って、帰っていった。
鷹矢の鞄には、蛙が二匹、ぴたりとくっついたままになっている。
引き離すのがかわいそうだったので、二匹とも鷹矢の鞄へつけたのだ。ぶらぶらと重そうだったが、二匹はぎゅっとくっついていた。
鷹矢の背中が見えなくなってから、橘家の面々は、どやどやと家へ入った。
「どうだったの? どうなったの?」
明美が訊いた。
質問したいことが山ほどあるらしく、全員の顔がこちらを向いている。
しかし、七穂はもう眠すぎて限界だったので、
「明日話す。眠い、眠すぎる」
と言いながら靴をでたらめに脱いだ。
その矢先、
「あ」
祈が声を上げた。
振り向く。
狭い玄関に、家族全員が集まっている。
その中に、さっき帰ったはずの鷹矢がいた。
いや。
鷹矢の生き霊だった。
そして、
(キスした……)
と言った。
途端に、祈と明美は「きゃあ!」と騒ぎ、康二と秀進はハイタッチをした。
七穂は一瞬で真っ赤になった。
「~~~っ! もう!」
残りの充電がぎりぎりのスマホを取り出し、すぐさま鷹矢へ電話をかける。
数回の呼び出し音のあと、鷹矢が電話に出た。
「もしもし」
「また生き霊が来てるから! もういいから、ちゃんと本人が来て!」
一方的にそう言って、電話を切った。
しばらくして、橘家のインターホンが鳴る。
