恋するヤンキーに憑かれた王子は、カエルになりたい!



とんでもないことを言ってしまったせいで、七穂は夜になると部屋から出られなくなった。

昼間はバイトや遊びに出かけていればいい。問題は帰宅してからだ。

食事中なんかに家族の前に生き霊が現れて、

(俺のことも考えて、とはどういう意味だ?)

などと考え始められては、死ぬ。

自分でもどういう意味なのか分からないことを、人前で問い詰められてはたまらない。

幸い、鷹矢は忙しいらしく、相変わらず昼間に現れることはなかった。夜も毎晩ではない。何日かに一度、忘れた頃にふっと現れる。

しかも以前のように、七時きっかりでもなくなってしまった。寝る前なのだろうと思えるような遅い時間が多い。

(あれはなんだったんだろう)

とか、

(どこかへ出かけたいって意味か?)

とか。

かわいいとも、会いたいとも言わない。ただ、七穂のあの一言を、まだ考えているらしかった。

思ったほど言葉通りには受け止められていないことにはほっとした。けれど、悩ませてしまっているのは確かだ。

いつ現れるか分からない以上、七穂も油断できない。夜は部屋にこもるしかなくなった。

落ち着いていた鷹矢の思考をわざわざ自分から乱してしまった。おかげで自分の生活リズムも狂った。自業自得である。

試験前でもないのに部屋で食事を取る七穂を、家族は当然怪しんだ。「勉強してるんだよ」と言ってみても、満場一致で、「嘘をつけ」と返された。

ほかにうまい言い訳も思いつかず、反抗期の中学生のように「うるさいなぁ」と言って、部屋へ閉じこもるしかなかった。

だからといって、生き霊が必ず来るわけでもない。

夏休みの課題をしてみたり、本を読んだり、スマホをいじったりしてみるものの、どれにも集中できなかった。

そうしてうだうだ過ごしているうちに、ここ一週間ほど、生き霊は一度も現れなくなった。

うまく眠れないまま朝を迎え、ふらふらとバイトへ出ていこうとする七穂を見て、

「最近、変だよ。一緒にご飯も食べないし、なんかお兄ちゃんらしくない」

と、祈が心配そうに言った。

「なんだか、魂が半分抜けてるみたい。霊感的な意味じゃないけど。すごいぼんやりしてるし」

玄関で靴を履く七穂の顔を覗き込んだ。

「本当に大丈夫なの?」

問われても答えられず、七穂は手元の靴紐を見た。

蝶結びの一つもうまくできていないのを見て、もしかして今、全然、大丈夫ではないのかもしれない、と思った。

来るかどうかも分からない生き霊を、部屋で待っている。

家族のことも、えみるからの連絡も放っておいて、鷹矢のことばかり考えている自分について、考えている。

どうしてあんなことを言って、どうして来るとか来ないとかを気にしているのか。

なぜベッドに座ってぼんやりと、堂々巡りを繰り返しているのか。

それが、誰かを甘く思う姿というより、電柱の裏で口をくちゃくちゃ鳴らしながら獲物を待っている、あのクチャラーじじいの姿と重なって見えた。

心底、気持ちが悪かった。

「よくないね」

七穂が力なく笑って言うと、祈は険しい顔をして七穂の腕を引き、神社のほうへ連れていった。

御神体の蛙さまのいる拝殿の前まで行くと、祈は紅白の鈴緒をぶんぶん揺すってから、柏手を打った。

「お兄ちゃんが変です。助けてあげてください」

涙声だった。

拝殿の奥へどかんと鎮座する蛙さまと、目が合った。

「……」

縦長の瞳孔と見つめ合う。朝の境内はしんとしていた。静かな、清らかな空気のなかで、

「我にかえれ」

そう言われた。言われてはいないけど。

その不気味さのせいだろうか。なんだか不意に、頭がすっきりした。

「これが──ご利益!? こ、効能!?」

「温泉か?」

毒をもって毒を制したような、そういう目覚めだった。久しぶりに頭の中が晴れたのは確かだった。

「……ごめんな、祈。兄ちゃん、どうかしてたわ」

しゃがんで、靴紐を結び直した。

「どうかしてるのはいつもだから。限界を越えるのだけはやめて」

少し怒ったような祈に笑いかけ、今度は自分で鈴緒をがらがらと鳴らして、手をぱんぱんと合わせた。何か願ったりはしなかった。

「行ってきます!」

バイトへ向かいながら、帰りに鷹矢のところへ行こうと決めた。

決めてしまえば、なんてこともないように思えた。不思議な力が湧いていた。まさか蛙さまのおかげではないだろうけど、そこだけはまだ認めたくなかった。



五時にはバイトを上がれたので、そのままバスで鷹矢の家へ向かった。混んだ車内で吊り革につかまりながら、何を言おうかと考える。

たまには自分のことも考えてほしいと言った、その意味を説明したいような気もしたし、とてもそんなことはうまく言葉にできない気もした。それでも、今度こそ会って話したかった。

鷹矢の家は、暗かった。インターホンを押したが、留守のようだった。

電話をかけてもつながらず、「おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか──」と、冷たい案内が流れてきた。

病院だろうかと、面会時間を調べる。もしまだそこにいるのなら、今からでも間に合う。

七穂は再びバスへ乗り込んだ。今度は座れたけれど、少しも落ち着かなかった。いくつもの停留所を通り過ぎるうちに日もゆっくり暮れていく。薄く藍色が降りた景色の中で、病院の窓だけが明るかった。

面会受付で、

「壁島巌男さんの……弟子? です」

と、なんとなく近しい関係を装って言ってみた。職員は何かを確認してから、表情を曇らせた。

「もう入院はされていません」

「あ、退院されましたか?」

そう訊いた途端、どうしてだか、先ほど訪ねた明かりのついていない家が、くっきりと頭に浮かんだ。

「ご家族に確認をお願いします」

職員が目を伏せた。嫌な予感が確信へ変わり、頭の中が真っ白になる。

「亡くなられた、ということですか?」

震える喉で訊いたけれど、返事はなかった。

それだけで十分だった。

礼を言うことさえ忘れて、七穂は走り出した。

いつ。

いつ、亡くなったのだろう。

自分が馬鹿みたいに部屋へこもり、何の役にも立たない感情を鷹矢へ向けている間に、最悪のことが起こっていたのかもしれない。

足が震えてうまく走れなくなり、止まる代わりに必死で頭を働かせる。

鷹矢は、今どこにいるのだろう。

もう一度電話をかけてみても、また冷たいアナウンスが流れた。

「あ」

思い出して、母親へ電話をかける。夕飯の支度をしている時間だ。なかなか出てくれず、じりじりしながら待っていると、やがて「はい」と声がした。

「ちびっこ柔道教室、どこだっけ」

一も二もなく訊いた。以前家へ来た時に、道場の話をしていたはずなのに、場所が思い出せなかった。

「吉木町だけど? あんた今どこ、ご飯は?」

電話越しの母の声に、

「先輩のおじいさん、亡くなったかも」

それだけ言って、電話を切った。

言葉にした途端、喉が干上がった。

夏休みはちびっこ教室を手伝うと言っていたし、毎日稽古へ行っているとも話していた。道場へ行けば、何か分かるかもしれない。

吉木町の柔道場の場所を調べ、大通りへ出てタクシーを拾った。鞄には、日払いの給料が入っている。

道場までは、そこから二十分ほどで着いた。七時を過ぎようとしていたが、まだ明かりがついていて、帰る人もいれば、これから入っていく人もいた。

入り口まで行き、最初に会った中学生くらいの男の子に声をかけた。責任者の人に会いたいと伝える。

「壁島鷹矢さんの友達です」

そう付け加えると、男の子は「鷹矢さんの」とつぶやき、稽古場の奥へ消えていった。

ほどなく、肩の逞しい大人の男性が出てきてくれた。道着に『若山』と刺繍されていた。

七穂は名乗って、改めて鷹矢の友人であることを伝え、稽古中に申し訳ないと頭を下げた。きちんと話したいのに、どうしても早口になってしまう。

「巌男さんは……亡くなられましたか」

結局、単刀直入に訊いた。

「はい。亡くなられましたよ」

板張りの床に正座し、若山は答えた。

予感はしていたのに、目の前が暗くなった。

鷹矢によく似た笑い方と、皺だらけの大きな手が浮かんだ。ほんの一度しか会っていない。でも、もう一度会いたかった。どうして当然のように「今度」があると、幼稚にも信じていたのだろう。

亡くなられたのは、と続けて訊いてみたけれど、喉が塞がって声が出なかった。

「いつでしょうか」

懸命に声を出した。

「一週間ほど前ですね」

ちょうど、生き霊がまったく現れなくなった頃だった。

七穂のことなど、考える余裕があるはずもなかったのだ。唇を少し噛んでから、もう一度口を開いた。

「鷹矢さんは、今日は来ましたか? 家にもいなくて、電話もつながらなくて」

不安が肩にのしかかってきて重い。

「巌男先生が亡くなられてから、まだ一度も来ていません。葬儀のあと、稽古と教室を休む連絡と一緒に、『ちょっと遠くに出かける』と言っていたので、気分転換に出かけているのかもしれません」

若山も、少し眉をひそめた。

「親戚の方々もお見舞いや葬儀には来ていたようですが、なんだかんだ、鷹矢が一番大変だったと思うので。そっとしていたつもりですが、連絡が取れないとなると、少し心配ですね。こちらでも心当たりを当たってみます」

そう言ってもらい、七穂は礼を言って電話番号を残して道場を出た。鷹矢から連絡があれば知らせてもらうよう頼んだ。こちらでも何か分かれば連絡すると約束した。

次に急いで向かえる場所が、もうなかった。

とぼとぼ歩き、念のためもう一度鷹矢の家へ寄った。やはり暗いままなことを確認した頃には、足がすっかり痛くなっていた。

いない。

ちょっと遠く、とは、どこのことなのだろう。


『今どこですか』

『なんで何も言ってくれないんですか』

『そんなに役に立ちませんか』

『ほんとにどこ?』

『連絡ほしいです』

『アホ』

『馬鹿』

『嘘です』

『電話ください』


帰り道、既読のつかないメッセージをいくつも送った。

こんなふうに続けざまに送ったことがあった。蛙化作戦の時だ。

どうして、あんな馬鹿なことばかりしていたのだろう。

いつまでも、ふざけた後輩だと思われているから、きっとこんな時に頼ってもらえなかったのだ。

引かれようとして適当なことばかり言って、困らせてばかりいたから。

そう考えたら、涙がぼろぼろとこぼれた。

七穂はずっと泣きながら歩いた。

ようやく自宅の玄関を開けると、家族全員が走ってきた。泣いている七穂を見て、皆がぎょっとする。

支えられるようにして、いつもの席に座る。

「あんた、何か食べたの」

明美に訊かれ、七穂は首を横に振った。康二はお茶を、祈はティッシュを差し出してくれた。秀進は、ただそこにどっしりと座っていてくれた。

温め直された夕食が、偶然にもコロッケだったので、また涙が出た。

お店のものに負けないくらい、うちのコロッケも美味しいのだと、まだ教えていなかった。

七穂は泣きながらコロッケを頬張り、巌男が亡くなったこと、道場を訪ねたけれど鷹矢は最近来ていないこと、居場所は誰も知らず、『ちょっと遠くへ行く』と話していたらしいことを伝えた。

「誰も居場所を知らないのは心配ね」

明美が眉を寄せた。

「こういう時、一人なのはつらいだろうに」

康二は腕を組んだ。

「お兄ちゃんのところに、その……生き霊として来たりは、してなかったってことだよね?」

祈に訊かれ、

「うん。本当に大変な時に、俺のことなんて思い出すわけないんだ」

頷いて、鼻をすすった。

誰も、何も言わなかった。

また冷めたら悔しいので、七穂はコロッケと米を交互に頬張り、涙が出ないようにした。食べているのは自分だけだったけれど、皆と食卓を囲むのは久しぶりだと思った。

そうしたら、鷹矢の一人きりの食卓を思い出してしまった。

今度こそ、一人になってしまった、あの居間。テレビの音もしない、あの静かな食卓。

やっぱり堪えきれずに涙が出た。拭って、それでも食べた。ちゃんと食べないと。ちゃんとしないと。かろうじて、そう思えた。

しばらく、一人分の食器が鳴る音だけがした。

「そのうち帰ってくるよね、きっと」

祈が細い声で言った。

「そうね。きっと、何日かしたらきっと──」

つとめて明るく言おうとした明美の言葉が終わらないうちに、康二と秀進が突然、立ち上がった。

続けて母も妹も、七穂の後ろを見た。

七穂は、咄嗟に、振り向いた。

来ていた。

鷹矢の生き霊だった。

「出たぁあ!!!!」

声が重なって、全員が一斉に立ち上がる。

「今どこ!?」

言っても仕方がないのに、祈がほとんど叫んでいた。

「しっ」

鷹矢の口元が動いたので、康二が皆を制した。

その場にいる全員で、耳をすませた。

なんでもいい、何か言ってほしい──。

固唾を飲んで待っていると、


(もう会えないな)


鷹矢がつぶやいた。

「え」

声が出そうになり、七穂は自分の口を押さえた。


(最後に、紫陽花でも見に行こうか)


誰も声を出さなかった。


(本当は、一緒に見たかった)


それだけ言い残し、姿が薄れ、そのまま、消えてしまった。

胸の奥がぐっと縮んだ。

つぶやかれた言葉が心臓を締めつけてくる。

『もう会えない』

この言葉の暗さに、心を引きずり込まれた。

「……どういうこと?」

すっかり取り乱しながら、七穂は家族へ向き直った。

全員、顔を青くしていた。

『最後に』なんて。

鷹矢の残した言葉のせいで、最悪の考えが頭をよぎり、心臓がものすごく嫌な鳴り方をした。幽霊のそばにいる時など比べものにならないほど変な汗が出て、体が冷たくなっていく。

「こういうのって、警察に言うもの……?」

祈がつぶやいた。

「え、どうだろうか」

「念のため、相談できるか確認したほうがいいかもしれないわね」

父と母が顔を見合わせる。

七穂は頭が真っ白になり、何も考えられなかった。

『もう会えない』

その言葉が巨大な重しのように頭にのしかかっている。

皆が右往左往している中、秀進だけは真っ直ぐな目をしたままだった。

「壁島くんは、そういう子じゃないぞ」

と、力強く言った。

何も知らずに言ったわけではなかった。ここで、一緒に食べて話して、ウノをした。

秀進の一言で、皆もようやく少し冷静になった。

「確かに、そうだよね」

暗闇の中のかすかな明かりを守るように、皆で食卓を囲んだ。

「けど、じゃあ一体どこにいるんだろう。探したいよね。一人にはしておけないし」

康二が言った。

「ごめん」

そこで不意に祈が謝ったので、全員がそちらを見た。

「ごめんね、お兄ちゃん。やってみたけど、やっぱり探せなかった。駄目だった」

張りつめた目から、涙がぽろぽろと落ちた。

「ごめんね。ごめんなさい」

何も言っていないのに、力を使おうとしてくれたのだろう。

七穂は、震える祈の頭を撫でた。

「そりゃ無理だよ。だって、どうでもいいって、誰も思ってないんだもん」

なんて優しい子なのだろう、と七穂は思った。祈は、小さい頃からずっと、ただ優しいのだ。丸い頭を感じながらそう思った。

「うん。どうでもよくないね」

祈はごしごしと涙を手で拭い、

「……探そう!」

力を込めて言った。

七穂も必死で考えていた。

「紫陽花のところへ行きたいって、言ってたよね?」

顔を上げて言う。

「最後に家族全員揃って見たのが紫陽花だって、前に話してた。そこのことじゃないかな」

「紫陽花ったって、どこの紫陽花だろう」

「もっと何か、手がかりがないと」

「七穂、ほかに壁島くんのことで知っていることはないの?」

言われて、七穂は頭を巡らせた。

鷹矢は、大きくて強い。ミステリー小説を読む。コーラよりお茶。ブルーホークスのファン。辛いものが好き。柔道が強い。りんごの皮を剥くのがうまい。

「先輩は……」

考えながら、口にする。


「俺のこと、めっちゃ好き……」


確信めいて言う。

「惚気とる場合か?」

秀進が呆れたように言ったが、祈は「待って」と真剣な目をした。

「壁島さん、お兄ちゃんのSNSアカウントをフォローしてないの? 本人のアカウントに、何か手がかりがあるかも」

七穂はスマホを取り出した。

「この間は、神社のSNS見てない感じだったけど」

神社のアカウントを開き、フォロワーの一覧を表示する。名前がずらりと並んでいた。

「フォローしてくれてたとしても、アカウント名知らないし、先輩だと分かるかな……」

指を滑らせる。

いちごミルク。お昼寝子猫。えみるんるん。

かわいらしい名前が並んでいる。やっぱり分かるはずがない。

そう思った時、指が止まった。


『ホークKBS』


それを見つけた時、ぴかりと目の中で、確かに、光が弾けた。

「これだ、これこれこれ!!」

七穂は興奮して言った。蛙化作戦でつけた、変なあだ名。KBSは壁島のことだろう。

七穂がアカウントを開き、皆が肩を寄せ、画面を覗き込む。

本人の投稿は一つもない。

「うちの神社しかフォローしてないし、うちの投稿にしか『いいね』してない」

七穂の写真がついた投稿には、軒並み『いいね』が押されていた。

「これだ」

「間違いない」

「待って待って! このヘッダー画像、紫陽花じゃん!」

祈が指さした。タップして、拡大する。

地面を埋め尽くす紫陽花の向こうに、寺らしき建物が写っていた。

「ここでは!?」

「でも、ここどこなの?」

「検索する」

祈は自分のスマホでも鷹矢のアカウントを開き、画像検索をし始めた。

七穂も画像をコピーし、

『この場所がどこか分かる方はいませんか。この場所を探しています』

と、写真を添えてSNSに投稿した。

家族がそれぞれ画面を覗き、画像を探したり、念のため警察への相談窓口を検索したりしていた。

ほどなくして投稿へ返信がつき始めたが、

『紫陽花、とってもきれいですね』

『八月に紫陽花ですか?』

といったものばかりだった。

確認するたび、そうじゃなくて、と焦りが募る。

けれど、その中に、


『間違っていたら申し訳ないのですが、北海道の紫陽山、雨澄寺ではないでしょうか? 地元です』


という返信があった。

「こ、ここじゃないかって」

動揺を隠しきれないまま、七穂は祈へ画面を見せた。手が震えている。

「マジじゃん! ここ、ここ! 合ってる!」

検索結果と鷹矢の写真を並べて見比べた。

「ナイスフォロワー!!」

思わずハイタッチした。

「いや、でも北海道!? 北海道……飛行機に乗らなきゃじゃん」

七穂はすぐに北海道行きの便を調べ始めた。明日の昼に乗れる便がある。

「バイトしといてよかった!!」

心から思った。

「でも……行ったところで、本当に会えるかは、分かんないよ……?」

急に冷静になった祈が、不安そうに言った。

「うん」

七穂は頷いた。

「でも、先輩の生き霊が行くって言ったんだもん。とにかく探しに行く。行って、いなかったら、また別のところを探す」

画面の中の、紫陽花を見つめる。

「生き霊が言った言葉に、意味があるって信じたい」