「ほら、おいで。朔センパイ」
「……ん」
俺を受け入れるために広げられた両腕。
俺はその両腕に、胸に抱かれるためにゆっくりと足を進める。
床に座り込んだ彼の肩に触れながら彼と向き合うように彼の膝の上へと腰を下ろす。
それはまるで、小さな子供が抱っこされるように。
────瞬間。背中に回された腕がぎゅっと俺の体を包み込む。
「ん、いい子。いい子だね、センパイ」
耳元に直接届く彼の声は少しくすぐったくて。
でも心地の良い声の低さはとても気持ちがいい。
優しく俺の頭を撫でる手は大きくて温かくて。
はじめこそ恥ずかしくて鳴り止まなかった心臓の音も、今ではいつもより少しだけ駆け足になる二つの音が重なって心地がいい。
「ふっ、可愛い」
恥ずかしげもなくそう口にする彼に、俺の心臓は一度だけ大きく跳ねる。
蕩けるような甘いその声に。
心を溶かすようなその言葉に。
昼放課。
人気のない北棟3階の一番奥の、屋上へと続くその階段をのぼった先にある踊り場に彼はいる。
階段下からは見えない死角になっている腰壁に背を預けながら俺を待つ千歳 響くんが。
そして俺、春瀬 朔は、今日も後輩の千歳くんに甘やかされている。
