大垣駅前の巨大なショッピングセンターは、多くの市民にとって幼い頃から馴染みのある場所だ。私たちが通う大垣高校からも近く、メンバーも帰りによく楽器屋やファストフード店、ファストファッション店に立ち寄っている。
このショッピングセンターの1階、駅に最も近い南側の端に今回のステージとなるオープンスペースがあった。
「お、間もなく出番だな」とチヒロはステージを指差し、足早になる。
ステージには大学生らしきバンドが演奏していて、観客はステージ前ばかりでなく、吹き抜けになっている2階にもたくさんいた。
時間は、午後3時。
このバンドの次の次が、私たちの番だ。
「水都ラベラーのみんな、久しぶりじゃない」
ステージの脇で、私たちに声をかけてきたのは、大垣南星高校の沙希。Say-Ryuという大垣南星高校のバンドのギター・ボーカルで、私たちのライバル的な存在だ。私たちと同じく今日、このステージにエントリーしていた。もう出番は終わっているはずだが、わざわざ待っていたようだ。
去年、コンテストの東海予選で私たちは3位だったが、沙希らSay-Ryuは2位で、全国大会にいった。
「聞いたよ。特別支援学校の男子をボーカルにしようとしてたんだって? 同情でポイントを稼いでコンテストを勝ち抜こうと思ったの?」
私たちは、この沙希が苦手だ。いつも、私たちに敵意むき出しで、嫌味を言ってくるからだ。
「何よ、その言い方」と梨香は沙希を睨む。
チヒロは梨香を制止して「やめろ。もうその男子は関係ない」と沙希に言う。
「あら、残念ね。まあ、そもそも、特別支援学校の生徒と一緒にやるのは無理だったのよ」と沙希は笑う。
こんな言い方をされるのが悔しくて、私は口を挟んだ。
「無理じゃない。音楽はどんな障がいの壁を乗り越えられるものであってほしい。でも、今回はうまくいかなかったけど……」
「アヤノ、そんなの偽善だよ」と沙希は冷酷に言う。
「偽善じゃない!」
「まあ、それより、今日のステージ頑張って。今度のコンテストは、絶対負けないから」
「望むところだ」とチヒロは返すと、沙希は観客エリアに行った。私たちの演奏を聴いていくのだろう。
ライバルはSay-Ryuのほかにも、いっぱいいる。このバンドたちを押しのけて、東海予選で2位以内に入らなければ、全国大会へはいけない。
今日のステージで、少しでも手応えをつかめればいいが。
十万石まつりの時は、ダンスやラップなどパフォーマンスは何でもアリだったが、今回は高校生と大学生のバンド限定だから雰囲気が全然違う。私たちは前回のようなアコースティックバージョンはやらずに、エレキのみの通常の演奏で勝負することにした。
日常で馴染みのある場所だから、リラックスできていい。
待っていたら、すぐに順番がやってきた。
「水都ラベラーさん、準備をお願いします」
音響スタッフが声をかけてきた。
準備は、ステージにあるシールドジャックという機器にシールドを差し込み、音が出るか確認するだけ。ドラムも備え付けのものを使うから、あっという間にパフォーマンスができる状態になった。
「いつでも、どうぞ」と音響スタッフは私たちに指示する。
「やるか」とチヒロが言った時、「やめなさい! ダメよ!」という女の人の大声がステージ前から聞こえてきた。
何事?
観客の人たちがザワつく。そして、観客の人混みをくぐり抜けて、誰かがステージに近付いてきた。
「ボクに、……ボクに唄わせてください!」
あの男子は!
「伊知川!」
チヒロが叫ぶ。
伊知川くんが、お母さんを無理矢理引っ張ってステージの前にきた。
こんな力強い伊知川くんの姿を見るのは初めてだ。しかし、あのお母さんは相当怒っているのが分かる。
「やめなさい、紘弥!」
「お母さん、お願い。何でダメなの?」
「約束が違うじゃないの。今日はステージを見るだけって言ったでしょ。だから、紘弥とここに来たのに、あれは嘘だったの?」
「そうでも言わないと、お母さんはここに来てくれないから……」
「前から言ってるでしょ! あの人たちと紘弥は住む世界が違うのよ。お母さんの言うことを聞きなさい」
その時、チヒロはステージのマイクで語り出す。
「私は、伊知川の本当の気持ちが知りたい。お母さんじゃない。伊知川の心の声が聞きたいんだよ!」
すると、会場は静寂に包まれた。
「分かるよ、お母さん。ボクは、障がい者だ。アヤノさん、チヒロさん、梨香さんとは違う。でも、このバンドに入ってみて、知ったんだ。音楽をするのにこの違いなんて、何も関係ないよ。ただ、ボクは、……ボクは、このメンバーと一緒に音楽がしたい! 唄いたいだけなんだ!」
「やってみたところで、自分の能力の低さを知って後悔するだけよ」
「だったら、実際にやって後悔させてほしい! 自閉スペクトラム症だからって、失敗することを禁止される人生なんて真っ平だ。傷ついてもいい。普通の高校生のように傷つきながらバンドがしたい」
「確かにあなたは歌がうまいわ。でも、それだけよ。この世にうまい人は星の数ほどいる。やめておきなさい。あなたは今まで、一度も私に逆らったことはないでしょ? どうしたの?」
その時、伊知川くんが鬼のような形相になった。
「うるさい! これはボクの人生だ! そして、ボクのイシだ!」
伊知川くんは魂を削って、親に逆らっている。きっと、親がすべて与えてくれる安全な人生から、今、飛び立とうとしているんだ。
梨香は「伊知川くん、ロックだね」と笑って、軽くハイハットを叩いて、会場を煽った。すると、チヒロも「いい男じゃないか。たまらないね」と言って、ギターのコードを小さく1回ストロークする。会場の人たちから、自然と拍手が起こった。観客も音響スタッフも、通りすがりの買い物客もすべて一体となって、伊知川くんを応援している。
「親に向かって何て言い方をするの?」
「だったら、聴いてくれよ。本当にボクに歌の可能性がないかどうか、聴いたら分かるだろ?」
「この前、十万石まつりで聴いたじゃない」
「あの日は、アコースティックバージョンしかやっていない。このバンドは、ロックがメインだ。ロックな本当の楽曲を聴いてほしい」
「勝手にしなさい」
伊知川くんの母親は、会場の最前列に立ち尽くす。
そして、伊知川くんがステージの下から、大声を張り上げた。
「お願いします。ボクは、みんなと音楽がやりたいです! 昨日、ミズキにも説得しました。もう、誰にも邪魔させない。ボクは、ロックが大好きだ!」
私たちが答えるよりも早く「やれ。やっちまえ!」と会場の人が伊知川くんに声援を送る。
チヒロは大きく舌打ちをした。そして、「遅いんだよ、戻ってくるのが! さっさとステージに上がってこい!」とマイクで叫ぶ。
まだ唄っていないのに、会場は熱狂の渦と化している。
ステージに上がってセンターマイクの前に立った伊知川くんを、私たちは順番でグータッチした。そして、チヒロがポケットから真っ黒なサングラスを取り出して、伊知川くんにかける。
「似合うじゃねえか。いいか。これをかけている間は、別人格になるって暗示をかけるんだ。やるぞ」
「はい!」
伊知川くんは笑っている。
「1曲目は『サクら』だ。聴いてくれ」とチヒロが曲紹介をすると、梨香がドラムスティックでリズムを刻み出した。私たちのステージが始まる。
この曲はイントロがなく、すぐにボーカルとギターが同時で入る。私がボーカルならキーを外してしまいがちだけど、伊知川くんには絶対音感があるから、きっと大丈夫だ。梨香が先行してリズムを刻んだ。そして、伊知川くんがマイクに向かって口を大きく開ける。
──風を伝って ボクに響く
──彼方のキミの 悲しみの調べ
──祈るしかない ボクらの唄も
──風になって キミに届くだろう
──共鳴してる 音叉のように
──離れていても シンクロできる
──散っているのに “さく”らという
──こぼれる涙も いつかさくだろう
──流星のように 舞う薄紅と重ね
──散った願いも またさくんだよ
完璧だ。
幼さを残しつつも、太くて強く、それでいてセクシーな声。
伊知川くんのお母さんは、最前列で、愛しそうに見守っていた。
やっぱり伊知川くんは、ロックの神様に愛されている。会場の一体感がハンパない。見上げると、吹き抜けになった2階にも人がびっしりと埋まっていた。
あれだけ伊知川くんと一緒にやることを否定していたSay-Ryuの沙希は、悔しそうな表情を浮かべつつも、間奏で拍手をしてくれている。
伊知川くんは、成長している。あんなに弱々しかったけれど、それでも前へ前へと歩みを進めているんだ。
チヒロの泣き叫ぶようなメロウなギターソロが、観客をさらにヒートアップさせる。
2番の入りは、練習通り、少し音量を弱くした。歌詞の内容と伊知川くんのキャラがシンクロしていく。
──弱さを恨み 弱みを隠し
──弱きを責めた 弱い自分
──強さに憧れ 強みを探し
──強くなりたくて 強がり続けた
──共鳴してる ほら一人じゃない
──鼓動と鼓動 重なりあって一つになる
──割いて配るから “さく”らという
──悦びの花びらを 分け合おう
──舞い上がる薄紅 闇を割いて
──夜明けの景色へと 変わるんだよ
ここで私のベースソロ。負けていられない。
ピックを使った得意の早弾きで、重くて低い音を天井に叩きつける。
感じる。私たちの楽曲が、すべての観客に届いているのを。
──求めるセカイが 遠いから
──共鳴を求めて 唄うんだ
──つくるからこそ “さく”らという
──ないなら一緒に つくるんだ
──時空を超えた つながりを
──まだ諦めない 薄紅の誓いにのせて
最後の伊知川くんのシャウトが、世界中に響き渡る。
やり切った!
未来を変えたような錯覚さえ感じる。
いつもでも会場からは拍手が鳴りやまなかった。
このショッピングセンターの1階、駅に最も近い南側の端に今回のステージとなるオープンスペースがあった。
「お、間もなく出番だな」とチヒロはステージを指差し、足早になる。
ステージには大学生らしきバンドが演奏していて、観客はステージ前ばかりでなく、吹き抜けになっている2階にもたくさんいた。
時間は、午後3時。
このバンドの次の次が、私たちの番だ。
「水都ラベラーのみんな、久しぶりじゃない」
ステージの脇で、私たちに声をかけてきたのは、大垣南星高校の沙希。Say-Ryuという大垣南星高校のバンドのギター・ボーカルで、私たちのライバル的な存在だ。私たちと同じく今日、このステージにエントリーしていた。もう出番は終わっているはずだが、わざわざ待っていたようだ。
去年、コンテストの東海予選で私たちは3位だったが、沙希らSay-Ryuは2位で、全国大会にいった。
「聞いたよ。特別支援学校の男子をボーカルにしようとしてたんだって? 同情でポイントを稼いでコンテストを勝ち抜こうと思ったの?」
私たちは、この沙希が苦手だ。いつも、私たちに敵意むき出しで、嫌味を言ってくるからだ。
「何よ、その言い方」と梨香は沙希を睨む。
チヒロは梨香を制止して「やめろ。もうその男子は関係ない」と沙希に言う。
「あら、残念ね。まあ、そもそも、特別支援学校の生徒と一緒にやるのは無理だったのよ」と沙希は笑う。
こんな言い方をされるのが悔しくて、私は口を挟んだ。
「無理じゃない。音楽はどんな障がいの壁を乗り越えられるものであってほしい。でも、今回はうまくいかなかったけど……」
「アヤノ、そんなの偽善だよ」と沙希は冷酷に言う。
「偽善じゃない!」
「まあ、それより、今日のステージ頑張って。今度のコンテストは、絶対負けないから」
「望むところだ」とチヒロは返すと、沙希は観客エリアに行った。私たちの演奏を聴いていくのだろう。
ライバルはSay-Ryuのほかにも、いっぱいいる。このバンドたちを押しのけて、東海予選で2位以内に入らなければ、全国大会へはいけない。
今日のステージで、少しでも手応えをつかめればいいが。
十万石まつりの時は、ダンスやラップなどパフォーマンスは何でもアリだったが、今回は高校生と大学生のバンド限定だから雰囲気が全然違う。私たちは前回のようなアコースティックバージョンはやらずに、エレキのみの通常の演奏で勝負することにした。
日常で馴染みのある場所だから、リラックスできていい。
待っていたら、すぐに順番がやってきた。
「水都ラベラーさん、準備をお願いします」
音響スタッフが声をかけてきた。
準備は、ステージにあるシールドジャックという機器にシールドを差し込み、音が出るか確認するだけ。ドラムも備え付けのものを使うから、あっという間にパフォーマンスができる状態になった。
「いつでも、どうぞ」と音響スタッフは私たちに指示する。
「やるか」とチヒロが言った時、「やめなさい! ダメよ!」という女の人の大声がステージ前から聞こえてきた。
何事?
観客の人たちがザワつく。そして、観客の人混みをくぐり抜けて、誰かがステージに近付いてきた。
「ボクに、……ボクに唄わせてください!」
あの男子は!
「伊知川!」
チヒロが叫ぶ。
伊知川くんが、お母さんを無理矢理引っ張ってステージの前にきた。
こんな力強い伊知川くんの姿を見るのは初めてだ。しかし、あのお母さんは相当怒っているのが分かる。
「やめなさい、紘弥!」
「お母さん、お願い。何でダメなの?」
「約束が違うじゃないの。今日はステージを見るだけって言ったでしょ。だから、紘弥とここに来たのに、あれは嘘だったの?」
「そうでも言わないと、お母さんはここに来てくれないから……」
「前から言ってるでしょ! あの人たちと紘弥は住む世界が違うのよ。お母さんの言うことを聞きなさい」
その時、チヒロはステージのマイクで語り出す。
「私は、伊知川の本当の気持ちが知りたい。お母さんじゃない。伊知川の心の声が聞きたいんだよ!」
すると、会場は静寂に包まれた。
「分かるよ、お母さん。ボクは、障がい者だ。アヤノさん、チヒロさん、梨香さんとは違う。でも、このバンドに入ってみて、知ったんだ。音楽をするのにこの違いなんて、何も関係ないよ。ただ、ボクは、……ボクは、このメンバーと一緒に音楽がしたい! 唄いたいだけなんだ!」
「やってみたところで、自分の能力の低さを知って後悔するだけよ」
「だったら、実際にやって後悔させてほしい! 自閉スペクトラム症だからって、失敗することを禁止される人生なんて真っ平だ。傷ついてもいい。普通の高校生のように傷つきながらバンドがしたい」
「確かにあなたは歌がうまいわ。でも、それだけよ。この世にうまい人は星の数ほどいる。やめておきなさい。あなたは今まで、一度も私に逆らったことはないでしょ? どうしたの?」
その時、伊知川くんが鬼のような形相になった。
「うるさい! これはボクの人生だ! そして、ボクのイシだ!」
伊知川くんは魂を削って、親に逆らっている。きっと、親がすべて与えてくれる安全な人生から、今、飛び立とうとしているんだ。
梨香は「伊知川くん、ロックだね」と笑って、軽くハイハットを叩いて、会場を煽った。すると、チヒロも「いい男じゃないか。たまらないね」と言って、ギターのコードを小さく1回ストロークする。会場の人たちから、自然と拍手が起こった。観客も音響スタッフも、通りすがりの買い物客もすべて一体となって、伊知川くんを応援している。
「親に向かって何て言い方をするの?」
「だったら、聴いてくれよ。本当にボクに歌の可能性がないかどうか、聴いたら分かるだろ?」
「この前、十万石まつりで聴いたじゃない」
「あの日は、アコースティックバージョンしかやっていない。このバンドは、ロックがメインだ。ロックな本当の楽曲を聴いてほしい」
「勝手にしなさい」
伊知川くんの母親は、会場の最前列に立ち尽くす。
そして、伊知川くんがステージの下から、大声を張り上げた。
「お願いします。ボクは、みんなと音楽がやりたいです! 昨日、ミズキにも説得しました。もう、誰にも邪魔させない。ボクは、ロックが大好きだ!」
私たちが答えるよりも早く「やれ。やっちまえ!」と会場の人が伊知川くんに声援を送る。
チヒロは大きく舌打ちをした。そして、「遅いんだよ、戻ってくるのが! さっさとステージに上がってこい!」とマイクで叫ぶ。
まだ唄っていないのに、会場は熱狂の渦と化している。
ステージに上がってセンターマイクの前に立った伊知川くんを、私たちは順番でグータッチした。そして、チヒロがポケットから真っ黒なサングラスを取り出して、伊知川くんにかける。
「似合うじゃねえか。いいか。これをかけている間は、別人格になるって暗示をかけるんだ。やるぞ」
「はい!」
伊知川くんは笑っている。
「1曲目は『サクら』だ。聴いてくれ」とチヒロが曲紹介をすると、梨香がドラムスティックでリズムを刻み出した。私たちのステージが始まる。
この曲はイントロがなく、すぐにボーカルとギターが同時で入る。私がボーカルならキーを外してしまいがちだけど、伊知川くんには絶対音感があるから、きっと大丈夫だ。梨香が先行してリズムを刻んだ。そして、伊知川くんがマイクに向かって口を大きく開ける。
──風を伝って ボクに響く
──彼方のキミの 悲しみの調べ
──祈るしかない ボクらの唄も
──風になって キミに届くだろう
──共鳴してる 音叉のように
──離れていても シンクロできる
──散っているのに “さく”らという
──こぼれる涙も いつかさくだろう
──流星のように 舞う薄紅と重ね
──散った願いも またさくんだよ
完璧だ。
幼さを残しつつも、太くて強く、それでいてセクシーな声。
伊知川くんのお母さんは、最前列で、愛しそうに見守っていた。
やっぱり伊知川くんは、ロックの神様に愛されている。会場の一体感がハンパない。見上げると、吹き抜けになった2階にも人がびっしりと埋まっていた。
あれだけ伊知川くんと一緒にやることを否定していたSay-Ryuの沙希は、悔しそうな表情を浮かべつつも、間奏で拍手をしてくれている。
伊知川くんは、成長している。あんなに弱々しかったけれど、それでも前へ前へと歩みを進めているんだ。
チヒロの泣き叫ぶようなメロウなギターソロが、観客をさらにヒートアップさせる。
2番の入りは、練習通り、少し音量を弱くした。歌詞の内容と伊知川くんのキャラがシンクロしていく。
──弱さを恨み 弱みを隠し
──弱きを責めた 弱い自分
──強さに憧れ 強みを探し
──強くなりたくて 強がり続けた
──共鳴してる ほら一人じゃない
──鼓動と鼓動 重なりあって一つになる
──割いて配るから “さく”らという
──悦びの花びらを 分け合おう
──舞い上がる薄紅 闇を割いて
──夜明けの景色へと 変わるんだよ
ここで私のベースソロ。負けていられない。
ピックを使った得意の早弾きで、重くて低い音を天井に叩きつける。
感じる。私たちの楽曲が、すべての観客に届いているのを。
──求めるセカイが 遠いから
──共鳴を求めて 唄うんだ
──つくるからこそ “さく”らという
──ないなら一緒に つくるんだ
──時空を超えた つながりを
──まだ諦めない 薄紅の誓いにのせて
最後の伊知川くんのシャウトが、世界中に響き渡る。
やり切った!
未来を変えたような錯覚さえ感じる。
いつもでも会場からは拍手が鳴りやまなかった。



