「それでは、これから結果を発表するのですが、その前に今回の東海予選は昨年と比べても非常にレベルが高くて驚きました。特に、どのバンドも表現の幅が広く、高校生らしいチャレンジ精神に満ちていて、いいパフォーマンスを見せていただいて感謝します」
久世さんが、マイクで総評を語る。
「これから、全国大会に出場する1位と2位を発表しますので、名前を呼ばれたらメンバー全員がステージに上がってきてください。なお、3位以降の得点や順位はこの後ロビーに張り出しますので、閉会式後にそちらを確認してください」
久世さんが、入賞者の名前が書かれた紙を見ている。
私たちは円になって全員手をつなぎ、ステージを見つめた。チヒロも梨香も伊知川くんも、顔が強張っている。
ホールの後ろにいる親たちも気が気じゃないだろう。
「信じよう」と伊知川くんは私の耳元に囁く。私は目を合わせて、頷く。
他のバンドは、目を閉じて祈っている人もたくさんいた。
「では、準優勝の発表です!」
会場は、ドラムロールのBGMが流れ、その音が終わると、会場は静寂に包まれる。
握りしめる両手に力が入った。
「準優勝は、……」
久世さんは、間を取ってなかなかバンド名を言わない。もったいぶらないで、早く言ってほしい。でないと、こっちの心が持たないよ。
あまりの間の長さに、会場がザワつき出した。
すると、久世さんは息を深く吐き出して、マイクに向かって口を開ける。
こい! 全国に行けるなら、2位でもいい。
私たちのバンド名を呼んでくれ!
「準優勝は、……The Linksです! おめでとう!」
リョウタくん?
あのバンドが2位? そんな……。
沙希の表情が暗くなった。
納得がいかない梨香は「何でよ!」と言い、チヒロは「クソっ」と声を出す。伊知川くんは、ため息をついた。
リョウタくんらThe Linksのメンバーは、笑顔でステージに上がる。そして、賞状と盾が渡された。
「The Linksはギターの代わりにピアノがいるロックバンドの良さを、十分に引き出していました。1曲目の『新しい風が吹く場所』はボーカルソロから入るアレンジも圧巻です。ピアノの技量を生かそうと、その土台となるドラムとベースが安定したプレイで引っ張りました。リーダーは、こちらのリョウタくんです。どうでしたか、今日の演奏は?」
久世さんがリョウタくんにマイクを向けた。
「はい。準備に時間がない中で、インパクトのあるものにしようとメンバーで話し合ってここまで来ました。嬉しいです!」
会場から、温かい拍手が贈られる。リョウタくんは、嬉しくて感情が爆発していた。
私たちはリョウタくんよりも沙希が気になった。沙希は、下を向きステージを見られない。自分たちのバンドを抜けてこんな成果を出されたのだから、つらいだろう。まるで自分たちが芽を摘んでいたかのような罪悪感で悩んでしまうと思う。
「切なさとポップスが混ざっていて、3曲すべて失恋ソングというラインナップでしたね?」
久世さんのインタビューは続く。
「オレ自身が恋で失敗して、……その気持ちを何とかアートにしたかったんです」
そのリョウタくんの真っすぐな気持ちが、沙希だけでなくチヒロまでも傷付けているのだ。
納得がいかないが、それは審査には関係ない。そんなことは頭では分かっていても、心がついていかない。
リョウタくんたちには、負けたくない。
「私以外の審査員からは『曲に感情が乗っていて素晴らしい』という意見や『ドラムとベースのシンクロがプロ級』といった意見もありました。ただ、バンド結成から時間が短いせいか、リーダーでボーカルでベースまで兼ねるリョウタくんが1人で背負って世界観を引っ張りすぎているのが気になったかな」
「はい。時間がない中で間に合わせたのでオレが引っ張りすぎましたが、これからはバンドのメンバーともっと話し合っていきます」
「次は、全国だね?」
「はい。サイコーのパフォーマンスで、入賞を目指します」
「改めて、大きな拍手をお願いします。準優勝のThe Linksでした。ありがとうごさいました」
全国へ行けるのは、もう1枠だけ。
水都ラベラーとSay-Ryuが揃って全国出場したい、という願いはもろくも崩れ去った。
だったら、その出場権は私たちがほしい!
沙希と黒田くんと伊藤くんが私たちの隣にやってきた。
「恨みっこなしだよ」と沙希が言う。
「当たり前だ」とチヒロは返す。
リョウタくんに翻弄された女子二人は、今、強く心が結ばれた。
ライバルは、Say-Ryuだけではない。他のバンドが優勝することも十分あり得る。
「ボクは、怖い」と伊知川くんがこぼす。バンドに入りたての頃のように、弱々しい。
「伊知川くんだけじゃないよ。みんな同じだよ」と梨香が伊知川くんの肩を叩く。
そうだ。私も怖い。怖い気持ちを隠すつもりもない。
「それではお待たせしました。最後の優勝者の発表です!」
久世さんが、力強くアナウンスする。
さあ、こい。
お願い。ロックの神様、こっちに振り向いて!
「第10回『YOKOHAMA WAVE』東海予選の映えある優勝者は、……」
また、久世さんはバンド名を言うまで、間を取る。
これが本当に心臓に悪い。
沙希は目を閉じ、手を合わせ祈っている。黒田くんと伊藤くんは、ステージを直視できず肩を組んだまま床を見ていた。
思わず私は伊知川くんの腕にしがみつく。梨香はチヒロと抱き合ってステージから目を背けた。
「優勝者は……」
えーい、もう、どうにでもなれ!
やることはやったんだ。この右手の傷がすべてだ。
ロックの神様、こっち!
私たちはこっちにいる! お願い!
「水都ラベラーです!」
あ! ええ?
今、水都ラベラーって久世さん言った?
聞き間違いじゃないよね? 私たちでいいんだよね?
呆然とするチヒロと梨香。
伊知川くんは、もう泣いている。
「おめでとう! 全員ステージに上がって来てください」
力が抜けて、思うように足が動かない。
チヒロと梨香は足早にステージへ上がるが、私は足が震えて階段をうまく登れなかった。すると、号泣している伊知川くんが私の手を取ってくれて、何とかステージに上がる。
そして、私たちは抱き合った。
全国へ行ける! メジャーデビューの夢がつながった。
伊知川くんにつられ、梨香も泣いている。私も泣けてきた。チヒロは感情を押し殺している。きっと沙希のことを思ってのことだろう。
ついさっきまで極度の緊張にあって頭の中から消え去っていたが、今さらになって右手をケガしていることを思い出した。今も痛い。
ステージの上は私たちに照明が当てられ、まぶしい。
「アヤノ、おめでとう!」と大声で叫ぶお父さんの声が聞こえた。恥ずかしい。他の親はおとなしくしているのに。
いや、でも嬉しいな。
賞状とトロフィーを私たちは受け取った。やっと、全国へ行ける。
「おめでとう! 素晴らしいパフォーマンスでした。途中、ベースの弦が切れるアクシデントがあったけど、チーム力でよく持ちこたえたね?」
久世さんは、チヒロにマイクを向けた。
「本当は、すごく焦ったけど、アヤノを信じました」
チヒロの発言を聞いて、大きな拍手が起こる。
「弦が切れたから、ライトハンド奏法をしたのかな? あれはアドリブ?」
今度は久世さんが私にマイクを向ける。
「もう、無我夢中で、アドリブでやりました」
「右手をケガした状態で、よくやれたね。ケガは大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
また拍手が起こった。
「水都ラベラーの演奏はもちろんですが、どの審査員も伊知川くんのボーカルの評価が高かったんです」と、続いては伊知川くんにマイクを向けた。
「ありがとうございます」
「実は、伊知川くんは特別支援学校生で、数カ月前に、そのことで注目されたんだけど、本人は特別扱いされるのが嫌だったんだよね?」
「はい。それが悔しくて。ちゃんと健常者と並んで評価されたかったんです」
「今日はキミの望みどおり、一切特別扱いなしで優勝をつかみ取ったよ。大きな山を乗り越えたね」
久世さんの言葉に、また伊知川くんは泣き崩れる。
「チヒロさんのギターは、抜群だね。梨香さんのドラムはチヒロさんの影響もあってか手数が多く、今大会のベストドラマーだったと思います」
「私が?」と梨香は驚く。
「いいドラムでした。水都ラベラーは個々がレベルが高く調和が取れていて、頭1つ抜け出していました。さあ、次は全国ですね?」
「必ず、入賞して、メジャーデビューしたいです」
チヒロは高らかに宣言した。
「改めて拍手をお願いします。優勝者の水都ラベラーの皆さんでした!」
拍手は鳴りやまなかった。
ステージの下にいた沙希は、泣きながらも拍手をしてくれている。複雑な気持ちになるが、これも大人になるために、きっとお互いに必要な経験なのかもしれない。
分かっている。
今日は、沙希に勝てただけだ。この先いつも勝てる訳ではない。
私は、ステージの上で堂々と伊知川くんと手をつなぐ。
ゴールはまだ、先だ。
私たちはまふしい照明で目がくらみながらも、その先に広がる景色を想像し始めていた。
久世さんが、マイクで総評を語る。
「これから、全国大会に出場する1位と2位を発表しますので、名前を呼ばれたらメンバー全員がステージに上がってきてください。なお、3位以降の得点や順位はこの後ロビーに張り出しますので、閉会式後にそちらを確認してください」
久世さんが、入賞者の名前が書かれた紙を見ている。
私たちは円になって全員手をつなぎ、ステージを見つめた。チヒロも梨香も伊知川くんも、顔が強張っている。
ホールの後ろにいる親たちも気が気じゃないだろう。
「信じよう」と伊知川くんは私の耳元に囁く。私は目を合わせて、頷く。
他のバンドは、目を閉じて祈っている人もたくさんいた。
「では、準優勝の発表です!」
会場は、ドラムロールのBGMが流れ、その音が終わると、会場は静寂に包まれる。
握りしめる両手に力が入った。
「準優勝は、……」
久世さんは、間を取ってなかなかバンド名を言わない。もったいぶらないで、早く言ってほしい。でないと、こっちの心が持たないよ。
あまりの間の長さに、会場がザワつき出した。
すると、久世さんは息を深く吐き出して、マイクに向かって口を開ける。
こい! 全国に行けるなら、2位でもいい。
私たちのバンド名を呼んでくれ!
「準優勝は、……The Linksです! おめでとう!」
リョウタくん?
あのバンドが2位? そんな……。
沙希の表情が暗くなった。
納得がいかない梨香は「何でよ!」と言い、チヒロは「クソっ」と声を出す。伊知川くんは、ため息をついた。
リョウタくんらThe Linksのメンバーは、笑顔でステージに上がる。そして、賞状と盾が渡された。
「The Linksはギターの代わりにピアノがいるロックバンドの良さを、十分に引き出していました。1曲目の『新しい風が吹く場所』はボーカルソロから入るアレンジも圧巻です。ピアノの技量を生かそうと、その土台となるドラムとベースが安定したプレイで引っ張りました。リーダーは、こちらのリョウタくんです。どうでしたか、今日の演奏は?」
久世さんがリョウタくんにマイクを向けた。
「はい。準備に時間がない中で、インパクトのあるものにしようとメンバーで話し合ってここまで来ました。嬉しいです!」
会場から、温かい拍手が贈られる。リョウタくんは、嬉しくて感情が爆発していた。
私たちはリョウタくんよりも沙希が気になった。沙希は、下を向きステージを見られない。自分たちのバンドを抜けてこんな成果を出されたのだから、つらいだろう。まるで自分たちが芽を摘んでいたかのような罪悪感で悩んでしまうと思う。
「切なさとポップスが混ざっていて、3曲すべて失恋ソングというラインナップでしたね?」
久世さんのインタビューは続く。
「オレ自身が恋で失敗して、……その気持ちを何とかアートにしたかったんです」
そのリョウタくんの真っすぐな気持ちが、沙希だけでなくチヒロまでも傷付けているのだ。
納得がいかないが、それは審査には関係ない。そんなことは頭では分かっていても、心がついていかない。
リョウタくんたちには、負けたくない。
「私以外の審査員からは『曲に感情が乗っていて素晴らしい』という意見や『ドラムとベースのシンクロがプロ級』といった意見もありました。ただ、バンド結成から時間が短いせいか、リーダーでボーカルでベースまで兼ねるリョウタくんが1人で背負って世界観を引っ張りすぎているのが気になったかな」
「はい。時間がない中で間に合わせたのでオレが引っ張りすぎましたが、これからはバンドのメンバーともっと話し合っていきます」
「次は、全国だね?」
「はい。サイコーのパフォーマンスで、入賞を目指します」
「改めて、大きな拍手をお願いします。準優勝のThe Linksでした。ありがとうごさいました」
全国へ行けるのは、もう1枠だけ。
水都ラベラーとSay-Ryuが揃って全国出場したい、という願いはもろくも崩れ去った。
だったら、その出場権は私たちがほしい!
沙希と黒田くんと伊藤くんが私たちの隣にやってきた。
「恨みっこなしだよ」と沙希が言う。
「当たり前だ」とチヒロは返す。
リョウタくんに翻弄された女子二人は、今、強く心が結ばれた。
ライバルは、Say-Ryuだけではない。他のバンドが優勝することも十分あり得る。
「ボクは、怖い」と伊知川くんがこぼす。バンドに入りたての頃のように、弱々しい。
「伊知川くんだけじゃないよ。みんな同じだよ」と梨香が伊知川くんの肩を叩く。
そうだ。私も怖い。怖い気持ちを隠すつもりもない。
「それではお待たせしました。最後の優勝者の発表です!」
久世さんが、力強くアナウンスする。
さあ、こい。
お願い。ロックの神様、こっちに振り向いて!
「第10回『YOKOHAMA WAVE』東海予選の映えある優勝者は、……」
また、久世さんはバンド名を言うまで、間を取る。
これが本当に心臓に悪い。
沙希は目を閉じ、手を合わせ祈っている。黒田くんと伊藤くんは、ステージを直視できず肩を組んだまま床を見ていた。
思わず私は伊知川くんの腕にしがみつく。梨香はチヒロと抱き合ってステージから目を背けた。
「優勝者は……」
えーい、もう、どうにでもなれ!
やることはやったんだ。この右手の傷がすべてだ。
ロックの神様、こっち!
私たちはこっちにいる! お願い!
「水都ラベラーです!」
あ! ええ?
今、水都ラベラーって久世さん言った?
聞き間違いじゃないよね? 私たちでいいんだよね?
呆然とするチヒロと梨香。
伊知川くんは、もう泣いている。
「おめでとう! 全員ステージに上がって来てください」
力が抜けて、思うように足が動かない。
チヒロと梨香は足早にステージへ上がるが、私は足が震えて階段をうまく登れなかった。すると、号泣している伊知川くんが私の手を取ってくれて、何とかステージに上がる。
そして、私たちは抱き合った。
全国へ行ける! メジャーデビューの夢がつながった。
伊知川くんにつられ、梨香も泣いている。私も泣けてきた。チヒロは感情を押し殺している。きっと沙希のことを思ってのことだろう。
ついさっきまで極度の緊張にあって頭の中から消え去っていたが、今さらになって右手をケガしていることを思い出した。今も痛い。
ステージの上は私たちに照明が当てられ、まぶしい。
「アヤノ、おめでとう!」と大声で叫ぶお父さんの声が聞こえた。恥ずかしい。他の親はおとなしくしているのに。
いや、でも嬉しいな。
賞状とトロフィーを私たちは受け取った。やっと、全国へ行ける。
「おめでとう! 素晴らしいパフォーマンスでした。途中、ベースの弦が切れるアクシデントがあったけど、チーム力でよく持ちこたえたね?」
久世さんは、チヒロにマイクを向けた。
「本当は、すごく焦ったけど、アヤノを信じました」
チヒロの発言を聞いて、大きな拍手が起こる。
「弦が切れたから、ライトハンド奏法をしたのかな? あれはアドリブ?」
今度は久世さんが私にマイクを向ける。
「もう、無我夢中で、アドリブでやりました」
「右手をケガした状態で、よくやれたね。ケガは大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
また拍手が起こった。
「水都ラベラーの演奏はもちろんですが、どの審査員も伊知川くんのボーカルの評価が高かったんです」と、続いては伊知川くんにマイクを向けた。
「ありがとうございます」
「実は、伊知川くんは特別支援学校生で、数カ月前に、そのことで注目されたんだけど、本人は特別扱いされるのが嫌だったんだよね?」
「はい。それが悔しくて。ちゃんと健常者と並んで評価されたかったんです」
「今日はキミの望みどおり、一切特別扱いなしで優勝をつかみ取ったよ。大きな山を乗り越えたね」
久世さんの言葉に、また伊知川くんは泣き崩れる。
「チヒロさんのギターは、抜群だね。梨香さんのドラムはチヒロさんの影響もあってか手数が多く、今大会のベストドラマーだったと思います」
「私が?」と梨香は驚く。
「いいドラムでした。水都ラベラーは個々がレベルが高く調和が取れていて、頭1つ抜け出していました。さあ、次は全国ですね?」
「必ず、入賞して、メジャーデビューしたいです」
チヒロは高らかに宣言した。
「改めて拍手をお願いします。優勝者の水都ラベラーの皆さんでした!」
拍手は鳴りやまなかった。
ステージの下にいた沙希は、泣きながらも拍手をしてくれている。複雑な気持ちになるが、これも大人になるために、きっとお互いに必要な経験なのかもしれない。
分かっている。
今日は、沙希に勝てただけだ。この先いつも勝てる訳ではない。
私は、ステージの上で堂々と伊知川くんと手をつなぐ。
ゴールはまだ、先だ。
私たちはまふしい照明で目がくらみながらも、その先に広がる景色を想像し始めていた。



