花が散った青い春に何の意味があるのだろうか

 仕方ないので着いて行くと、先生に椅子を勧められた。

「んで、志望校とか就職先はもう決めてるのか?」
「…まだですけど。っていうか、17年しか生きてないのに決めるのか無理じゃないですか?」
「俺に文句言われてもなぁ…。もう3年生の夏だし、早めに決めた方がいいぞ。ほら、本当はダメだけど俺の電話番号教えておくから何かあったら連絡してくれ」

 そんな言葉と共に、先生の電話番号が書かれた紙を渡される。それを鞄にしまい、しばらく無言の時間が過ぎる。
 クーラーの涼しい風が汗を冷やして何となく寒かった。先生はまだ暑いようでシャツを扇いでいる。

「…夏休み、どうするんだ?」
「まぁ大人しく勉強でもしようかと思ってます」
「そうじゃなくて。娯楽的なさ」

 どうしてここまで踏み込んでくるのか不思議だが、何となく思ったことを答える。

「あー…1人旅行とか行きたいっすね。海とか、夏ならではの所に行きたいです」

 そういえば、アイツも海が好きだったな。
 海という名前の影響か分からないが、現実の海にも変わった親近感を寄せていたようだ。一緒に行ってもいいかもしれないな。
 しかし、部屋の温度が数度下がったような違和感を感じる。机の上に向けていた視線を上げると、先生が怖い顔でこちらを見つめていた。

「ダメだ」
「は?」
「1人で遠くに行くな」
「何でですか。高校生だからとか?」

 先生の変わりように驚きながらも理由を聞く。すると、先生は驚いたような表情をして固まってしまった。

「ちょっ、なんなんですか」
「…おま、え」

 先生は何度かハクハクと口を動かした後、何かを諦めたように息を吐いた。
 そして、意を決した様に口を開いたその時だった。部屋の扉がノックもなしに開けられる。

「あ、使用中でしたか。すみません」

 どうやら他の先生も進路指導室を使おうとしていたようで、俺たちを見てすぐに謝って出て行こうとする。
 今しか逃げられないと思い、急いで立ち上がり呼び止める。

「あの!ちょうど話し終わったので使ってください!じゃあ先生、さよなら!!」
「お、おい!」

 鞄を掴んで急いで部屋を出る。連れ戻されないように息を切らしながら駐輪場まで走れば、海は先程と同じように自転車を漕いでいた。

「海!」
「ん、どしたの?」

 海の肩を掴み、思いきり揺らす。
 首を振られている海は何が起きているか分からないようで目を白黒させている。

「な、なに!?」
「俺、お前と一緒にどこか遠くに行きたい」
「はぁ!?」

 俺の言葉を聞いて、さらに困惑しようとして何故か視界が滲んだ。

「…泣いてるの?」
「え」

 海に言われて目元を拭えば、確かに濡れていた。いつの間に、どうして泣いているんだ。何の前触れもない症状に、自分でも理解が追い付かない。

「何で、泣いてんだろ」
「…疲れたんじゃない?進路とか、色々考えないといけないことあるしさ」
「海は進路決めた?」
「うーん。なりたい職業はあったんだけど、もう無理なんだよね」

 困ったように笑う海は寂しげに見えた。
 しかし、その表情の意味が分からず黙っていると海はまたいつものように笑っていた。

「そんなこと分かんないだろ」
「…そうだね」
「……そろそろ帰るか」
「うん」

 なんだかもっと海と話していたくて、自転車を押してゆっくり歩いて帰った。
 日がまだ長くて、夕焼けに染まるまで時間があるようだった。最近なかなか寝付けないことが多いから、少しだけ眠い。欠伸をすれば、海に顔を覗き込まれる。

「寝不足?」
「うーん、不眠症かもな」
「それ大丈夫?病院行った方がいいんじゃない」
「めんどい」
「またそんなこと言って」

 呆れたような顔をしているが、心配してくれているらしい。
 病院か。まぁ、前向きに考えておくか。

 何でもない話をしていれば、いつの間にかいつもの分かれ道に着いていた。

「じゃあね」
「ああ、また明日」

 その道で別れ、家に帰る。家に着けば、誰もいなかった。どうせ親は仕事だろう。
 適当に食事を済ませ、風呂に入る。今日は早めに寝ようとベッドに入ると、睡魔はすぐにやってきた。