花が散った青い春に何の意味があるのだろうか

 そんなどうでもいいことを考えながら、駐輪場に戻ると海は暑さのせいかぼーっとしていた。

「海。ほら、アイス買ってきたぞ」
「ありがと〜。大好きだよ~」
「雑。お前、それでタダにできると思うなよ」
「…やっぱり?」
「当たり前だろ」

 海の分のアイスを渡し、袋を開けて一口食べる。
 あー、冷たくて美味しい。

「最近急に暑くなってきたね」
「今年は最高気温43℃行くらしいぞ」
「やってらんないわ~」

 アイスを咥え、自転車のスタンドを立てたままカラカラと漕ぐ海は本当に暑そうで、汗をかいていた。俺よりも少し小さい体躯にはこの暑さは辛いのだろう。アイスを齧る音がやけに鮮明に響く。海はチラッとこちらを見た。

「なんだよ」
「ソーダ、美味しそうだな~」
「お前、ほんとふざけんなよ」

 言わんとすることを察してしまい、目を逸らす。
 すると意地でも食べたいようで、肩を掴んでガクガクと揺らされる。

「ねーえー、翼~!それ一口ちょうだい!」
「分かった分かった!!暑苦しいわ!!!」

 観念してアイスを差し出せば、そこそこ大きな口で食べられた。
 お前の中の一口はどんだけ大きいんだよ……。
 
 結局、半分以上食われた。

「あー、涼しかった」
「そりゃ良かったですねぇ!!」
「お、怒らないで!?一口は守ったじゃん!」
「遠慮というものを覚えなさい!」

 2人で言い合っていれば、遠くから「おーい」と誰かに呼ばれる。
 目を凝らすとクラスメイトの東条(とうじょう) 真人(まひと)だった。

「おー、真人じゃねーか!部活はー?」
「サボりー」
「おいコラ」

 遠くで話すのも疲れるため、海に断ってから駐輪場を出て真人に近づく。
 ガタイのいい体に日に焼けた肌に、運動部ならではの元気の良さを前面に出した彼は酷く眩しかった。

「いや、冗談だって。今日は放課後からグラウンド整備で休みなんだよ」
「あー、だからいつもより静かなのか」
「そういうこと」
「んで?どうしたんだ?」

 首を傾げると、何故か若干言葉を詰まらせる真人。違和感を感じたが、俺よりも早く真人が口を開いた。

「いや、特に用はないんだけどさ。翼が見えたから声掛けただけ」
「そっか」

 何だかそれだけではない気もするが、言及するほどでもないため流す。
 しばらく真人がこちらの様子を伺うような素振りを見せた後、おずおずと口を開いた。

「あのさ、」
「なんだ?」
「その、あんまり無理するなよ。アイツも弱った翼とか見たくないと思うからさ」
「え?」
「……いや、俺が言うようなことじゃなかったわ。悪かったな」
「ん?えっと…」
「じゃあ俺も帰るからさ」
「お、おう。気をつけてな」

 自転車に乗り、真人は颯爽と帰って行った。
 真人が何を言いたいのかよく分からなかったが、とりあえず海の元へ戻ることにした。

 戻ると海はまたぼーっとしていた。暑いなら水分補給でもすればいいのに。

「海」
「ん~?」
「どうした、脱水か?」
「そこは熱中症じゃないの?」
「お前が揶揄うことが目に見えてたから言わなかったんだよ」
「僕に対する信頼無いな~」

 鈴を転がすような声で笑いながら、海はスタンドを立てたまま自転車を漕いでいた。
 カラカラカラカラと際限なく回るタイヤを見つめる。夏の風が心地いい。

「戸田」
「げっ、先生…」
「そんな嫌な顔をするな」
「何でここが分かったんすか」
「お前と水谷(みずたに)はよくここに居たからな」

 クールビズなのか、先生はネクタイをしていない。しかしそれでも暑いのか、パタパタと手で顔を扇いでいた。

「……で、何か用ですか?」
「いや、特にないが……まぁ強いて言えば、進路と夏休みの予定でも聞いておこうかと思ってな」
「はい?」
「ほら、そろそろ進路も本格的に定めないとだろ?ここじゃ暑いから、クーラーがついてる進路指導室行くぞ」

 先生はこちらの返答を聞かないまま、歩き出してしまった。