花が散った青い春に何の意味があるのだろうか

 駐輪場でアイスを食べたのも、一緒に帰ったのも全部俺の幻覚だった。
 ずっと不眠気味だったのは、寝たら必ず悪夢を見てしまうから。
 急に泣いてしまったのは、心のどこかで海がもういないことを理解していたからだ。

 様々な違和感が、嫌でも繋がってしまった。

「…ちゃんとお別れできたか?」
「はい。2人で海に行ってきたんです」
「あ、遠くに行くなって言ったのに」
「でも海が行き先決めたんですよ」
「まったく」

 先生は呆れたようにため息をつく。でもどこか嬉しそうだった。

「所々イメージが崩れるせいか、夜に変なことを言っていました。でも、海は海でしたよ」
「水谷は元々変わった性格だったから、多少変でも誤差の範囲内だろ」

 そう言って2人で笑う。
 海が聞いたら怒るかもしれないが、海の性格は個性的で俺は大好きだった。

「…実はこの教室に探し物があるんです」
「探し物?」
「はい、多分海なら机の奥にくしゃくしゃ丸めて押し込んでいるはず」

 椅子を引いて机の中を覗き込む。
 机の中の物は回収されていないのか、まだ教科書などが入っていた。

 机の中の教科書を隣の机の上に出しながら奥に手を伸ばすと、紙のようなものに触れた。それを引っ張り出すと、ぐちゃぐちゃになった書類が出てきた。

 それを丁寧に広げていくと、予想通りの文字が見えた。

「『進路希望調査書』?」

 書類を覗き込んだ先生は不思議そうに首を傾げた。
 そう、俺が探していたのはこれだった。

「これを探していたのか?」
「…海は面倒だからという理由で遺書なんて遺していないと思います。だから俺は、海の進路希望調査を探しに来たんです」

 紙は書かれた部分が見られないように、半分に折られてから丸められたようだ。
 「ごめん」と断ってから紙を広げる。

「……そっか」

 散々流したはずの涙がまた溢れてくる。
 この文字を見ただけで、海がどれだけ真剣に将来を考えていたのかが分かった。

 そこには病気で長生きできないことを理解しつつも、歩みたかった進路が書かれていた。

「先生。俺、進路決めました」
「そうか」

 先生は、海がどんな進路を書いていたのか聞いてこなかった。