花が散った青い春に何の意味があるのだろうか

 少し歩き、海に着いた。
 夜の海とは違い、昨日の昼間に見た時のように穏やかに海面が揺れていた。今日は海に入ることなく、砂浜から眺めることにした。どうしても昨日から気になったことを海に聞きたい。これを聞く代償の覚悟はできていた。

「なぁ、海は後悔してるか?」
「ううん、全然。僕は幸せだよ」
「…そうか」

 海が後悔していないなら良かった。それがずっと気がかりだった。
 何を思ったのか、海がこちらを見ないまま口を開いた。

「翼はどう思った?」
「俺は…」

 答えに詰まっていると、突然目の前の海が歪む。目頭が熱くなり、視界がぼやける。
 いつの間にか泣いていた。泣く理由なんてどこにもないはずなのに。



「俺は、信じたくなかった。俺も一緒にいきたかった(・・・・・・)」



 涙が止まらない。
 泣き止もうとしても、次から次に溢れ出てくる。

「僕は幸せだよ。こんなにも僕のことを想ってくれる人がいてくれるんだもん。ありがとう」
「…」
「ねぇ、翼。約束して欲しいことがある」

 海の表情は見えない。
 ただ声色は、さいごに聞いたものと同じ優しい声だった。

「僕の翼になって、どこまでも連れて行って」
「…当たり前だろ。任せろ」

 海が笑ったその時、風が吹いた。
 強い風に思わず目を瞑る。



 風が止んで目を開けると、もうそこには誰もいなかった。

 足元を見るとここまで2人で砂浜を歩いたにも関わらず、俺1人の足跡しかなかった。


「兄ちゃん」

 どれだけ時間が経ったのか分からない。
 ボーっと海を眺めていたら、例の老人が話しかけてきた。

「…どうも」
「うん、冷静になったな」
「その節はすみません」
「別にいいさ」

 老人は笑って夜のことを許してくれた。

「昨日、お前さんは『海は生きている』と言ったな」
「あ、いや、あれは…」
「…わしも海は生きていると思うぞ。海はいつでも、何でも誰でも受け入れる。だからお前さんも何かあったらまた来るといい。次は誰かと一緒にな」
「…はい」

 老人はそう言うと去って行った。


 それを見送ってからスマホを取り出し、ある電話番号を打ち込んだ。

「もしもし、先生。ちょっと頼みごとがあります」