花が散った青い春に何の意味があるのだろうか

 高校の6限なんて、しっかり聞いているわけがない。
 少なくとも俺は窓の外で騒いでいる隣のクラスの女子の方が興味ある。窓側の席の特権で、体育をしている女子を眺めていればため息と共に名前を呼ばれた。

「おい、戸田(とだ)。ちゃんと授業聞け」
「こんな状況で集中できないっすよ」

 雑に軽く返すと、教師は渋い顔をしつつも諦めたように黒板へと向き直った。

(お、なんだ? 今日はやけに引き下がりが早いな)

 いつもなら『そんなことを言わずに、この問題の答えを黒板に書きに来い』とでも言い出すところだ。お咎めが一切ないとは、どういうことだろう。明日は槍でも降るのだろうか。

 そんなことを考えている内にチャイムが鳴り響いた。級長の号令に合わせ、面倒臭そうに起立と礼を済ませる。担任の授業だったこともあり、ホームルームはあっさりと終わってくれた。
 俺は教科書を詰めた鞄を持ち、幼馴染の(うみ)を待つために昇降口に向かった。鈍臭いアイツのことだからもう少し時間はかかると思うけど。

「ごめん(つばさ)〜、やっと終わった…」

 スマホをいじって待っていれば、小走りに海はやってきた。海の軽く結ってある髪は急いだからなのか、ほとんど解けかけてしまっている。

「髪、解けかけてる」
「え、ほんとじゃん。結んでー」
「待たせておいてそれか?」
「…自分で結びまーす」

 海は口を尖らせながらも結び直す。それを待ちながら欠伸をしていると、やけに不躾な声が聞こえた。

「ねえ、あれ…」
「やばいって」

 昇降口で話しているだけなのに、なぜかヒソヒソと耳打ちをし始める女子たち。明らかにこちらを見ている様子に顔を顰めれば、すっかり髪を結び終えた海がきょとんと首を傾げた。

「どうかした?」
「…いや、何もない。結び終わったか?」
「うん!」 

 変なものを見る目を向けてくる女子たちから逃げるように駐輪場へ向かう。
 なんだよ、あんな異物を見るような…。少なくとも、人に向けるような目ではなかった。

(海のことか?だとしたって、何で今更…)

 海が好んで中性的な格好をしていることは周知の事実だ。
 最初こそは変な目を向けてくる輩も多かったが、それもここ最近では減ったはず。今更何の用でそんな目を向けてくるのだろうか。

 そんな仄暗い感情をモヤモヤを抱えていた時、目の前で急に手を振られた。

「うおっ!なんだよ!」
「やっぱり話聞いてなかった」

 少しふて腐ったように頬を膨らませる海に、小さく謝る。しかし本人は気にしていない素振りで、元気よく口を開いた。

「ねえ、アイス食べない?」
「急すぎないか?」
「だって暑いもん。今、僕のことを無視した詫びで翼の奢りね」

 確かにもう7月だ。
 暑いのは分かるけど、奢りはあまりにも理不尽じゃないか?

「ねーお願い〜」
「お前はめんどくさい彼女か」
「そういえば、翼の元カノってメンヘラばっかりだよね」
「そうそう…って何で海が俺の元カノ知ってんだよ。…誰から聞いた?」
「内緒♡」
「きしょいからやめてくれ」

 顔を顰めはするものの、正直この軽快なやり取りは心地よいものがある。
 
「えー…でもアイスは本当に食べたいから買ってきて」
「人件費は?」
「がめつい男は嫌われるよ?」
「海に好かれてればいいわ」
「え、本当に僕のこと好きなの?」
「どうだ、ゾッとしたか?」
「翼からの愛情で暑いからアイス買ってきて」
「……くっそ負けたわ」

 渋々購買に向かうも海は着いてくる様子はなく、ひらひらと手を振っていた。本気でパシる気かよ。人件費たっぷり貰うからな。
 鞄を海に預け、購買に向かう。購買のおばちゃんにアイスを2つ渡して会計をお願いする。

「はい、ありがとうね。今日も暑いから気をつけて部活頑張るんだよ」
「ありがとうございます」

 あの優しそうな目はきっと運動部でもやってると思われたかもしれないが、生憎こっちは帰宅部所属。
 なんなら、これからいつも通り活動してる部活が終わるぐらいの時間まで駄弁り続けるから帰宅部の活動もしていないけど。