Embrace it all―重なり合う二つの愛―

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 今回は、亞紗斗が梨歩にプロポーズしたときに渡した指輪が完成するまでの物語です。

 亡くなった梨歩の恋人・涼平が指輪の制作を依頼する場面は、『君という夢を描いて』の中でも印象深いシーンの一つです。

 今回、この物語を書くにあたり、

「亞紗斗が訪れたショップで対応してくれたスタッフが、あの花岡さんだった」

 という場面にどうしても繋げたくて、花岡さんに再登場していただきました。

 涼平が梨歩に遺した指輪ができるまでの経緯を、唯一知っている第三者。

 そして数年後。
 未来の婚約者となる亞紗斗が、涼平との記憶を梨歩から奪うことなく、上書きすることもなく、涼平の指輪に寄り添うデザインの指輪を依頼する――。

 過去と未来をつなぐ橋渡しのような役目を担えるのは、花岡さんしかいない。

 というわけで、花岡さんにはもう一度、一世一代の重要なお仕事をしていただきました。

 涼平はセミオーダー。
 亞紗斗はフルオーダー。

 二人とも、それぞれの想いを込めて梨歩のために作った、世界に一つだけの指輪です。

 その二つが梨歩の左手で重なり合ったとき。

 二つで一つの、究極の愛の象徴が完成する。

 一つは、梨歩が愛された証。
 もう一つは、未来の約束。

 こんな愛され方をされた梨歩、羨ましすぎます。

 『Embrace it all』は、

 ―すべてを抱いて、生きていく―
 ―重なり合う二つの愛―
 ―夢の続きを描いて―
 ―未来の旋律―

 と、時系列に沿って副題を繋げていくと、一つの大きな物語になっています。

 そして【番外編】―俺の姉―でも描きましたが、実は亞紗斗は双子として生まれており、誕生からわずか数時間で亡くなった姉がいます。

 大切な人を亡くした経験という意味では、梨歩との共通点でもあります。

 ただ、当時の亞紗斗はあまりにも幼く、姉を失ったという実感を持つことができませんでした。

 けれど、その話を梨歩にしたあと。

 梨歩が初めて姉の名前を呼んだ瞬間、亞紗斗は初めて、自分にも確かに姉がいたのだと感じることができた。

 自分自身には実感のなかった喪失を、梨歩によって初めて感じる。

 その経験もまた、亞紗斗が梨歩の抱えている過去や想いを「なかったこと」にするのではなく、すべて受け入れようとする愛へ繋がっていったのかもしれません。

 涼平の愛も。
 亞紗斗の愛も。
 亡くなった人への想いも。
 これから生まれていく新しい家族への想いも。

 どれか一つを消さなければ、次へ進めないわけではない。

 過去も未来も、たった一つの幸せな未来へと繋がっていく輪のように。

 誰かが遺した想いは、決して消えることなく、形を変えながら次の誰かへ受け継がれていく。

 それが、この『Embrace it all』という物語で描きたかったものなのだと思います。

 過去を忘れることではなく。
 過去だけに留まり続けることでもなく。

 過去も、今も、これから訪れる未来も。
 そのすべてを抱いて、生きていくこと。

 このシリーズを通して、そんな「すべてを受け入れる愛」の尊さが、少しでも伝わっていたら嬉しいです。