貴斗くんは玲くんが気になる

 待ちに待った修学旅行まで、あと一週間。

 楽しみのはずなのに今日は一日、ほとんど上の空で過ごしていたと思う。

 それもこれも、いつものように頼まれた事を要領よくできないからで。

「ほんと……何してんだろ」

 はぁ、と腹の底から息を吐く。

 午前の授業終わり、何限目かは忘れてしまったけど休み時間に頼まれ事をした。

『ごめん玲、これ教室持っていってくんね?』

 トイレから教室に戻ろうとしてる途中、後ろから呼び止めらて振り向くと、大量のノートを両手に運んでいたクラスメイトの男子が申し訳なさそうにそう言った。

 二クラス分はあろうかって量で、さすがに可哀想だったから一つ返事で頷いた。

 でも、本当の問題はその後。

『よい、しょ……っわ、あ……!?』

 上から半分くらいのノートを受け取ろうとしてると、つるっと面白いくらい手が滑って、そのまま廊下に取り落とした。

 廊下にはまだちらほら人が居たから、ノートを拾うのを何人かが手伝ってくれた。

『あ、ありがと……ごめん』

 俺は俺で注目されたのが恥ずかしくて、お礼だか謝罪だかどっちを先に言ったのか分からないけど、終始顔を俯けて教室に戻ったのが数時間前。

 たった一度、それこそ他の人にとっては『仕方ない』で済ませられる、ごく小さな失敗なのかもしれない。

 でも、俺からしたらその『一度』が大きいわけで。

 完璧にやろうとしたら、必ずどこかで失敗する。昔から注目されるのが苦手なのに、よくやるよな俺も。

「……はぁ」

 今度は深く長く、それこそ息が続かなくなるまで、お腹に溜まったモヤモヤごと吐き出した。

 みんな気にしてなかった、よなぁ。

 にこにこ笑ってて、でもその顔を見るのが怖くて。

 その時から昼休みはもちろん、午後の授業を終えて放課後になるまで、極力気配を消していた。

 だってまた、みんなに『笑われる』のが嫌だから。

「……こんな気にしてるって知られたら、絶対笑われるだろ」

 はは、と自嘲じみた笑いが口から漏れる。

 もう家に帰るだけだっていうのに、こんなにネガティブだったら母さんに心配されるだろうな。

 せめてどこかで時間を潰せたら、もしくは楽しい事があったらいいけど……家の近くに遊べる所はあんまりないし。

 駅、戻ろうかな。でも同級生と会うかもだし、もし会ったら気まずいな。

「あ」

 そこでピンとひらめく。

 あるだろ、ちょうどいい場所!

 そうと決まったら早く行かないと、なんて気持ちに()かされるように、俺はある場所──家の近くの公園に足を向けた。