「──なんや、色んなもん引き受けとんな」
五限目の休み時間、貴斗が俺の前の席に気だるそうに座って、俺に身体を向けながら言った。
「ほ、ほう……?」
俺は昼休みに食べそびれたメンチカツサンドにかぶり付きながら、短く声を上げる。
ソースの匂いが鼻から抜けて、メンチカツもしっかり味が付いていて美味しくて……飲み込んでからもう一口食べる前に、ほとんど反射で貴斗を見た。
まっすぐに見つめてくる瞳は茶色がかっていて、やや色素の薄い髪色も相まって『黙っていたら』それこそ人形か何かに見える。
でも口を開けば関西弁で明るくて、みんなのムードメーカー的存在で。
俺とは性格も見た目も対照的なのに、時々心配したふうに話し掛けてくる。
「いや、自分で気付いとるやろ。昼のアレ見とったけど、くっちゃべっとる俺らに言ったらすぐ終わるやろ……俺も気付くん遅なったのはすまんけど、にしてもなんかあるやん」
「へ、え……あ、うん」
一応そこは他の人、女子の席なんだけど──なんて指摘しようとした声は頭から抜け落ちて、代わりに出たのは自分でも驚くくらい曖昧な声だった。
いつも思うけど、ふざけてる時を抜きにしても、貴斗が怒ってる時は方言がキツくなって早口になる。
だからか半分くらいしか聞き取れなくて、でもなぜか貴斗が本気で怒ってるのだけはよく分かった。
そもそも仲良くなったのは入学式で、ちょうど貴斗と隣りの席になったから。
その時、身振り手振りを交えて『中学まで関西の方に住んでたから、方言がまだ抜けてない』って教えてくれた。
俺はただ相槌を打ってるだけだったけど、その日以降貴斗は毎日話し掛けてくれてたな。
いつしか貴斗とは親友みたいになって、でも二年に進級してから同じクラスになったら何日かに一度話すだけ。
元々明るい人だったから新しいクラスでもすぐに打ち解けて、気付いたら最初に仲良くなった俺よりもたくさんの友達が出来ていて……あ、駄目だ。落ち込まないようにしなきゃ。
気を抜くとすぐネガティブになるのを誤魔化すように、俺はまたひと口、メンチカツサンドを頬張る。
……あれ、でもさっきよりあんまり味しない。
なんでだろう、と思っていると、やや口調が柔らかくなった貴斗の声がしっとりと響いた。
「お前、クラスメイトだけやなしに後輩やら先輩やら、場合によちゃセンセの頼み事も引き受けとるやん。特に上村センセ。あの人、玲のこと気に入っとるんか嫌っとるんか分からんわぁ」
なんて言いながら、貴斗は俺の机で軽く頬杖をつく。
自然と上目遣いで俺を見る形になって、なんだかめちゃくちゃ食べにくい。
「……けどな、無理したらあかんで、ほんま。じーっと見とったら危なっかしいし」
はぁ、と呆れ混じりに貴斗が溜め息を一つ吐く。
心配性なのは健在みたいで安心したけど、これ以上心配を掛けないように淡く口角を上げた。
「だ、大丈夫! 俺が好きでやってるだけだし。それに、俺なんかに言ってくれるの嬉しいから。だから──」
だから出来るだけ頼られたい、って言いかけて
止める。
だって貴斗が真剣な目で俺を見ていて、ふざけるのは許さないって顔をしていたから。
「……なるほど、なぁ」
貴斗には珍しく低く言いながら、ずいと顔を近付けてきた。
「っ、なに…!?」
いきなり近付かれたら怖いんだけど!?
俺はメンチカツサンドを落とさないように気を付けなから、ほんの少しだけ椅子を後ろに引く。
けれどそれ以上近付く気はないみたいで、ややジト目になりながら貴斗が口を開いた。
「前から思っとんやけど、俺がなんか『お願い』したら手伝ってくれるん」
きらりと貴斗のピアス──昼休みの時より少しマシになったけど、まだ腫れてる耳朶が目に入った。
つんと尖った唇が少し拗ねたみたいで可愛くて、でも俺はそろりと視線を逸らす。
「……いい、よ。何するの?」
メンチカツサンドに目を向けたまま、なんとかそれだけを口にする。
正直、貴斗から頼み事をされるなんて思わなかったけど、もし困ってるのなら力になりたい。
そう思うのに、ここ最近は貴斗に見つめられると心臓が全力疾走した時みたいに早鐘を打つ。
……病気、なのかな。俺、本当に無理してないんだけど。
次第に顔だけじゃなくて身体が熱くなってきて、これ以上は貴斗の顔を見られない気さえした。
「──やっぱええわ。すまん、今の忘れてくれへん?」
「っ」
ふと一際明るい声が聞こえたかと思ったら、反射的に俺が顔を上げるよりも早く、貴斗が席を立つ気配がした。
「ちょ、保健室行ってくるわ。化膿してもーたら困るし」
そう他のクラスメイトに言いながら、貴斗がのんびりと教室を出ていくのが目に入る。
「……へ」
俺はまだ半分くらい残ってるメンチカツサンドを食べるのも忘れて、貴斗がいなくなったドアを見つめた。
なんだったんだアレ。本気か冗談か、もしくは遊ばれてるのか……貴斗の考えてる事が分からない。
でも貴斗が一瞬だけ見せた真剣な顔は頭に残っていて、休み時間の間にメンチカツサンドを食べるのも忘れて、しばらく貴斗が出て行ったドアから目を離せなかった。
五限目の休み時間、貴斗が俺の前の席に気だるそうに座って、俺に身体を向けながら言った。
「ほ、ほう……?」
俺は昼休みに食べそびれたメンチカツサンドにかぶり付きながら、短く声を上げる。
ソースの匂いが鼻から抜けて、メンチカツもしっかり味が付いていて美味しくて……飲み込んでからもう一口食べる前に、ほとんど反射で貴斗を見た。
まっすぐに見つめてくる瞳は茶色がかっていて、やや色素の薄い髪色も相まって『黙っていたら』それこそ人形か何かに見える。
でも口を開けば関西弁で明るくて、みんなのムードメーカー的存在で。
俺とは性格も見た目も対照的なのに、時々心配したふうに話し掛けてくる。
「いや、自分で気付いとるやろ。昼のアレ見とったけど、くっちゃべっとる俺らに言ったらすぐ終わるやろ……俺も気付くん遅なったのはすまんけど、にしてもなんかあるやん」
「へ、え……あ、うん」
一応そこは他の人、女子の席なんだけど──なんて指摘しようとした声は頭から抜け落ちて、代わりに出たのは自分でも驚くくらい曖昧な声だった。
いつも思うけど、ふざけてる時を抜きにしても、貴斗が怒ってる時は方言がキツくなって早口になる。
だからか半分くらいしか聞き取れなくて、でもなぜか貴斗が本気で怒ってるのだけはよく分かった。
そもそも仲良くなったのは入学式で、ちょうど貴斗と隣りの席になったから。
その時、身振り手振りを交えて『中学まで関西の方に住んでたから、方言がまだ抜けてない』って教えてくれた。
俺はただ相槌を打ってるだけだったけど、その日以降貴斗は毎日話し掛けてくれてたな。
いつしか貴斗とは親友みたいになって、でも二年に進級してから同じクラスになったら何日かに一度話すだけ。
元々明るい人だったから新しいクラスでもすぐに打ち解けて、気付いたら最初に仲良くなった俺よりもたくさんの友達が出来ていて……あ、駄目だ。落ち込まないようにしなきゃ。
気を抜くとすぐネガティブになるのを誤魔化すように、俺はまたひと口、メンチカツサンドを頬張る。
……あれ、でもさっきよりあんまり味しない。
なんでだろう、と思っていると、やや口調が柔らかくなった貴斗の声がしっとりと響いた。
「お前、クラスメイトだけやなしに後輩やら先輩やら、場合によちゃセンセの頼み事も引き受けとるやん。特に上村センセ。あの人、玲のこと気に入っとるんか嫌っとるんか分からんわぁ」
なんて言いながら、貴斗は俺の机で軽く頬杖をつく。
自然と上目遣いで俺を見る形になって、なんだかめちゃくちゃ食べにくい。
「……けどな、無理したらあかんで、ほんま。じーっと見とったら危なっかしいし」
はぁ、と呆れ混じりに貴斗が溜め息を一つ吐く。
心配性なのは健在みたいで安心したけど、これ以上心配を掛けないように淡く口角を上げた。
「だ、大丈夫! 俺が好きでやってるだけだし。それに、俺なんかに言ってくれるの嬉しいから。だから──」
だから出来るだけ頼られたい、って言いかけて
止める。
だって貴斗が真剣な目で俺を見ていて、ふざけるのは許さないって顔をしていたから。
「……なるほど、なぁ」
貴斗には珍しく低く言いながら、ずいと顔を近付けてきた。
「っ、なに…!?」
いきなり近付かれたら怖いんだけど!?
俺はメンチカツサンドを落とさないように気を付けなから、ほんの少しだけ椅子を後ろに引く。
けれどそれ以上近付く気はないみたいで、ややジト目になりながら貴斗が口を開いた。
「前から思っとんやけど、俺がなんか『お願い』したら手伝ってくれるん」
きらりと貴斗のピアス──昼休みの時より少しマシになったけど、まだ腫れてる耳朶が目に入った。
つんと尖った唇が少し拗ねたみたいで可愛くて、でも俺はそろりと視線を逸らす。
「……いい、よ。何するの?」
メンチカツサンドに目を向けたまま、なんとかそれだけを口にする。
正直、貴斗から頼み事をされるなんて思わなかったけど、もし困ってるのなら力になりたい。
そう思うのに、ここ最近は貴斗に見つめられると心臓が全力疾走した時みたいに早鐘を打つ。
……病気、なのかな。俺、本当に無理してないんだけど。
次第に顔だけじゃなくて身体が熱くなってきて、これ以上は貴斗の顔を見られない気さえした。
「──やっぱええわ。すまん、今の忘れてくれへん?」
「っ」
ふと一際明るい声が聞こえたかと思ったら、反射的に俺が顔を上げるよりも早く、貴斗が席を立つ気配がした。
「ちょ、保健室行ってくるわ。化膿してもーたら困るし」
そう他のクラスメイトに言いながら、貴斗がのんびりと教室を出ていくのが目に入る。
「……へ」
俺はまだ半分くらい残ってるメンチカツサンドを食べるのも忘れて、貴斗がいなくなったドアを見つめた。
なんだったんだアレ。本気か冗談か、もしくは遊ばれてるのか……貴斗の考えてる事が分からない。
でも貴斗が一瞬だけ見せた真剣な顔は頭に残っていて、休み時間の間にメンチカツサンドを食べるのも忘れて、しばらく貴斗が出て行ったドアから目を離せなかった。



