「──でさぁ」
「ねぇねぇ、この動画知ってる?」
昼下がりの教室、楽しそうに友達と話す声を右から左に聞き流しながら、俺は黙々と机に向かっていた。
というのも二週間後、三泊四日の修学旅行が始まる。
二日目にはテーマパークに行くらしくて、近いうちに周辺のマップが学年全員に配布されるみたいだけど、問題は一人分のしおりの量が多いことだった。
クラスの数が多いから、負担軽減をするためにクラスごとにしおりを作る係を決める事になったのが、つい先週の金曜日。
でも三十五人分のしおりを作るのが面倒、という理由で誰もやりたがらないからか、他のクラスに比べて中々決まらなかったっけ。
そんな時間に焦れた担任が即席のクジを作って、無事にしおり作り担当に選ばれた男──三山が俺の所に来たのは二十分くらい前。
奇跡的に購買で買って、食べるのを楽しみにしてた極厚メンチカツサンドを食べようか、って時の事。
『ごめん玲! 今日までにやっとくのすっっっっかり忘れてて……手伝ってくれ、この通り!』
パンッと顔の前で手を合わせて、なんなら土下座でもしそうな勢いで頼まれた。
そういえば、午後から修学旅行のしおりを配布するって担任が朝言ってたような……なんて思いながら、俺はひとつ返事で頷く。
『いいよ、二人だったらすぐ終わるし。頑張ろ』
『ありがと玲〜!』
三山は涙目になりながら笑顔を見せて、俺は俺でメンチカツサンドを一旦カバンに閉まってから十五分。
三山が持ってきたプリントの束は分厚くて、十センチ近くありそうだった。
A5サイズだから半分に折ってからまとめて、二箇所をホッチキスで留めるという、シンプルだけど面倒くさいやつ。
……こういう単純な作業、確かに三山の不得手かも。かといってちゃんとクジで決まったから、『嫌です』って言わなかったのは三山の意地かもだけど。
『このままじゃお昼食べれないかもだし、先食べていいよ』
五分前、俺のひと声で三山には先に休憩してもらった。
俺はお昼を食べられるかどうか分からないけど、三山は午後から部活があるから、昼ご飯を食べなかったらパフォーマンスが悪くなる。
それに、せっかく三山が俺を頼ってくれたから、三山がいない分は俺が頑張らないと。
ちらりと机に広げられた大量のプリントに視線を移すと、最初に比べて結構減っていた。
最初の数分は俺もプリントを折るのを手伝ってから、三山がプリントを半分に折る担当。
それ以降は俺がプリントを重ねてホッチキスで留めていって、慣れると段々早くなっていったから残り数人分しかないかも。
幸いにも全部のプリントを折っていってくれたから、あとは俺が綺麗に重ね合わせて留めるだけ。
パチン、パチン、と一定のリズムでホッチキスを留めていく。
普段ホッチキスを使わないから、ちょっと不格好になったけど……大丈夫かな。
留める位置が少し斜めになってしまったり、そもそも留めるのを失敗してやり直さないとだったり、まぁ手作り感ある方がいいよね。
「──い、玲ー?」
うん、そう思おう──なんて自分に思い込ませていた時、廊下から何度か俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「うん……?」
声がした方を見てみると、隣りのクラスの結城が申し訳なさそうにドアから半分だけ顔を覗かせている。
「はーい、どしたー?」
一旦プリントの上にホッチキスを置いて、すぐさま立ち上がる。
なんだろう、俺なんかしたかな?
ちょっと心配になったけど、待たせちゃうのも悪いから小走りで廊下側のドアに向かった。
「ごめんなんだけど、ノート見せてくんね? 一昨日の授業寝ててさ。オレと同じ選択科目なの、一番近いクラスだと玲しかいないから」
な、この通り! と結城が顔の前で手を合わせてくる。
あー……確かに寝てたかも、プール終わりだったもんね。
「いいよ、ちょっと待ってて」
その時の結城の姿を思い出すと笑えてきて、でも俺は自然なふうに微笑んだ。
「マジ? やりぃ、サンキュー玲!」
「これくらいで大袈裟だなぁ」
文字通り結城は喜びのダンスでも踊りそうな勢いで、今度は堪えきれず小さく笑ってしまう。
俺はまた小走りで自分の席に戻って、選択科目のノートを結城に渡した。
「次の時間なったら返しにいくわ、サンキュな」
「うん、待ってる」
もう一度お礼を言う結城に軽く手を振って、また小走りで席に戻る。
……あ。
「──そんでな、開けたとこ痛いんよ」
自分の席に戻る途中、笑いながら友達に向けて右耳を見せる貴斗とほんの一瞬だけ目が合った。
でも俺はもちろん貴斗もすぐに目を逸らして、俺も残り一部のしおりを終わらせるために席に戻る。
「ほら真っ赤やろ、ここら辺」
「うわぁ……痛そ。ちゃんと冷やしてんの?」
「……おー。けど失敗したかもしれん、今から保冷剤もらってこよかな」
丁寧に半分に折ったプリントの端と端を重ねて、左右等間隔に二回ずつホッチキスの芯を留める。
その間、やけに貴斗がクラスメイトと話す声が大きく聞こえてきた。
さっきまで気にならなかったのになんでだろ、目の前に三山が座ってたからかな?
もしくは右上に貴斗たちが居るから、声の大きさもあって視界に入りやすいのかもしれない。
黙々とプリントを重ねてはホッチキスで留めて、を何回か繰り返していると、やがて昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「ふぅ……」
でもその少し後、最後のしおりを作り終わって、俺は間に合った達成感やら集中していた疲労感やらで、腹の底から息を吐き出す。
……よし、一応全員分終わった。
軽く後ろに仰け反るように背凭れに身体を預けながら、俺の頭の中に浮かぶのはただ一つ。
メンチカツサンド、昼の間に食べられなかったなぁ。
さすがに今から食べようにも分厚くて大きいから、食べきるのに五分は掛かると思う。
今食べられないのは心残りだけど、困ってるクラスメイトの役に立てたと思ったら、空腹以上の達成感で胸がいっぱいになる。
「次の授業、何するんだっけ」
五限目は普通に授業を受けて、六限目からは修学旅行関係の説明、だったかな。
次第に自分の席に戻っていくクラスメイトを見ながら、俺はぼんやりと思った。
……やっぱり、ここ何日かは貴斗とよく目が合う。
「ねぇねぇ、この動画知ってる?」
昼下がりの教室、楽しそうに友達と話す声を右から左に聞き流しながら、俺は黙々と机に向かっていた。
というのも二週間後、三泊四日の修学旅行が始まる。
二日目にはテーマパークに行くらしくて、近いうちに周辺のマップが学年全員に配布されるみたいだけど、問題は一人分のしおりの量が多いことだった。
クラスの数が多いから、負担軽減をするためにクラスごとにしおりを作る係を決める事になったのが、つい先週の金曜日。
でも三十五人分のしおりを作るのが面倒、という理由で誰もやりたがらないからか、他のクラスに比べて中々決まらなかったっけ。
そんな時間に焦れた担任が即席のクジを作って、無事にしおり作り担当に選ばれた男──三山が俺の所に来たのは二十分くらい前。
奇跡的に購買で買って、食べるのを楽しみにしてた極厚メンチカツサンドを食べようか、って時の事。
『ごめん玲! 今日までにやっとくのすっっっっかり忘れてて……手伝ってくれ、この通り!』
パンッと顔の前で手を合わせて、なんなら土下座でもしそうな勢いで頼まれた。
そういえば、午後から修学旅行のしおりを配布するって担任が朝言ってたような……なんて思いながら、俺はひとつ返事で頷く。
『いいよ、二人だったらすぐ終わるし。頑張ろ』
『ありがと玲〜!』
三山は涙目になりながら笑顔を見せて、俺は俺でメンチカツサンドを一旦カバンに閉まってから十五分。
三山が持ってきたプリントの束は分厚くて、十センチ近くありそうだった。
A5サイズだから半分に折ってからまとめて、二箇所をホッチキスで留めるという、シンプルだけど面倒くさいやつ。
……こういう単純な作業、確かに三山の不得手かも。かといってちゃんとクジで決まったから、『嫌です』って言わなかったのは三山の意地かもだけど。
『このままじゃお昼食べれないかもだし、先食べていいよ』
五分前、俺のひと声で三山には先に休憩してもらった。
俺はお昼を食べられるかどうか分からないけど、三山は午後から部活があるから、昼ご飯を食べなかったらパフォーマンスが悪くなる。
それに、せっかく三山が俺を頼ってくれたから、三山がいない分は俺が頑張らないと。
ちらりと机に広げられた大量のプリントに視線を移すと、最初に比べて結構減っていた。
最初の数分は俺もプリントを折るのを手伝ってから、三山がプリントを半分に折る担当。
それ以降は俺がプリントを重ねてホッチキスで留めていって、慣れると段々早くなっていったから残り数人分しかないかも。
幸いにも全部のプリントを折っていってくれたから、あとは俺が綺麗に重ね合わせて留めるだけ。
パチン、パチン、と一定のリズムでホッチキスを留めていく。
普段ホッチキスを使わないから、ちょっと不格好になったけど……大丈夫かな。
留める位置が少し斜めになってしまったり、そもそも留めるのを失敗してやり直さないとだったり、まぁ手作り感ある方がいいよね。
「──い、玲ー?」
うん、そう思おう──なんて自分に思い込ませていた時、廊下から何度か俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「うん……?」
声がした方を見てみると、隣りのクラスの結城が申し訳なさそうにドアから半分だけ顔を覗かせている。
「はーい、どしたー?」
一旦プリントの上にホッチキスを置いて、すぐさま立ち上がる。
なんだろう、俺なんかしたかな?
ちょっと心配になったけど、待たせちゃうのも悪いから小走りで廊下側のドアに向かった。
「ごめんなんだけど、ノート見せてくんね? 一昨日の授業寝ててさ。オレと同じ選択科目なの、一番近いクラスだと玲しかいないから」
な、この通り! と結城が顔の前で手を合わせてくる。
あー……確かに寝てたかも、プール終わりだったもんね。
「いいよ、ちょっと待ってて」
その時の結城の姿を思い出すと笑えてきて、でも俺は自然なふうに微笑んだ。
「マジ? やりぃ、サンキュー玲!」
「これくらいで大袈裟だなぁ」
文字通り結城は喜びのダンスでも踊りそうな勢いで、今度は堪えきれず小さく笑ってしまう。
俺はまた小走りで自分の席に戻って、選択科目のノートを結城に渡した。
「次の時間なったら返しにいくわ、サンキュな」
「うん、待ってる」
もう一度お礼を言う結城に軽く手を振って、また小走りで席に戻る。
……あ。
「──そんでな、開けたとこ痛いんよ」
自分の席に戻る途中、笑いながら友達に向けて右耳を見せる貴斗とほんの一瞬だけ目が合った。
でも俺はもちろん貴斗もすぐに目を逸らして、俺も残り一部のしおりを終わらせるために席に戻る。
「ほら真っ赤やろ、ここら辺」
「うわぁ……痛そ。ちゃんと冷やしてんの?」
「……おー。けど失敗したかもしれん、今から保冷剤もらってこよかな」
丁寧に半分に折ったプリントの端と端を重ねて、左右等間隔に二回ずつホッチキスの芯を留める。
その間、やけに貴斗がクラスメイトと話す声が大きく聞こえてきた。
さっきまで気にならなかったのになんでだろ、目の前に三山が座ってたからかな?
もしくは右上に貴斗たちが居るから、声の大きさもあって視界に入りやすいのかもしれない。
黙々とプリントを重ねてはホッチキスで留めて、を何回か繰り返していると、やがて昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「ふぅ……」
でもその少し後、最後のしおりを作り終わって、俺は間に合った達成感やら集中していた疲労感やらで、腹の底から息を吐き出す。
……よし、一応全員分終わった。
軽く後ろに仰け反るように背凭れに身体を預けながら、俺の頭の中に浮かぶのはただ一つ。
メンチカツサンド、昼の間に食べられなかったなぁ。
さすがに今から食べようにも分厚くて大きいから、食べきるのに五分は掛かると思う。
今食べられないのは心残りだけど、困ってるクラスメイトの役に立てたと思ったら、空腹以上の達成感で胸がいっぱいになる。
「次の授業、何するんだっけ」
五限目は普通に授業を受けて、六限目からは修学旅行関係の説明、だったかな。
次第に自分の席に戻っていくクラスメイトを見ながら、俺はぼんやりと思った。
……やっぱり、ここ何日かは貴斗とよく目が合う。



