雅子が店を出ていくと、しばらく二人は黙っていた。
「……どう思う?」
明が訊いた。
「どう思うも何も、屋敷内の揉め事だろう」
晴人は、さも他人事のように言う。
「まあ、そうだけど」
「我々には関係ない」
「そうだな」
二人は顔を見合わせた。
「……でも」
と、晴人が何か言いかけた。
「暇だな」
「暇だ……」
二人は、もう一度顔を見合わせる。
「はい、どうぞ」
迷う二人の前にマスターがコーヒーカップを置いた。
「差し出がましいですけどね、せっかくなのだから首を突っ込んでみたらどうです?どうせ暇なのでしょう?」
雅子は晴人の婚約者。その彼女が困っているのだからと、マスターは言いたいらしい。
「なるほど。暇を持て余すのも時間の無駄だ……」
晴人は、置かれたカップを手に取った。
「おや、マスター。ブラジルコーヒーかい?」
「はい。今若い人に人気なので……」
香りを楽しむように晴人は目を細める。
「晴人……。つまり、決まりということだな?」
明がじれったそうに言った。
「まあな。せっかくのブラジルコーヒーだ。風味を楽しむ事で、事の次第を整理するのも悪くないかもしれん」
「晴人。いい加減分かりにくい物言いは辞めてくれ」
明も、晴人の態度に呆れながらコーヒーを口にした。
「重すぎず、口当たりが丸い。晴人、お前みたいだな」
「なんだそれは……」
「じゃあ決まり。指抜きの謎を解きますか」
明は少し楽しげに晴人へ言う。
「……一つ言っておく。謎は解けている。気に入らない後妻への嫌がらせのために、指抜きを盗んで行方を分からなくした。あくまでも屋敷のゴタゴタだ。謎は何もない」
「ああ、だがそれは雅子さんの言い分だろう?」
「確かに。しかし、僕たちが、指抜きごときのために屋敷に乗り込む理由はまるでない」
「はあ、結局、やるのかやらないのか、どっちなんだ?」
煮え切らない晴人に明は少し苛立っていた。
「……暇だからな」
「ああ、俺たちは暇だぞ?」
だから、雅子へ協力すべきと明は言いかけた。
「……一体何に困っているのか……だよ」
「え?」
意味深な晴人の言葉に明のコーヒーを飲む手が止まった。
「指抜きが無くなったから困っているのだろう?」
「そう……だな」
「つまり、美里や竹田のことはどうでも良い訳だ。大伯母様に指抜きを見せられれば何も問題はない」
晴人がすまして言った。
「あ!なるほど!犯人探しではなく、指抜き探しか!」
「そういうことだ」
「はは、そりゃ、暇つぶしにうってつけだ」
「明。君、粘れるかい?」
晴人がまた意味深に言う。
「考えてもみたまえ、指抜き一つのことだ。捨ててしまう、という方法もある」
「え?!」
捨てられたらもう指抜きは出てこない。もちろん探す手だても断ち切られる。
明は、困り果てた。
「……だが、果たして、捨ててしまうだろうか……」
言って晴人は考え込んだ。
「あー、ある意味家宝的なものなら、流石に捨てるのはためらわれるんじゃ……」
「明。君ならどうする?」
「え?俺?!」
突然のことに明は考えがついてこない。それでも、なんとか考えると、
「……売る……かな」
自信なさげに告げた。
「そうだろうな」
指抜きは、見つかってはいけない。無くなったままでなければならない。ならば、捨てるか売るか。つまり、屋敷の外に出す事を考えるはずだ。
「もしも、竹田が絡んていれば、指抜きの意味を分かっている。捨てるということは無いだろう……」
「そうなのか?」
明が訝しげに言った。
「いや、私の勘だがね」
「……勘かあ」
「何か問題でも?」
開き直るかのような晴人の態度に明は言葉が出てこない。単なる思いつきで指抜きを見つけることはできるのだろうか。
いや、自分たちは暇人なのだ……。二人共に、末息子、家督は兄が継ぎ家のために縛られることはない。こうして、日がな一日暇つぶしをしていればよいだけで……そして、今、その暇つぶしのネタがある。
「面白い!晴人、お前の勘に賭けてみるか!」
明は、これぞ道楽の極みとばかりに、笑みを浮かべた。
「そこで、君の粘りが必要になる」
晴人が突然言った。
「というと?」
明はやはり意味がわからない。
「売ったとして……その売った先を見つけなければな」
「ああ!」
明は、そこで初めて晴人の言った意味が分かった。
仮に売られたとしたら、それは、それらしき店をしらみつぶしに調べることになる。
帝都中を駆け巡ることになる訳で、気が遠くなる話だった。
「うわっ、暇つぶしどころの話じゃないな」
「そうだろ?それでも、君、やるのかい?」
晴人が試すかのような目で明を見つめた。
「くそっ、やるしかないだろ、究極の暇つぶしをな!」
「うん、よろしい。じゃあ、決まりだ」
晴人は、余裕ぶってコーヒーを飲んでいる。
「はっ、よくもまあ。そもそもお前の婚約者が持ち込んで来た話だろ?」
もっとやる気を出せと明は晴人へ攻め寄った。
「やる気はある。君の粘りがないとこの話は難航するからね。それだけだよ」
「あー、はいはい。お付き合いしますよ」
明は、動じない晴人に根負けし、嫌味たらしく言った。
そして、二人は考え込む。
果たして、指抜き如きが売れるのかと。
ただ、それは純金、金の指抜きだ。そう考えると、宝石と同等の価値はある。
が、やはりあくまでも指抜き。宝石店で買い取りは難しいだろう。
「……質屋はどうだ?」
明が思いつく。
「指輪ではなく、指輪抜きだぞ?」
「しかし、晴人!金だぜ?!」
「……何か、違う」
晴人の返事は重い。
「価値はあまり無い。しかし、代々引き継がれてきたという由来はある」
そこまで言って晴人は、更に考え込んだ。
「……古道具……いや……古美術……」
「おお!晴人!それだ!アンティークだよ!」
明が叫んだ。
「……どう思う?」
明が訊いた。
「どう思うも何も、屋敷内の揉め事だろう」
晴人は、さも他人事のように言う。
「まあ、そうだけど」
「我々には関係ない」
「そうだな」
二人は顔を見合わせた。
「……でも」
と、晴人が何か言いかけた。
「暇だな」
「暇だ……」
二人は、もう一度顔を見合わせる。
「はい、どうぞ」
迷う二人の前にマスターがコーヒーカップを置いた。
「差し出がましいですけどね、せっかくなのだから首を突っ込んでみたらどうです?どうせ暇なのでしょう?」
雅子は晴人の婚約者。その彼女が困っているのだからと、マスターは言いたいらしい。
「なるほど。暇を持て余すのも時間の無駄だ……」
晴人は、置かれたカップを手に取った。
「おや、マスター。ブラジルコーヒーかい?」
「はい。今若い人に人気なので……」
香りを楽しむように晴人は目を細める。
「晴人……。つまり、決まりということだな?」
明がじれったそうに言った。
「まあな。せっかくのブラジルコーヒーだ。風味を楽しむ事で、事の次第を整理するのも悪くないかもしれん」
「晴人。いい加減分かりにくい物言いは辞めてくれ」
明も、晴人の態度に呆れながらコーヒーを口にした。
「重すぎず、口当たりが丸い。晴人、お前みたいだな」
「なんだそれは……」
「じゃあ決まり。指抜きの謎を解きますか」
明は少し楽しげに晴人へ言う。
「……一つ言っておく。謎は解けている。気に入らない後妻への嫌がらせのために、指抜きを盗んで行方を分からなくした。あくまでも屋敷のゴタゴタだ。謎は何もない」
「ああ、だがそれは雅子さんの言い分だろう?」
「確かに。しかし、僕たちが、指抜きごときのために屋敷に乗り込む理由はまるでない」
「はあ、結局、やるのかやらないのか、どっちなんだ?」
煮え切らない晴人に明は少し苛立っていた。
「……暇だからな」
「ああ、俺たちは暇だぞ?」
だから、雅子へ協力すべきと明は言いかけた。
「……一体何に困っているのか……だよ」
「え?」
意味深な晴人の言葉に明のコーヒーを飲む手が止まった。
「指抜きが無くなったから困っているのだろう?」
「そう……だな」
「つまり、美里や竹田のことはどうでも良い訳だ。大伯母様に指抜きを見せられれば何も問題はない」
晴人がすまして言った。
「あ!なるほど!犯人探しではなく、指抜き探しか!」
「そういうことだ」
「はは、そりゃ、暇つぶしにうってつけだ」
「明。君、粘れるかい?」
晴人がまた意味深に言う。
「考えてもみたまえ、指抜き一つのことだ。捨ててしまう、という方法もある」
「え?!」
捨てられたらもう指抜きは出てこない。もちろん探す手だても断ち切られる。
明は、困り果てた。
「……だが、果たして、捨ててしまうだろうか……」
言って晴人は考え込んだ。
「あー、ある意味家宝的なものなら、流石に捨てるのはためらわれるんじゃ……」
「明。君ならどうする?」
「え?俺?!」
突然のことに明は考えがついてこない。それでも、なんとか考えると、
「……売る……かな」
自信なさげに告げた。
「そうだろうな」
指抜きは、見つかってはいけない。無くなったままでなければならない。ならば、捨てるか売るか。つまり、屋敷の外に出す事を考えるはずだ。
「もしも、竹田が絡んていれば、指抜きの意味を分かっている。捨てるということは無いだろう……」
「そうなのか?」
明が訝しげに言った。
「いや、私の勘だがね」
「……勘かあ」
「何か問題でも?」
開き直るかのような晴人の態度に明は言葉が出てこない。単なる思いつきで指抜きを見つけることはできるのだろうか。
いや、自分たちは暇人なのだ……。二人共に、末息子、家督は兄が継ぎ家のために縛られることはない。こうして、日がな一日暇つぶしをしていればよいだけで……そして、今、その暇つぶしのネタがある。
「面白い!晴人、お前の勘に賭けてみるか!」
明は、これぞ道楽の極みとばかりに、笑みを浮かべた。
「そこで、君の粘りが必要になる」
晴人が突然言った。
「というと?」
明はやはり意味がわからない。
「売ったとして……その売った先を見つけなければな」
「ああ!」
明は、そこで初めて晴人の言った意味が分かった。
仮に売られたとしたら、それは、それらしき店をしらみつぶしに調べることになる。
帝都中を駆け巡ることになる訳で、気が遠くなる話だった。
「うわっ、暇つぶしどころの話じゃないな」
「そうだろ?それでも、君、やるのかい?」
晴人が試すかのような目で明を見つめた。
「くそっ、やるしかないだろ、究極の暇つぶしをな!」
「うん、よろしい。じゃあ、決まりだ」
晴人は、余裕ぶってコーヒーを飲んでいる。
「はっ、よくもまあ。そもそもお前の婚約者が持ち込んで来た話だろ?」
もっとやる気を出せと明は晴人へ攻め寄った。
「やる気はある。君の粘りがないとこの話は難航するからね。それだけだよ」
「あー、はいはい。お付き合いしますよ」
明は、動じない晴人に根負けし、嫌味たらしく言った。
そして、二人は考え込む。
果たして、指抜き如きが売れるのかと。
ただ、それは純金、金の指抜きだ。そう考えると、宝石と同等の価値はある。
が、やはりあくまでも指抜き。宝石店で買い取りは難しいだろう。
「……質屋はどうだ?」
明が思いつく。
「指輪ではなく、指輪抜きだぞ?」
「しかし、晴人!金だぜ?!」
「……何か、違う」
晴人の返事は重い。
「価値はあまり無い。しかし、代々引き継がれてきたという由来はある」
そこまで言って晴人は、更に考え込んだ。
「……古道具……いや……古美術……」
「おお!晴人!それだ!アンティークだよ!」
明が叫んだ。


