Embrace it all―夢の続きを描いて―

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 今回は、亞紗斗が涼平と対面するお話です。
 もし、この二人が対面したらどうなるのか。
 それを形にしたくて誕生したのが、本作でした。

 涼平は、梨歩の過去の恋人。
 七年前に病で亡くなっています。
 その過去を抱え、次の恋へ踏み出せずにいた梨歩。
 そんな梨歩の過去も、現在も、未来も。
 そのすべてを受け入れ、未来の約束までした亞紗斗の前に、涼平は現れました。

 彼は一体、何のために亞紗斗の前へ現れたのか。
 それは、自分が梨歩に贈った指輪ごと、亞紗斗が梨歩を受け入れてくれたことへの「ありがとう」を伝えるためでした。

 梨歩のかつての恋人と、現在の婚約者。
 しかも、初対面。
 普通なら、気まずすぎます。
 けれど二人は、初対面とは思えないほど自然に、互いの存在を受け入れている。

 この時点で明白なのは、二人とも、とても器の大きな人物だということです。
 涼平から託された願い。
 彼が叶えることのできなかった、夢の続き。
 涼平は、梨歩にプロポーズをする亞紗斗の姿をずっと見ていました。
 そして、その瞬間をリアルタイムでキャンバスに描いていた。
 二人が一番幸せだった瞬間を、一枚の絵として残し、それを亞紗斗に贈る。
 涼平は、亞紗斗のプロポーズを「かっこいい」と言いました。
 でも、涼平もまた、同じくらいかっこいい。
 私は、そう思っています。

 タイプはまったく違うけれど、大きな愛で梨歩を包み込んだ二人の男性。
 涼平を無理に「終わった過去」にすることなく、その過去に踏み込むことも否定することもせず、梨歩と生きる未来に軸を置いて考えられる亞紗斗の聡明さ。
 そして、自分は梨歩と未来を共に生きられないのだと悟ったとき、残された時間の中で精一杯の愛を伝えた涼平。
 命が尽きても梨歩の幸せを願い続け、自分ではない誰かと未来を歩いていく、かつての恋人を心から祝福する。
 その姿を一枚の絵に託した涼平の、深い愛。

 『Embrace it all』に込められているものは、亞紗斗と梨歩、二人の想いだけではありません。
 そこには、涼平の想いも確かに存在している。
 そして、その想いはやがて、未来の息子・律へも受け継がれていきます。

 究極の愛とは何なのか。
 それは、誰かの過去を消し去ることでも、忘れさせることでもない。
 その人が歩いてきた時間も、抱えてきた痛みも、失ったものも、すべてをその人の一部として受け止めること。
 そして、過去に敬意を払いながら、今ここにある愛を選び、まだ見ぬ未来へ共に歩き出すこと。

 愛は、奪うものではない。
 閉じ込めるものでもない。
 大切な人が幸せになる未来を、自分のいない場所でさえ願い続けること。
 その願いを受け取った人が、誰かを愛し、また次の未来へ手渡していくこと。
 そうして愛は、終わりを越えて残り続ける。
 涼平の想いは、亞紗斗へ。
 亞紗斗の愛は、梨歩へ。
 そして二人の想いは、律へ。

 一枚の絵に込められた愛は、過去から現在へ、現在から未来へと、静かに受け継がれていく。
 だからきっと、愛に本当の終わりはない。
 誰かを深く愛した時間は、その人の中に残り、別の誰かを包む力になる。

 すべてを抱きしめること。
 すべてを受け入れること。
 そして、失ったものさえ胸に抱いたまま、それでも未来を選び続けること。

 その覚悟と決意の中にこそ、究極の愛は生まれるのだと、私は信じています。

 『Embrace it all』。
 この物語が、過去も、現在も、未来も、すべてを抱きしめて生きていく人たちの心に、いつまでも残りますように。