ー八千代ー
かつてこの国を想像した神の力が今もなお受け継がれている地の一つ
「下級武士の家なくせに先生に褒められたくらいで生意気な口聞いてるんじゃねーぞ!」
「くっ......!」
神から頂いた植物の力によって栄える町のシンボルである城にて、1人の幼子が虐められていた。いじめっ子は子どもながらに絹の服を着ていることから察せるほどの上位の家。一方で罵声を受けた側はお世辞にも良いとはいえない古びた衣を身に纏っていた。
教育現場に身分差は存在してはいけないという領主の言葉があるが、言葉一つで人間の思考が変わることなんてない。
それは言われ慣れている少年が身をもって理解していた。
(今日も、今日も、我慢すれば終わる......)
努力も成果も踏みにじられて悔しい。そして、言い返せない自分が惨めで嫌になる。
だけど、ここで全てをさらけ出したらそれこそ相手の思うままだ。
だから今日も心に流れ込んで来る激情を堪えようと拳をぎゅっと握って下を向いて黙っている。相手が諦めてどこかへ行くことを願って。
「何、しているの?」
舌足らずで活舌も良いとは言えない。それでもこの場の空気を一変してしまうほどの威力があった。
「咲空、急に走ってどうしたのですか?」
「何かあったのか?」
こちらへやってくる二人組の声。
いつもとは全く異なる展開に気になって顔を上げると少年より頭一つ分小さい少女が少年をかばうように立っていた。
「俺が何をしようとも勝手だろう!下級なくせしてこいつが先生に褒められていたから、社会とはどういうものなのか教えてやっていただけ......
「でも、相手に一方的に暴力を振るうことが教育じゃないと思う」
少女は目の前にいる男の言葉を遮って静かにそう言い放つと、右手をほんのわずか上げた。仕草はそれだけ。それ以外何もしていない。それなのに、少年を虐めていた男の子はいつのまにか現れた蔦でぐるぐるにされていた。
「ま、まさか......!」
「静かにして。えっと、その、大丈夫?」
先ほどまでの殺伐とした雰囲気はどこやら。蔦でぐるぐるにされた少年を意識からなくして少年の方へ駆け寄って来た。
「見た感じ怪我は......あるな。その手、傷だらけじゃないか。あいつにされたのか?」
後から駆け付けた同じ年くらいの少年に全身を舐めるように見つめられた後、右手を掴まれた。いつもなら軽く振るだけで抜けられるのに、今日に限って怪我酷く、力が出てこなかった。
「わたくしのお兄様は医学・薬学に関して心得があるから、心配しなくて大丈夫ですよ」
「こ、これくらいただのかすり傷ですから!ただでさえ、かばってもらったのにこれ以上いただけません......」
あのいじめっ子が驚いたくらいだ。あいつより上の家となると、もう領主一族とその直近の家となる。武士の身分でありながら、暮らしはそこらへんの農民と大差がない少年からしてみればどちらも雲の上の存在である。
「咲空、消毒と鎮痛作用がある植物を出してくれ。こいつ、確か晴っていう名前だった気がするが、とにかく治療するから出してくれ」
「分かったよ、蓮!」
咲空と呼ばれた少女は何も握っていなかった手に突然現れた二つの草を蓮という少年に渡した。
何がどうなっているのか全く分からない少年ー晴ーに後ろから蓮の妹が教えてくれた。
「これが咲空の能力ですよ。植物を生み出し、操ることができる力こそ八千代に伝わっている力です。驚いたかもしれませんが、徐々に慣れていってくださいね。この程度なら日常茶飯事ですので」
「......日常茶飯事」
植物を自由自在に操ることに慣れてほしいと言われても無理がある。
そして、この不可思議な力を便利屋同然に使っている二人とさも当然かのように見ている一人と同じ境地に至ることは決してありえないことだとこのときは確信したのだった。
かつてこの国を想像した神の力が今もなお受け継がれている地の一つ
「下級武士の家なくせに先生に褒められたくらいで生意気な口聞いてるんじゃねーぞ!」
「くっ......!」
神から頂いた植物の力によって栄える町のシンボルである城にて、1人の幼子が虐められていた。いじめっ子は子どもながらに絹の服を着ていることから察せるほどの上位の家。一方で罵声を受けた側はお世辞にも良いとはいえない古びた衣を身に纏っていた。
教育現場に身分差は存在してはいけないという領主の言葉があるが、言葉一つで人間の思考が変わることなんてない。
それは言われ慣れている少年が身をもって理解していた。
(今日も、今日も、我慢すれば終わる......)
努力も成果も踏みにじられて悔しい。そして、言い返せない自分が惨めで嫌になる。
だけど、ここで全てをさらけ出したらそれこそ相手の思うままだ。
だから今日も心に流れ込んで来る激情を堪えようと拳をぎゅっと握って下を向いて黙っている。相手が諦めてどこかへ行くことを願って。
「何、しているの?」
舌足らずで活舌も良いとは言えない。それでもこの場の空気を一変してしまうほどの威力があった。
「咲空、急に走ってどうしたのですか?」
「何かあったのか?」
こちらへやってくる二人組の声。
いつもとは全く異なる展開に気になって顔を上げると少年より頭一つ分小さい少女が少年をかばうように立っていた。
「俺が何をしようとも勝手だろう!下級なくせしてこいつが先生に褒められていたから、社会とはどういうものなのか教えてやっていただけ......
「でも、相手に一方的に暴力を振るうことが教育じゃないと思う」
少女は目の前にいる男の言葉を遮って静かにそう言い放つと、右手をほんのわずか上げた。仕草はそれだけ。それ以外何もしていない。それなのに、少年を虐めていた男の子はいつのまにか現れた蔦でぐるぐるにされていた。
「ま、まさか......!」
「静かにして。えっと、その、大丈夫?」
先ほどまでの殺伐とした雰囲気はどこやら。蔦でぐるぐるにされた少年を意識からなくして少年の方へ駆け寄って来た。
「見た感じ怪我は......あるな。その手、傷だらけじゃないか。あいつにされたのか?」
後から駆け付けた同じ年くらいの少年に全身を舐めるように見つめられた後、右手を掴まれた。いつもなら軽く振るだけで抜けられるのに、今日に限って怪我酷く、力が出てこなかった。
「わたくしのお兄様は医学・薬学に関して心得があるから、心配しなくて大丈夫ですよ」
「こ、これくらいただのかすり傷ですから!ただでさえ、かばってもらったのにこれ以上いただけません......」
あのいじめっ子が驚いたくらいだ。あいつより上の家となると、もう領主一族とその直近の家となる。武士の身分でありながら、暮らしはそこらへんの農民と大差がない少年からしてみればどちらも雲の上の存在である。
「咲空、消毒と鎮痛作用がある植物を出してくれ。こいつ、確か晴っていう名前だった気がするが、とにかく治療するから出してくれ」
「分かったよ、蓮!」
咲空と呼ばれた少女は何も握っていなかった手に突然現れた二つの草を蓮という少年に渡した。
何がどうなっているのか全く分からない少年ー晴ーに後ろから蓮の妹が教えてくれた。
「これが咲空の能力ですよ。植物を生み出し、操ることができる力こそ八千代に伝わっている力です。驚いたかもしれませんが、徐々に慣れていってくださいね。この程度なら日常茶飯事ですので」
「......日常茶飯事」
植物を自由自在に操ることに慣れてほしいと言われても無理がある。
そして、この不可思議な力を便利屋同然に使っている二人とさも当然かのように見ている一人と同じ境地に至ることは決してありえないことだとこのときは確信したのだった。



