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特別教室棟から本館に戻る途中。前方から、2人の生徒が足早に歩み寄ってきた。
「真瀬くん」
「真瀬先輩!」
「ああ……浅香さん、井口くん」
どちらも風紀委員のメンバーだ。気遣わしげな表情でその目的も察しつつ、僕は足を止めた。
「また科学部が騒ぎを起こしたって聞いたから」
先にそう告げた黒髪セミロングの女子は、2年1組の浅香さくら。ハキハキした口調ではっきり意見を言う、僕のサポート役ともいえる風紀委員副委員長だ。
「先輩、行ってたんですよね? 大丈夫でしたか?」
心配そうに眉尻を下げる短髪男子は、1年の井口兵太。彼は野球部員でもあるのだが、部活と委員会を両立して、とても意欲的に活動してくれている。
「被害は収まってるし、これ以上は続けないと約束してもらった。危険性はない──というのは鴫原くんの弁明だけど、嘘ではなさそうだったよ」
実際、ひどい匂いだったけれど他に身体への害はなかったし。
それを聞くと、井口くんはひとまず安心したようにほっと息をついた。
「そっか……でも、こう何度もあると本当に困りますね」
「そうね。普通だったら2回目があった時点で即、一定期間の活動停止だよ。鴫原くんが優秀だから目こぼしされてきたけど」
「成績は超優秀。去年科学部に入ってすぐ、なんかのコンクールですごい賞とったんですっけ?」
井口くんの問いに、浅香さんが「そうそう」と首を振る。
鴫原くんは、去年の2学期に編入してきた転校生らしい。編入後すぐ科学部に入り、応募したコンクールで賞を獲得。その内容が中学の時から彼が個人的に行っていた研究だというので、「天才児か」と当時は話題になったのだという。僕は去年もクラスが違ったので、よく知らなかったけれど。
でも顧問の先生や学校が説教だけにとどめ、厳しい対応を見送っているのにはそんな背景があるようだ。
エジソンだって世紀の大発明までには数えきれない失敗を繰り返したわけだし、できる限りは寛容に……という考えなんだろうか。
いや、エジソンいわく『私は失敗したことがない。ただ1万通りのうまくいかない方法を見つけただけ』らしいから──って、なんだか鴫原くんも同じようなことを言いそうだ。だからあんなに悪びれず、飄々としているのかもしれない。
とはいえ……。
「でもここは学校で、彼の個人研究所じゃないから。大きな事故があってからじゃ遅いし、僕たちは変わらず対応していこう」
僕が言うと、2人も「そうね」「ですよね」と口々にうなずいた。
「にしても、また生徒会長にイヤミ言われそう。次の会議に顔出すんじゃない?」
苦虫を嚙み潰したような顔でそう続けたのは浅香さんだ。
「……かもしれない」
それを想像すると、僕にも同じ苦さが伝染した。
風紀委員は生徒会の下部組織に当たり、風紀面の対応を生徒会から一任されている立場だ。科学部の問題については当然生徒会も把握しているが、1回目の騒動があった後に生徒会長から僕へ、直々に「風紀委員でしっかり指導してくれ」と言い渡されていた。
でもその後に2回3回と続いたので、生徒会から風紀委員に「どうなっているんだ」と状況確認が入ったりしている。
今回で4回目なので、これまで以上の温度感で詰められる可能性は大いにあった。
「うーん、俺あの人苦手なんすよね……怖いから」
ぶるっと大げさに震えてみせる井口くんと、内心では近い心境だったけれど。
「確認が入った時は、率直に現状を報告するしかない。科学部の活動を僕が是正させられてないのは事実なんだから、お叱りも甘んじて受けるよ」
僕のせいで2人にも不安を抱かせてしまっているのは、委員長として不甲斐ないことだ。せめて少しは気が楽になればと、叱責はすべて自分が被ると伝えた。
「そもそも学校が甘い対応してるのに……」
井口くんは、それはそれで納得できないという顔で唇を尖らせる。
「そうだとしても。僕たちは、僕たちの仕事をするだけだ」
職務に忠実に、やるべきことをやる。私情や雑念は排除して、淡々と。
学校が諸々の事情から静観の姿勢だとしても、僕にできるのは風紀を乱す生徒に注意をすることだけ。口うるさく、何度でも。
そんな僕を、堅物で面白みのない優等生だと思う人もいるみたいだけれど。
僕にはどうでもいいことだから、特に気にもならない。



