レンズ越しの彼らは恋を知らない


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 その日の夜、夕食を終えて自室に戻ってくると。
 ベッドに座った僕は、委員会でのことを思い出しながら鴫原にメッセージを送った。例の釘差しだ。

『部活停止期間中、前みたいにこっそり実験したりしないように。期間中の部活動は厳禁。集まって騒ぐのも駄目だから』

 急ぎの内容ではないので、反応は待たずスマホをヘッドボードへ置く。ところが置いてすぐ、ブーッと振動し出した。再び取り上げて確認してみると──

「は……ビデオ通話!?」

 相手は鴫原。正直、僕はこのメッセージアプリでビデオ通話どころか音声通話もしたことがなかったので、軽く狼狽した。
 え、なんでビデオ通話なんだ。というか、単に釘を刺しただけで今すぐ話さないといけないようなこともないだろうに。
 無視するか? でもビビッて出ないというのも情けない……。
 数秒悩んだすえ、心を決めて『通話』のマークに指をスライドさせた。
 ワンテンポ遅れて、画面に鴫原の顔が映る。左上のサブ画面には、当惑をあらわにした僕の顔も。

『真瀬~?』
「う、うん」

 鴫原、何かいつもと違うと思ったら前髪をくくっている。額が全開だ。
 服はピンク色のTシャツで、背景は自室だろうか。
 ビデオ通話自体慣れないうえに、鴫原の雰囲気が学校と違うので余計に緊張してしまう。

「あの、なんでビデオ通話?」
『え、どうせ話すなら顔見れたほうがよくね?』
「はあ……」 
『てか珍しく真瀬からメッセ来たと思ったら、何あれ。業務連絡かよ』

 唇を尖らせ、表情でも声でもロコツに『がっかりです』とアピールしてきた。そんなことを言われても、僕は誰に対しても用事がある時しか連絡しない。

「今日、風紀の定例会議だったんだ。君たちがまた騒動起こすんじゃないかって心配されてたから」

 そう話すと、鴫原はますますしらけた顔で「あっそ」と肩の力を抜いた。

『はいはい、部活はしませんよ。けど理科室に集まるくらいはよくね?』

 いや、君たちは集まったら絶対何かしそうだろ。

「駄目」
『えー、つまんない』
「ゴネても、駄目なものは駄目だから」

 僕としても引き下がるわけにいかない。頑として言い切ると、鴫原はあきらめたように息をついた。

『わかったよ。じゃあ代わりに、真瀬が遊んで』

 は? どうしてそうなる?

「遊ぶってなに。テスト期間中はテスト勉強だろ」
『したことない』
「えっ? いつも?」
『うん』

 あっさりと返答してくださる。そういえば以前にも、『勉強なんか学校来なくてもできる。教科書読めば大体わかる』と、いかにも天才肌なことを言っていた。
 テスト勉強せずにトップクラスの成績って、あれは誇張でもなんでもなく事実だったのか……。
 いるところにはいるんだな、こういう生徒が。うらやましい限りだが、でも。

「僕はテスト勉強しないで臨むとかありえないから。君に付き合ってる暇はない」

 鴫原が天才型だというなら、僕は俗にいう努力型。テスト勉強は毎回しっかりやっている。鴫原への対抗心もあって強い口調で言うと、苦笑が返ってきた。

『ほんっと真面目だなぁ。いいよ、ならお勉強会で妥協してやるよ』
「勉強会?」
『そ。やろ、テスト勉強とやらを』
「君には必要ないんじゃないの」
『うん。だから、お目付け役してあげる。わかんないとこあったら教えられると思うし』

 要するに、テスト勉強会と称して集まるなら僕も容認せざるを得ないと踏んだってことか。実際、絶対勉強しないだろ、とまでは言えない。御崎と影石は、案外真面目にやるタイプかもしれないし。
 そしてここまで粘ってくるということは、断ってもまた食い下がってくるんだろうな。まぁ、ちゃんと勉強するっていうなら試しに1回くらいは付き合ってもいい。

「真面目に勉強しないようだったら僕は即抜けるからな。それでいいなら、3人の都合に合わせて──」

 折れることにした僕はそう言いかけたのだが、途中で鴫原が遮った。

『2人だよ』
「え?」
『2人。俺と真瀬でやんの』