Embrace it all―未来の旋律―

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 『Embrace it all―未来の旋律―』は、『Embrace it all―すべてを抱いて、生きていく―』のその後を描いた物語です。

 本編の梨歩は、亡くなった涼平への想いを抱えたまま、新しい人を好きになることに強い罪悪感を持っていました。
 涼ちゃんを忘れなければ、次の恋へ進んではいけない。
 桜の指輪を手放せない自分は、亞紗斗さんを好きになってはいけない。
 そんな梨歩に、亞紗斗は言います。

 忘れなくていい。
 手放すのも苦しいほど大切なものなら、持っていればいい。
 過去も、今も、未来も、全部受け入れる――と。

 そして彼は、涼平が遺した桜の指輪を外すことなく、その指輪に寄り添うように、自分との未来を約束する新しい指輪を重ねました。
 二つの指輪は、どちらか一方を選ぶためのものではありません。
 一つは、涼平に愛された証。
 一つは、亞紗斗とこれからを生きていく約束。
 その二つを胸に歩んできた先に生まれたのが、律です。

 今回、律が母の指輪の意味を知ったとき、どう受け止めるのだろう――と考えました。
 けれど、律は驚くほど自然に受け入れます。

「それは、ママがその人に大切にされた証拠なんでしょ?」
 その言葉を書いたとき、律の中には確かに亞紗斗の愛し方が受け継がれているのだと感じました。

 顔立ちや音楽の才能だけではなく、誰かの過去を否定せず、その人にとって大切なものまで抱きしめる優しさまで。
 かつて亞紗斗が梨歩へ渡した言葉が、年月を越え、今度は息子の律から梨歩へ返ってくる。
 まるで一つの旋律を、少し遅れて別の旋律が追いかけ、やがて重なっていくカノンのように。

 実は前作で、梨歩が涼平の指輪について語ろうとして涙を溢れさせた場面で、亞紗斗がヴァイオリンで奏でていたのが、パッヘルベルの「カノン」でした。
 あのとき梨歩に寄り添った旋律が、年月を経て、今度は律へと受け継がれていく。
 そんな想いも込めて、この物語の副題を『未来の旋律』としました。

 『Embrace it all』で梨歩が選んだのは、過去を捨てる未来ではありません。
 涼平を愛した自分も。
 亞紗斗を愛する今の自分も。
 その先に生まれた家族も。

 全部を抱いて、生きていく未来です。
 そして、その愛の続きを奏でていく存在が律なのだと思います。
 梨歩と亞紗斗が選んだ未来の中で、律がどんな旋律を奏でていくのか。
 これからも、彼らの物語を見守っていただけたら嬉しいです。


【新作のお知らせ】

『Embrace it all―重なり合う二つの愛―』を公開しました。

 亞紗斗が梨歩にプロポーズする際に贈った、あの指輪が生まれるまでの物語です。
 梨歩の左手には、亡き恋人・涼平から贈られた桜の指輪がある。
 亞紗斗が選んだのは、その指輪を外させることではなく、隣に重ねてつけられる新たな指輪を贈ることでした。
 桜の指輪に寄り添うようデザインされた婚約指輪は、フルオーダーで仕立てられた世界に一つだけのもの。
 そして亞紗斗が訪れたジュエリーショップで、偶然にも彼を担当したのは、かつて涼平が梨歩のために桜の指輪を選んだときにも担当していた花岡さんでした。
 過去の愛を消すのではなく、その隣に未来の愛を重ねていく。
 梨歩の過去と未来をつなぐ、世界に一つだけの指輪。
 二つの指輪が重なり合ったとき、『Embrace it all』を象徴する、ひとつの愛のかたちが完成します。

【Embrace it allシリーズおすすめ】

『Embrace it all―夢の続きを描いて―』

 涼平の指輪ごと梨歩を受け入れた亞紗斗が、梨歩にプロポーズした日の晩。
 亞紗斗は、梨歩の亡くなった恋人・涼平と対面します。
 彼はなぜ、亞紗斗の前に現れたのか。 そして、その時に涼平から渡された一枚の絵とは――。
 本作で描くのは、「Embrace it all」の中核でもある亞紗斗の愛。
 梨歩の過去も、涼平への想いも、そのすべてを受け入れた愛の先に待っていたのは――涼平からの祝福でした。

 梨歩がかつて愛した涼平がどんな人物だったのか、そして二人がどんな時間を過ごしたのかをもっと深く知りたい方は、
『君という夢を描いて』
『ブルーヘヴンの彼方に』
もあわせて読んでいただけると幸いです。