初恋セレナーデ

 律があたしを守ってくれたあの日から、五年。

 あんなに小さかった律が。


 あんなに可愛かった律が。


 いつのまにか。


 あたしの背丈をぐんと追い越して。


 声も変わって。


 肩幅も、ずいぶん広くなった。


 もう、あたしが可愛がっていた、小さな律はいない。


 目の前にいる彼は、今。





「ずっと、好きだった」



 まっすぐに、あたしに思いを伝える――幼なじみではなく、一人の男の子。


 あたしの知らなかった、律。



 律の気持ちは知っていた。


 ずっと前から。


 でも、あたしが知らなかったのは。


 いや、本当はわかっていた。



 気づかないふりをしていた。




 あたしも、律が好きなんだってこと。



 幼なじみとしてじゃなくて、

 
 一人の男の子として、好きだってこと。


「うん、知ってる」

「え」


 気づかないわけ、ないじゃない。


 あたしが頬にキスしただけで、鼻血出すくらい過剰な反応してたのに。


「……いつから?」

「最初から」

「え!」

 何も不思議じゃない。当時はその、素直すぎる反応が面白くて、半分からかってた。

 でも――当時付き合っていた彼氏に、あたしが無理矢理キスされそうになったとき。律が助けてくれた、あの日から。


 あたしは、きっと。


 律に惹かれていたんだ。



 あの時の律はまだ十歳の小さな男の子で。


 それでも、自分よりも体格が良くて、力のある相手だとわかっていても。

 小さな体で、懸命にあたしを守ってくれた。


 殴られて、顔を怪我しても。


 殴った相手に反撃せず。

 (反撃したのはあたし、だったわ)

 ただただ、あたしの身を案じてくれた。


 ほんの冗談のつもりだった。

 でも、素直に嬉しかったから。


 お礼の意味を込めて、軽い気持ちで。



 幼なじみだから、深い意味はない。

 これは、スキンシップの一環だからと。

 自分に言い聞かせながら。 
 


 律の頬に、キスをした。


 そしたら……。



「……ティッシュ」

 だもんね。


 あたしは、幼なじみを隠れ蓑にしながら、律への恋心を、ずっとごまかし続けていたんだ。

 五年間も。


 律をからかうことで。

 律への思いが溢れてしまわないように。


 でも、隠せば隠すほど苦しくなって。


 ごまかせばごまかすほど――あたしの気持ちがわからなくなった。


 でも、なかったことにはできなくて。


 そばにいたいけど、近くにいると苦しくて。


 告白してきた男子の誰かと付き合えば、この感情に振り回されることもなくなるのかも。

 と、卑怯な方法で逃げようとしたこともあった。

 

 それでも、あたしの律への思いが消えてしまう方が怖くて。


 
 告白は、全部断っていた。


 律があたしを意識していることは素直に嬉しかったけど、

 その思いに応えるには、律はまだ幼すぎる。


 そう思ったから、余計に言えなかった。



 もし、律が今よりも大人になって。

 あたしを好きなままでいてくれたなら。


 その時は、律を受け入れよう。


 それがいい。


 それでいい。



 その頃にはきっと、他に好きな子がいるだろうから。



 でも、それはあたしにも言えること。


 保証のない未来に期待をしたって、


 余計に空しくなるだけだから。



 今はまだ、幼なじみのままでいい。


 今、は。




 それなのに。