第6話 見せる必要のないもの
翌朝、将輝はいつも通りの時間に教室へ来た。
昨日、「明日、話す」と言ったことを忘れている様子はない。
萌菜美の席の横を通る時、一度だけ視線を向けた。
「昼でいい?」
「いい」
それだけだった。
千馬はまだ来ていない。
貴嗣は机に突っ伏していて、知正がその背中へ教科書を置いている。
「重い」
「起きてるじゃん」
「人の背中を本棚にするなよ」
「返事する棚、便利だな」
事故の前と同じような朝だった。
でも、教室の外ではまだ十二秒の動画が回っている。
貴嗣を見に来る生徒は減ったものの、ゼロにはなっていない。
千馬について書かれた投稿も、元が消えたあとまで画面の保存画像として残っていた。
十二秒は終わったのに、十二秒で決められた役割は終わっていない。
萌菜美は取材ノートを開いた。
今日、将輝へ聞くこと。
《十九秒から十二秒へ短くしたのは自分か》
《七秒を切った理由》
《誰かに頼まれたのか》
《十二秒だけを送った時、千馬がどう見えるか考えたか》
最後の質問に線を引いた。
これは聞き方が悪い。
「千馬が悪く見えると分かっていて切ったのか」と聞けば、最初から将輝へ悪意を置くことになる。
萌菜美は書き直した。
《十二秒を作った時、残す部分と切る部分をどう決めたか》
そのほうがまだましだった。
昼休み。
将輝は教室ではなく、渡り廊下の端で待っていた。
外は曇っていて、校舎と体育館をつなぐ屋根の下を風が抜けていく。
「ここでいい?」
「うん」
萌菜美はノートを出した。
「録音してもいい?」
「嫌」
「分かった」
「メモはいい」
「ありがとう」
将輝は壁へ背を預けた。
姿勢はいつも通りだった。
事故のことを聞かれる側なのに、表情だけなら進路希望調査の話でもしているように見える。
「昨日聞いたことから」
「十二秒の動画?」
「うん。学校に残ってる元映像は十九秒。クラスに送ったのは十二秒。十二秒のほうを作ったのは将輝?」
「俺」
迷いのない答えだった。
萌菜美は書く。
《送信用コピー作成=将輝本人》
「十九秒から、冒頭を七秒切った?」
「そう」
「誰かに頼まれた?」
「頼まれてない」
「先生にも?」
「言われてない」
「自分で決めた?」
「うん」
ここまでは早かった。
萌菜美は次の質問へ移る。
「どうして七秒切ったの?」
将輝は答えなかった。
渡り廊下の下を、一年生が二人走っていった。
そのあとを教師が「走るな」と言いながら追う。
萌菜美は待った。
「昨日も思ったけど」
将輝が言った。
「新聞って、聞いたら全部答えないといけないの?」
「いけなくない」
「じゃあ答えない」
「理由は書いていい?」
「何の」
「編集したことは認めた。でも理由は回答しなかった、って」
「それならいい」
萌菜美は書いた。
《理由:回答せず》
書いてから、顔を上げる。
「一つだけ確認したい」
「まだあるの」
「ある」
「どうぞ」
「七秒を切ったのは、見た人に何かを誤解させるため?」
将輝の眉がわずかに動いた。
「違う」
今度は早かった。
「じゃあ、何のため?」
「それは同じ質問だろ」
「似てる」
「答えない」
「分かった」
萌菜美はノートを閉じかけた。
将輝が口を開いた。
「見せる必要がないと思ったから」
萌菜美の手が止まる。
「七秒を?」
「そう」
「誰に?」
「クラスのやつらに」
「どうして必要がないと思ったの?」
「そこまで言わない」
「七秒の中身を私はまだ見てない」
「知ってる」
「何が映ってるかも言わない?」
「元を見れば分かる」
「見ていいの?」
「俺だけで決めることじゃない」
将輝はまっすぐ萌菜美を見た。
「千馬も映ってる。貴嗣も。俺も」
「うん」
「先生が止めてるなら、手順踏めば」
意外だった。
元映像そのものを隠し続けるつもりなら、「見るな」と言うかと思っていた。
「将輝は、私が元映像を見ること自体には反対しない?」
「先生と、映ってるやつらがいいなら」
「記事にするかは別?」
「当然」
「分かった」
萌菜美はノートをもう一度開いた。
《元映像の閲覧:本人単独では反対しない》
《ただし当事者・学校の確認が必要》
《公開・記事化への同意とは別》
「細かいな」
将輝が言った。
「あとで意味が変わると困るから」
「意味なんて、受け取るやつが勝手に変えるだろ」
「だから元を残す」
「新聞部っぽい」
「昨日も言われた」
「褒めてない」
「分かってる」
将輝は壁から背を離した。
「もういい?」
「あと一個」
「まだ?」
「十二秒を作った時、どこから残すかはどう決めた?」
将輝は少し考えた。
「事故として必要なところ」
「どこからが事故?」
「千馬が支柱の近くにいて、貴嗣が走るところから」
萌菜美はペンを止めた。
「千馬がそこに行く前は?」
「送る必要がないと思った」
「それが七秒?」
「そう」
「千馬は、十二秒だけだと自分が勝手に危ない場所へ行ったみたいに見えるって言ってる」
将輝は黙った。
表情は変わらない。
でも、視線だけが一度、体育館の方向へ動いた。
「知ってる?」
「コメントは見た」
「どう思った?」
「最悪だと思った」
即答だった。
「誰が?」
「コメントするやつが」
「編集したことについては?」
将輝は萌菜美を見た。
「それ、今聞く?」
「聞く」
「俺が七秒切ったから千馬が叩かれた、って書きたい?」
「まだ何も書いてない」
「なら、元見てからでいいだろ」
声は静かだった。
怒鳴ってはいない。
でも、そこで初めて将輝の言葉に刺が入った。
萌菜美は反射的に言い返しかけて、やめた。
将輝の言う通りだった。
自分はまだ七秒を見ていない。
見ていない部分について、編集した本人に責任だけ先に聞こうとしている。
「そうだね」
萌菜美は答えた。
「元を確認してからにする」
「……うん」
「今日はありがとう」
将輝は少し意外そうな顔をした。
「終わり?」
「終わり」
「もっと追及するかと思った」
「元を見てないから」
「そう」
将輝は教室へ戻ろうとした。
数歩進んで止まる。
「萌菜美」
「何」
「記事にする時」
将輝は振り返らなかった。
「十二秒を作ったのは俺。それは書いていい」
「分かった」
「でも、理由はまだ書くな」
「今は『回答しなかった』まで」
「それで」
将輝はそのまま歩いていった。
萌菜美は一人、渡り廊下に残った。
七秒を切った。
それは将輝自身が認めた。
理由は、「見せる必要がないと思ったから」。
でも、それだけでは何も分からない。
見せる必要がなかったのは、単に事故より前だったからかもしれない。
誰かを守るためかもしれない。
自分を守るためかもしれない。
何か失敗が映っているのかもしれない。
どれも、まだ推測だった。
新聞部室へ戻ると、真紗子がパソコンに向かっていた。
「どうだった?」
「切ったのは将輝でした」
真紗子が手を止める。
「認めた?」
「はい。誰かに頼まれたわけでもない。自分で十九秒から十二秒のコピーを作った」
「理由は?」
「『見せる必要がないと思ったから』」
「それだけ?」
「それ以上は答えないって」
「元映像の確認は?」
「学校と、映ってる当事者がいいなら反対しないって」
真紗子は少し考えた。
「じゃあ、顧問を通して正式にお願いしよう」
「千馬たちにも?」
「先に学校側へ。誰の同意が必要かも含めて確認する」
萌菜美は椅子へ座った。
真紗子が共有フォルダを開く。
「閲覧目的、書ける?」
「新聞部の事故記事の事実確認」
「具体的に」
「公開された十二秒と学校保全の十九秒との差分を確認する。元映像そのものを複製・持ち出ししない。確認した内容を記事へ使う場合は、別途当事者へ確認する」
「いいね」
萌菜美は申請文を入力した。
最後まで書いて、送信前に止まる。
「公開範囲」
「お」
真紗子が笑った。
「今回は見るんだ」
「今回は、じゃなくて今後も見ます」
「ほんと?」
萌菜美は共有設定を開いた。
閲覧できるのは自分と真紗子だけ。
リンクを知っている全員、にはなっていない。
確認してから送信した。
「送った」
「じゃあ返事待ち」
「今日中に来ますか」
「せっかちになったね」
「早く確認したいので」
「七秒に答えがあると思ってる?」
昨日と同じ質問だった。
萌菜美は少し考えてから首を振った。
「答えじゃなくて、少なくとも見ていない部分があることを確認したいです」
「それならいい」
「また正解って言わないんですか」
「言ったら嫌なんでしょ」
「ちょっとだけ」
「面倒な担当者」
「編集責任者が選びました」
真紗子は笑った。
その日の夕方、顧問から返信が来た。
《授業担当者立ち会いでの閲覧を調整する》
《映像に映る生徒にも確認を取る》
《データの複製・撮影は禁止》
《確認日時は明日放課後を予定》
萌菜美は同じ文面を二回読んだ。
明日。
十九秒を見る。
十二秒より、たった七秒長い映像を。
スマートフォンには、今も十二秒の動画が残っている。
再生すると、千馬は最初から危険な場所にいる。
貴嗣はそこへ走り込む。
目が合う。
腕を引く。
支柱が倒れる。
何度見ても、そこだけなら同じ話になる。
萌菜美は再生を止めた。
十二秒が嘘なのではない。
貴嗣が千馬を助けたことも消えない。
ただ、その前に七秒ある。
将輝が「見せる必要がない」と決めた七秒が。
萌菜美は取材ノートへ、今日確認できたことだけを書いた。
――将輝は七秒を切った。
――理由は「見せる必要がないと思ったから」。
その下に、線を一本引く。
――なぜ必要がないと思ったのかは、未確認。
今は、それ以上書かない。
明日見るものが、将輝を悪者にする映像なのか。
千馬を救う映像なのか。
それとも、そんな二択自体が間違っているのか。
まだ、分からなかった。
【終】
翌朝、将輝はいつも通りの時間に教室へ来た。
昨日、「明日、話す」と言ったことを忘れている様子はない。
萌菜美の席の横を通る時、一度だけ視線を向けた。
「昼でいい?」
「いい」
それだけだった。
千馬はまだ来ていない。
貴嗣は机に突っ伏していて、知正がその背中へ教科書を置いている。
「重い」
「起きてるじゃん」
「人の背中を本棚にするなよ」
「返事する棚、便利だな」
事故の前と同じような朝だった。
でも、教室の外ではまだ十二秒の動画が回っている。
貴嗣を見に来る生徒は減ったものの、ゼロにはなっていない。
千馬について書かれた投稿も、元が消えたあとまで画面の保存画像として残っていた。
十二秒は終わったのに、十二秒で決められた役割は終わっていない。
萌菜美は取材ノートを開いた。
今日、将輝へ聞くこと。
《十九秒から十二秒へ短くしたのは自分か》
《七秒を切った理由》
《誰かに頼まれたのか》
《十二秒だけを送った時、千馬がどう見えるか考えたか》
最後の質問に線を引いた。
これは聞き方が悪い。
「千馬が悪く見えると分かっていて切ったのか」と聞けば、最初から将輝へ悪意を置くことになる。
萌菜美は書き直した。
《十二秒を作った時、残す部分と切る部分をどう決めたか》
そのほうがまだましだった。
昼休み。
将輝は教室ではなく、渡り廊下の端で待っていた。
外は曇っていて、校舎と体育館をつなぐ屋根の下を風が抜けていく。
「ここでいい?」
「うん」
萌菜美はノートを出した。
「録音してもいい?」
「嫌」
「分かった」
「メモはいい」
「ありがとう」
将輝は壁へ背を預けた。
姿勢はいつも通りだった。
事故のことを聞かれる側なのに、表情だけなら進路希望調査の話でもしているように見える。
「昨日聞いたことから」
「十二秒の動画?」
「うん。学校に残ってる元映像は十九秒。クラスに送ったのは十二秒。十二秒のほうを作ったのは将輝?」
「俺」
迷いのない答えだった。
萌菜美は書く。
《送信用コピー作成=将輝本人》
「十九秒から、冒頭を七秒切った?」
「そう」
「誰かに頼まれた?」
「頼まれてない」
「先生にも?」
「言われてない」
「自分で決めた?」
「うん」
ここまでは早かった。
萌菜美は次の質問へ移る。
「どうして七秒切ったの?」
将輝は答えなかった。
渡り廊下の下を、一年生が二人走っていった。
そのあとを教師が「走るな」と言いながら追う。
萌菜美は待った。
「昨日も思ったけど」
将輝が言った。
「新聞って、聞いたら全部答えないといけないの?」
「いけなくない」
「じゃあ答えない」
「理由は書いていい?」
「何の」
「編集したことは認めた。でも理由は回答しなかった、って」
「それならいい」
萌菜美は書いた。
《理由:回答せず》
書いてから、顔を上げる。
「一つだけ確認したい」
「まだあるの」
「ある」
「どうぞ」
「七秒を切ったのは、見た人に何かを誤解させるため?」
将輝の眉がわずかに動いた。
「違う」
今度は早かった。
「じゃあ、何のため?」
「それは同じ質問だろ」
「似てる」
「答えない」
「分かった」
萌菜美はノートを閉じかけた。
将輝が口を開いた。
「見せる必要がないと思ったから」
萌菜美の手が止まる。
「七秒を?」
「そう」
「誰に?」
「クラスのやつらに」
「どうして必要がないと思ったの?」
「そこまで言わない」
「七秒の中身を私はまだ見てない」
「知ってる」
「何が映ってるかも言わない?」
「元を見れば分かる」
「見ていいの?」
「俺だけで決めることじゃない」
将輝はまっすぐ萌菜美を見た。
「千馬も映ってる。貴嗣も。俺も」
「うん」
「先生が止めてるなら、手順踏めば」
意外だった。
元映像そのものを隠し続けるつもりなら、「見るな」と言うかと思っていた。
「将輝は、私が元映像を見ること自体には反対しない?」
「先生と、映ってるやつらがいいなら」
「記事にするかは別?」
「当然」
「分かった」
萌菜美はノートをもう一度開いた。
《元映像の閲覧:本人単独では反対しない》
《ただし当事者・学校の確認が必要》
《公開・記事化への同意とは別》
「細かいな」
将輝が言った。
「あとで意味が変わると困るから」
「意味なんて、受け取るやつが勝手に変えるだろ」
「だから元を残す」
「新聞部っぽい」
「昨日も言われた」
「褒めてない」
「分かってる」
将輝は壁から背を離した。
「もういい?」
「あと一個」
「まだ?」
「十二秒を作った時、どこから残すかはどう決めた?」
将輝は少し考えた。
「事故として必要なところ」
「どこからが事故?」
「千馬が支柱の近くにいて、貴嗣が走るところから」
萌菜美はペンを止めた。
「千馬がそこに行く前は?」
「送る必要がないと思った」
「それが七秒?」
「そう」
「千馬は、十二秒だけだと自分が勝手に危ない場所へ行ったみたいに見えるって言ってる」
将輝は黙った。
表情は変わらない。
でも、視線だけが一度、体育館の方向へ動いた。
「知ってる?」
「コメントは見た」
「どう思った?」
「最悪だと思った」
即答だった。
「誰が?」
「コメントするやつが」
「編集したことについては?」
将輝は萌菜美を見た。
「それ、今聞く?」
「聞く」
「俺が七秒切ったから千馬が叩かれた、って書きたい?」
「まだ何も書いてない」
「なら、元見てからでいいだろ」
声は静かだった。
怒鳴ってはいない。
でも、そこで初めて将輝の言葉に刺が入った。
萌菜美は反射的に言い返しかけて、やめた。
将輝の言う通りだった。
自分はまだ七秒を見ていない。
見ていない部分について、編集した本人に責任だけ先に聞こうとしている。
「そうだね」
萌菜美は答えた。
「元を確認してからにする」
「……うん」
「今日はありがとう」
将輝は少し意外そうな顔をした。
「終わり?」
「終わり」
「もっと追及するかと思った」
「元を見てないから」
「そう」
将輝は教室へ戻ろうとした。
数歩進んで止まる。
「萌菜美」
「何」
「記事にする時」
将輝は振り返らなかった。
「十二秒を作ったのは俺。それは書いていい」
「分かった」
「でも、理由はまだ書くな」
「今は『回答しなかった』まで」
「それで」
将輝はそのまま歩いていった。
萌菜美は一人、渡り廊下に残った。
七秒を切った。
それは将輝自身が認めた。
理由は、「見せる必要がないと思ったから」。
でも、それだけでは何も分からない。
見せる必要がなかったのは、単に事故より前だったからかもしれない。
誰かを守るためかもしれない。
自分を守るためかもしれない。
何か失敗が映っているのかもしれない。
どれも、まだ推測だった。
新聞部室へ戻ると、真紗子がパソコンに向かっていた。
「どうだった?」
「切ったのは将輝でした」
真紗子が手を止める。
「認めた?」
「はい。誰かに頼まれたわけでもない。自分で十九秒から十二秒のコピーを作った」
「理由は?」
「『見せる必要がないと思ったから』」
「それだけ?」
「それ以上は答えないって」
「元映像の確認は?」
「学校と、映ってる当事者がいいなら反対しないって」
真紗子は少し考えた。
「じゃあ、顧問を通して正式にお願いしよう」
「千馬たちにも?」
「先に学校側へ。誰の同意が必要かも含めて確認する」
萌菜美は椅子へ座った。
真紗子が共有フォルダを開く。
「閲覧目的、書ける?」
「新聞部の事故記事の事実確認」
「具体的に」
「公開された十二秒と学校保全の十九秒との差分を確認する。元映像そのものを複製・持ち出ししない。確認した内容を記事へ使う場合は、別途当事者へ確認する」
「いいね」
萌菜美は申請文を入力した。
最後まで書いて、送信前に止まる。
「公開範囲」
「お」
真紗子が笑った。
「今回は見るんだ」
「今回は、じゃなくて今後も見ます」
「ほんと?」
萌菜美は共有設定を開いた。
閲覧できるのは自分と真紗子だけ。
リンクを知っている全員、にはなっていない。
確認してから送信した。
「送った」
「じゃあ返事待ち」
「今日中に来ますか」
「せっかちになったね」
「早く確認したいので」
「七秒に答えがあると思ってる?」
昨日と同じ質問だった。
萌菜美は少し考えてから首を振った。
「答えじゃなくて、少なくとも見ていない部分があることを確認したいです」
「それならいい」
「また正解って言わないんですか」
「言ったら嫌なんでしょ」
「ちょっとだけ」
「面倒な担当者」
「編集責任者が選びました」
真紗子は笑った。
その日の夕方、顧問から返信が来た。
《授業担当者立ち会いでの閲覧を調整する》
《映像に映る生徒にも確認を取る》
《データの複製・撮影は禁止》
《確認日時は明日放課後を予定》
萌菜美は同じ文面を二回読んだ。
明日。
十九秒を見る。
十二秒より、たった七秒長い映像を。
スマートフォンには、今も十二秒の動画が残っている。
再生すると、千馬は最初から危険な場所にいる。
貴嗣はそこへ走り込む。
目が合う。
腕を引く。
支柱が倒れる。
何度見ても、そこだけなら同じ話になる。
萌菜美は再生を止めた。
十二秒が嘘なのではない。
貴嗣が千馬を助けたことも消えない。
ただ、その前に七秒ある。
将輝が「見せる必要がない」と決めた七秒が。
萌菜美は取材ノートへ、今日確認できたことだけを書いた。
――将輝は七秒を切った。
――理由は「見せる必要がないと思ったから」。
その下に、線を一本引く。
――なぜ必要がないと思ったのかは、未確認。
今は、それ以上書かない。
明日見るものが、将輝を悪者にする映像なのか。
千馬を救う映像なのか。
それとも、そんな二択自体が間違っているのか。
まだ、分からなかった。
【終】



