第19話 自分の記事を赤で直す
翌日の放課後、萌菜美は謝罪文を書いていた。
《このたび、新聞部の未完成原稿が意図せず閲覧可能な状態となり、関係する皆さんに迷惑をかけました。》
その次。
《共有設定の確認が不十分だったことをお詫びします。》
さらに、
《今後は原稿管理を徹底し、同様のことが起きないよう努めます。》
そこまで書いて、真紗子に見せた。
「どうですか」
真紗子は読んだ。
三行。
もう一度読んだ。
「駄目」
「早い」
「謝罪だけで終わってる」
「まず謝るのが先じゃないですか」
「先だけど、全部じゃない」
「管理方法も直すって書いてます」
「文章の中身は?」
萌菜美は黙った。
「流出した原因は共有設定だけ?」
「入口はそれです」
「聞いてるのは、広まった一文がどう読まれたか」
真紗子は印刷した二枚を机へ置いた。
将輝の一文。
《送信用コピーを作った将輝は、元映像の冒頭七秒を自分の判断で切ったことを認めている。》
貴嗣と知正の一文。
《二人はこの共同確認を行っていなかった。》
「どっちも事実です」
「それは昨日やった」
「じゃあ何を」
「分類する」
「分類?」
真紗子は赤ペンを一本、萌菜美の前へ置いた。
「一文ずつ。確定事実、推測、確認不足」
「この二文は確定事実」
「本当にそれだけ?」
萌菜美は将輝の一文を見る。
七秒を切った。
本人が認めた。
ここは事実。
「確定です」
「じゃあ、この文だけ読んだ人が『捏造した』と思ったのは、全部読んだ側の問題?」
萌菜美は答えなかった。
「書き方に、誘導はなかった?」
「誘導するつもりは」
「つもりじゃなくて、文」
真紗子が赤ペンを指した。
萌菜美は一文を紙へ写した。
《送信用コピーを作った将輝は、元映像の冒頭七秒を自分の判断で切ったことを認めている。》
その下に、
《確定事実》
と書く。
次に赤で、
《不足:編集目的の説明》
と書いた。
「理由は確認してた」
「でも本文には入ってなかった」
「掲載許可を取ってなかったから」
「それ自体は正しい判断」
「じゃあ」
「正しい判断をした結果、この文は途中だった」
萌菜美は赤字を足した。
《理由は本人確認済みだが掲載確認前のため未記載》
「つまり」
真紗子が言う。
「この一文は嘘ではない。でも完成してない」
「はい」
「完成してない文章が流れた」
「はい」
「じゃあ、問題は管理だけじゃない」
萌菜美は理解した。
「未完成の文を、完成した記事みたいに読める形で置いてた」
「そう」
次。
貴嗣と知正の一文。
《二人はこの共同確認を行っていなかった。》
「確定事実」
「うん」
「すぐ下に、直接原因は未特定って書いてた」
「でも流れたのは一文だけ」
「はい」
萌菜美は赤で書いた。
《不足:事故の直接原因との因果は未確定》
さらに、
《一文単独では「確認を省いた=事故原因」と読まれやすい》
と書く。
手が止まった。
「これ」
「何?」
「私、分かってた」
「何を」
「仮稿を組み直した時、この二つを近くに置き直した」
「うん」
「一文だけ切り取られたら危ないって、少し分かってた」
「うん」
「なのに、ファイル管理では切り取られる可能性を考えてなかった」
真紗子は何も言わなかった。
萌菜美は続けた。
「文章の中では文脈を守った。でも、文章の外では守れてなかった」
「そこまで書ける?」
「書きます」
赤で、
《本文内では補足したが、未完成原稿を第三者が閲覧・保存できる状態にしたため、補足と分離される可能性を残した》
と書いた。
「長い」
「必要なので」
「それでいい」
真紗子は次の紙を出した。
匿名掲示板の投稿。
《例の奇跡動画、編集されてたらしい》
「これは?」
「将輝が七秒を切ったから、編集されていたこと自体は」
「確定?」
萌菜美は考えた。
「『編集』の意味次第」
「そう」
「映像を短くする編集はした。でも、『内容を捏造した編集』って意味なら違う」
分類を書く。
《確定事実:元映像から冒頭七秒を除いた送信用コピーを作成》
《推測:奇跡を作るために内容を捏造した》
《未確認:投稿者が「編集」をどの意味で使ったか》
「次」
《じゃあ事故起こしたのこいつらじゃん》
「推測」
「根拠は?」
「共同確認を省いたこと」
「事実と推測を分けて」
萌菜美は書く。
《確定事実:共同確認を省いた》
《確定事実:事故後、固定ベルトは正常固定状態ではなかった》
《未確定:固定不十分が生じた直接原因》
《推測:共同確認を省いた二人が直接事故を起こした》
「こうやって見ると」
萌菜美が言った。
「元の事実は少ない」
「うん」
「その周りに推測がくっついてる」
「うん」
「でも、推測がくっつきやすい事実を私が出した」
「そこも正確に」
「出した、じゃない。出る状態にした」
「そう」
萌菜美は訂正する。
言葉一つでも、自分に有利にも不利にもできる。
だから、正確にする。
「次は?」
真紗子が言う。
「まだあります?」
「萌菜美の下書き」
「全部?」
「流出したところだけじゃない」
真紗子は印刷した仮稿全体を出した。
「自分で査読する」
「今?」
「今」
萌菜美は顔をしかめた。
「顧問に謝罪文出すほうが先じゃ」
「謝罪文に何を直したか書くなら、先に直すところを知らないと」
正論だった。
萌菜美は赤ペンを持つ。
冒頭。
事故の十二秒。
十九秒の元映像。
将輝の七秒。
貴嗣と知正の共同確認。
固定ベルト。
直接原因未特定。
途中まで読む。
「ここ」
自分で止めた。
《問題は、短い動画だけではない。》
「これは事実じゃない」
「何?」
「私の判断」
「分類」
赤で、
《批評・判断》
と書く。
次。
《動画を見た側は、十二秒しかないと知りながら、その十二秒の外側まで想像で埋めた。》
「これ、強い」
「どうして」
「『見た側』を全部まとめてる」
萌菜美は読み直す。
確かに、全員ではない。
貴嗣を英雄と呼んだ人。
千馬を無謀だと批判した人。
何も書かなかった人もいる。
判断を保留した人もいるかもしれない。
「主語が広すぎる」
「うん」
赤で、
《修正要:一部の反応を「見た側」全体へ一般化している》
と書く。
次。
《貴嗣を「本物の英雄」と呼び、千馬を「迷惑な生徒」と呼んだ。》
「実際にそういう投稿はあった」
「じゃあ確定?」
「投稿があったことは確定。でも『見た側がそう呼んだ』まで広げると違う」
分類。
《確定事実:その趣旨の投稿・反応を確認》
《修正要:反応主体の範囲を限定する》
萌菜美は赤ペンを置きたくなった。
「自分の記事、穴ありますね」
「あるね」
「結構」
「あるね」
「もう少し慰めて」
「査読中なので」
萌菜美はため息をついた。
でも、続けた。
《私も同じだった。》
ここは自分の判断。
《七秒を知れば将輝を疑い、安全確認の事実を知れば貴嗣と知正を疑った。》
自分の内面だから、本人である萌菜美が確認できる。
「これは残せる」
「うん」
次。
《情報が増えるたび、誰か一人へ星をつけ直していた。》
比喩。
批評。
事実ではない。
でも、自分の認識を表す文章としては使える。
「記事って」
萌菜美が言った。
「事実だけじゃないんですね」
「今さら?」
「いや、分かってたけど」
「うん」
「事実と意見を分けるだけでも足りない」
「どうして?」
「意見の根拠にした事実の範囲が合ってるか見る必要がある」
「そう」
「主語が広すぎないか。因果を勝手につないでないか。未確認を埋めてないか」
「そう」
萌菜美はノートの新しいページへ三つの見出しを書いた。
《確定事実》
《推測・判断》
《不足している確認》
その横へ、もう一つ足す。
《書き方によって生まれる誤読》
真紗子がそれを見る。
「四つ目、いいね」
「今回、一番痛かったので」
記事の最後。
《その星は、本当に必要だろうか。》
萌菜美はそこへ赤を入れなかった。
「残す?」
「今は」
「理由は?」
「答えじゃなくて問いだから」
「問いなら何でもいい?」
「よくない」
「じゃあ」
「そこも最後にもう一回見る」
「保留」
「はい」
一時間近くかかった。
仮稿は赤だらけになった。
事実そのものの誤りは、今のところ見つからない。
でも、
主語が広い。
理由の掲載確認が終わっていない。
事実と因果の距離が近すぎる。
説明を後ろへ置くと、一文だけで誤解される。
未確認のまま残したところがある。
問題は、嘘か本当かだけではなかった。
「謝罪文、書き直します」
萌菜美は最初の三行を開いた。
《共有設定の確認が不十分だったことをお詫びします。》
そこは残す。
そのあとへ、新しく書く。
《また、流出した文章には確認済みの事実が含まれていましたが、当事者確認前の説明不足な状態であり、一部だけでは別の意味に受け取られる可能性がありました。》
次。
《今後は共有設定だけでなく、確認済み事実・推測・未確認事項を区別し、文章の一部だけでも確定していない因果関係を断定したように読まれないかを確認します。》
「これ」
萌菜美が言う。
「まだ公開用じゃないです」
「うん」
「まず顧問と当事者に見せる」
「うん」
「謝罪も、確認してから出す」
「それでいい」
萌菜美は保存した。
共有設定。
個別共有。
一般アクセス。
親フォルダ。
全部見る。
そのあと、机に広がった赤い紙を見た。
「真紗子」
「何?」
「私、他人の記事を批評する前に、自分の記事をレビューすることになりました」
「題材としては優秀」
「嬉しくない」
「でも必要」
「はい」
萌菜美は赤ペンをキャップへ戻した。
事故の直接原因は、まだ分からない。
仮稿がどこまで広がったかも、完全には分からない。
でも、自分の文章のどこが危なかったかは、少しずつ分かってきた。
事実。
推測。
確認不足。
そして、事実の並べ方が作る意味。
次に記事を書くなら、最初から全部分ける。
萌菜美は赤だらけの仮稿を閉じた。
謝るだけでは足りない。
自分が何を間違えたかを、自分の言葉で説明できなければ、訂正にはならない。
【終】
翌日の放課後、萌菜美は謝罪文を書いていた。
《このたび、新聞部の未完成原稿が意図せず閲覧可能な状態となり、関係する皆さんに迷惑をかけました。》
その次。
《共有設定の確認が不十分だったことをお詫びします。》
さらに、
《今後は原稿管理を徹底し、同様のことが起きないよう努めます。》
そこまで書いて、真紗子に見せた。
「どうですか」
真紗子は読んだ。
三行。
もう一度読んだ。
「駄目」
「早い」
「謝罪だけで終わってる」
「まず謝るのが先じゃないですか」
「先だけど、全部じゃない」
「管理方法も直すって書いてます」
「文章の中身は?」
萌菜美は黙った。
「流出した原因は共有設定だけ?」
「入口はそれです」
「聞いてるのは、広まった一文がどう読まれたか」
真紗子は印刷した二枚を机へ置いた。
将輝の一文。
《送信用コピーを作った将輝は、元映像の冒頭七秒を自分の判断で切ったことを認めている。》
貴嗣と知正の一文。
《二人はこの共同確認を行っていなかった。》
「どっちも事実です」
「それは昨日やった」
「じゃあ何を」
「分類する」
「分類?」
真紗子は赤ペンを一本、萌菜美の前へ置いた。
「一文ずつ。確定事実、推測、確認不足」
「この二文は確定事実」
「本当にそれだけ?」
萌菜美は将輝の一文を見る。
七秒を切った。
本人が認めた。
ここは事実。
「確定です」
「じゃあ、この文だけ読んだ人が『捏造した』と思ったのは、全部読んだ側の問題?」
萌菜美は答えなかった。
「書き方に、誘導はなかった?」
「誘導するつもりは」
「つもりじゃなくて、文」
真紗子が赤ペンを指した。
萌菜美は一文を紙へ写した。
《送信用コピーを作った将輝は、元映像の冒頭七秒を自分の判断で切ったことを認めている。》
その下に、
《確定事実》
と書く。
次に赤で、
《不足:編集目的の説明》
と書いた。
「理由は確認してた」
「でも本文には入ってなかった」
「掲載許可を取ってなかったから」
「それ自体は正しい判断」
「じゃあ」
「正しい判断をした結果、この文は途中だった」
萌菜美は赤字を足した。
《理由は本人確認済みだが掲載確認前のため未記載》
「つまり」
真紗子が言う。
「この一文は嘘ではない。でも完成してない」
「はい」
「完成してない文章が流れた」
「はい」
「じゃあ、問題は管理だけじゃない」
萌菜美は理解した。
「未完成の文を、完成した記事みたいに読める形で置いてた」
「そう」
次。
貴嗣と知正の一文。
《二人はこの共同確認を行っていなかった。》
「確定事実」
「うん」
「すぐ下に、直接原因は未特定って書いてた」
「でも流れたのは一文だけ」
「はい」
萌菜美は赤で書いた。
《不足:事故の直接原因との因果は未確定》
さらに、
《一文単独では「確認を省いた=事故原因」と読まれやすい》
と書く。
手が止まった。
「これ」
「何?」
「私、分かってた」
「何を」
「仮稿を組み直した時、この二つを近くに置き直した」
「うん」
「一文だけ切り取られたら危ないって、少し分かってた」
「うん」
「なのに、ファイル管理では切り取られる可能性を考えてなかった」
真紗子は何も言わなかった。
萌菜美は続けた。
「文章の中では文脈を守った。でも、文章の外では守れてなかった」
「そこまで書ける?」
「書きます」
赤で、
《本文内では補足したが、未完成原稿を第三者が閲覧・保存できる状態にしたため、補足と分離される可能性を残した》
と書いた。
「長い」
「必要なので」
「それでいい」
真紗子は次の紙を出した。
匿名掲示板の投稿。
《例の奇跡動画、編集されてたらしい》
「これは?」
「将輝が七秒を切ったから、編集されていたこと自体は」
「確定?」
萌菜美は考えた。
「『編集』の意味次第」
「そう」
「映像を短くする編集はした。でも、『内容を捏造した編集』って意味なら違う」
分類を書く。
《確定事実:元映像から冒頭七秒を除いた送信用コピーを作成》
《推測:奇跡を作るために内容を捏造した》
《未確認:投稿者が「編集」をどの意味で使ったか》
「次」
《じゃあ事故起こしたのこいつらじゃん》
「推測」
「根拠は?」
「共同確認を省いたこと」
「事実と推測を分けて」
萌菜美は書く。
《確定事実:共同確認を省いた》
《確定事実:事故後、固定ベルトは正常固定状態ではなかった》
《未確定:固定不十分が生じた直接原因》
《推測:共同確認を省いた二人が直接事故を起こした》
「こうやって見ると」
萌菜美が言った。
「元の事実は少ない」
「うん」
「その周りに推測がくっついてる」
「うん」
「でも、推測がくっつきやすい事実を私が出した」
「そこも正確に」
「出した、じゃない。出る状態にした」
「そう」
萌菜美は訂正する。
言葉一つでも、自分に有利にも不利にもできる。
だから、正確にする。
「次は?」
真紗子が言う。
「まだあります?」
「萌菜美の下書き」
「全部?」
「流出したところだけじゃない」
真紗子は印刷した仮稿全体を出した。
「自分で査読する」
「今?」
「今」
萌菜美は顔をしかめた。
「顧問に謝罪文出すほうが先じゃ」
「謝罪文に何を直したか書くなら、先に直すところを知らないと」
正論だった。
萌菜美は赤ペンを持つ。
冒頭。
事故の十二秒。
十九秒の元映像。
将輝の七秒。
貴嗣と知正の共同確認。
固定ベルト。
直接原因未特定。
途中まで読む。
「ここ」
自分で止めた。
《問題は、短い動画だけではない。》
「これは事実じゃない」
「何?」
「私の判断」
「分類」
赤で、
《批評・判断》
と書く。
次。
《動画を見た側は、十二秒しかないと知りながら、その十二秒の外側まで想像で埋めた。》
「これ、強い」
「どうして」
「『見た側』を全部まとめてる」
萌菜美は読み直す。
確かに、全員ではない。
貴嗣を英雄と呼んだ人。
千馬を無謀だと批判した人。
何も書かなかった人もいる。
判断を保留した人もいるかもしれない。
「主語が広すぎる」
「うん」
赤で、
《修正要:一部の反応を「見た側」全体へ一般化している》
と書く。
次。
《貴嗣を「本物の英雄」と呼び、千馬を「迷惑な生徒」と呼んだ。》
「実際にそういう投稿はあった」
「じゃあ確定?」
「投稿があったことは確定。でも『見た側がそう呼んだ』まで広げると違う」
分類。
《確定事実:その趣旨の投稿・反応を確認》
《修正要:反応主体の範囲を限定する》
萌菜美は赤ペンを置きたくなった。
「自分の記事、穴ありますね」
「あるね」
「結構」
「あるね」
「もう少し慰めて」
「査読中なので」
萌菜美はため息をついた。
でも、続けた。
《私も同じだった。》
ここは自分の判断。
《七秒を知れば将輝を疑い、安全確認の事実を知れば貴嗣と知正を疑った。》
自分の内面だから、本人である萌菜美が確認できる。
「これは残せる」
「うん」
次。
《情報が増えるたび、誰か一人へ星をつけ直していた。》
比喩。
批評。
事実ではない。
でも、自分の認識を表す文章としては使える。
「記事って」
萌菜美が言った。
「事実だけじゃないんですね」
「今さら?」
「いや、分かってたけど」
「うん」
「事実と意見を分けるだけでも足りない」
「どうして?」
「意見の根拠にした事実の範囲が合ってるか見る必要がある」
「そう」
「主語が広すぎないか。因果を勝手につないでないか。未確認を埋めてないか」
「そう」
萌菜美はノートの新しいページへ三つの見出しを書いた。
《確定事実》
《推測・判断》
《不足している確認》
その横へ、もう一つ足す。
《書き方によって生まれる誤読》
真紗子がそれを見る。
「四つ目、いいね」
「今回、一番痛かったので」
記事の最後。
《その星は、本当に必要だろうか。》
萌菜美はそこへ赤を入れなかった。
「残す?」
「今は」
「理由は?」
「答えじゃなくて問いだから」
「問いなら何でもいい?」
「よくない」
「じゃあ」
「そこも最後にもう一回見る」
「保留」
「はい」
一時間近くかかった。
仮稿は赤だらけになった。
事実そのものの誤りは、今のところ見つからない。
でも、
主語が広い。
理由の掲載確認が終わっていない。
事実と因果の距離が近すぎる。
説明を後ろへ置くと、一文だけで誤解される。
未確認のまま残したところがある。
問題は、嘘か本当かだけではなかった。
「謝罪文、書き直します」
萌菜美は最初の三行を開いた。
《共有設定の確認が不十分だったことをお詫びします。》
そこは残す。
そのあとへ、新しく書く。
《また、流出した文章には確認済みの事実が含まれていましたが、当事者確認前の説明不足な状態であり、一部だけでは別の意味に受け取られる可能性がありました。》
次。
《今後は共有設定だけでなく、確認済み事実・推測・未確認事項を区別し、文章の一部だけでも確定していない因果関係を断定したように読まれないかを確認します。》
「これ」
萌菜美が言う。
「まだ公開用じゃないです」
「うん」
「まず顧問と当事者に見せる」
「うん」
「謝罪も、確認してから出す」
「それでいい」
萌菜美は保存した。
共有設定。
個別共有。
一般アクセス。
親フォルダ。
全部見る。
そのあと、机に広がった赤い紙を見た。
「真紗子」
「何?」
「私、他人の記事を批評する前に、自分の記事をレビューすることになりました」
「題材としては優秀」
「嬉しくない」
「でも必要」
「はい」
萌菜美は赤ペンをキャップへ戻した。
事故の直接原因は、まだ分からない。
仮稿がどこまで広がったかも、完全には分からない。
でも、自分の文章のどこが危なかったかは、少しずつ分かってきた。
事実。
推測。
確認不足。
そして、事実の並べ方が作る意味。
次に記事を書くなら、最初から全部分ける。
萌菜美は赤だらけの仮稿を閉じた。
謝るだけでは足りない。
自分が何を間違えたかを、自分の言葉で説明できなければ、訂正にはならない。
【終】



