初恋ラプソディ



「ただいま」

「おかえりー」

 キッチンから、ママが顔を出した。

 そして。

「…………」

 止まった。

「……律?」

 ママの表情が歪む。

  無理もない。

 今、ボクの顔は。

 頬が赤く腫れていて、何なら唇の端も少し切れていたから。

 ヴァイオリンの先生もびっくりしていたけど、学校の体育の授業で飛んできたソフトボールが当たったと、しれっと誤魔化した。

「え」

「ママ、何?」  何が言いたいかはわかる。でも、敢えて何でもない顔で返す。

「ちょ、ちょっと待って。何? 何なの、これ。律、これ……どうしたの!?」

「別に、大丈夫」

「大丈夫じゃないでしょ!!」

 ママが慌てて駆け寄ってきた。

「顔! 顔どうしたの!?」

 まあ、これ以上誤魔化しても……バレたときが面倒だしな。

「ちょっと、殴られただけ」

「ちょっと殴られた!?」

 声が裏返った。

「誰に!?」

「……」

「学校!? 喧嘩!? 先生知ってる!? 病院行った!? 頭打ってない!? 気持ち悪くない!?」

「ママ、落ち着いて」

「落ち着けるわけないでしょ!」

 ママ、だいぶ取り乱しているな。

「痛い?」

「少し」

「少しって……」

 ママが泣きそうな表情になる。

「亞紗斗さん!!」

 ほとんど叫んでいた。

「何だ」

 奥の部屋から、パパが出てくる。

「律が……!」

 パパの視線が、ボクに向いた。

 パパ、帰っていたんだ。

 ボクは途端に、全身に緊張が走った。

「…………」

 ぴたり。

 パパの足が止まる。