初恋ラプソディ



 でも。

 一番わからなくなったのは。

 その後だった。

『律、かっこよかった』

『は?』

『助けてくれてありがとう』

 そして。

 頬に触れた。

 瑠花の唇。
 
 一回だけじゃない。

 二回も。

 

「…………」

 思い出しただけで。

 心臓がうるさい。

「何なんだよ……」

 ベッドの上で寝返りを打つ。

 眠れない。
  

 目を閉じると、瑠花の顔が浮かぶ。


 泣いてた顔。
 怒ってた顔。
 笑った顔。

 そして。

 キスしたあとの顔。

「……最悪」

 布団を頭までかぶる。

 何で。

 頬だぞ。

 たったそれだけ。

 小さい頃だって、ママに何回もされたことある。

 なのに。

 瑠花だと、全然違った。


 *

 翌日。

「律ー!」

 小学校の校門近く。

 聞き慣れた声。

 振り向くと、瑠花がいた。


「……何」

「その言い方何?」

「別に」

「顔、大丈夫?」

「ああ」

「見せて」

「いい」

「いいから」

 近づいてくる。

 反射的に一歩下がった。

「……え?」

「何」

「今、逃げた?」

「逃げてない」

「逃げたじゃん」

「近いから」

「いつもこれくらいじゃん」

「…………」

 そう。

 いつもなら。

 何とも思わなかった。

 でも。

 今は無理。

「律?」

「何」

「まだ痛い?」

「痛くない」

「じゃあ、なんで顔赤いの?」

「暑い」

「今日寒いけど」

「……うるさい」

 瑠花が首を傾げる。

 それだけで。

 可愛いと思った。

「…………」

 その瞬間。

 やっと。

 わかった。

 ああ。
 そういうことか。

 ボク。

 瑠花が好きなんだ。


 ずっと近くにいたから。
 近すぎたから。

 気づかなかった。

 瑠花に彼氏ができて嫌だったのも。

 あいつに触られてるのを見て腹が立ったのも。

 泣いてる顔を見たくなかったのも。

 全部。

 たぶん――好きだからだ。


「律?」

「……何」

「ぼーっとしてる」

「してない」

「してるよ」

 瑠花が笑う。

 その笑顔を見たら。

 また胸が苦しくなる。

「瑠花」

「ん?」

「……もう変な男と付き合うなよ」

「え?」

「次からは、ちゃんと選んで」

「何それ」

「そのままの意味」

「律って、お父さんみたい」

「違う」

「ふふ」

 瑠花はまだ知らない。

 ボクが今。

 初めて――女の子を好きだと自覚したことを。


「ねえ律」

「何」

「また守ってね」

「…………」

 簡単に言うな。

 そんなこと言われたら。

「……うん」

 断れるわけないだろ。

 瑠花がボクより三つ年上だとか。

 今まで姉みたいに思ってたとか。

 そんなことは。

 たぶん、もう関係ない。



 ボクの初恋は。

 ずっとそばにいた女の子だった。

 気づくのが。

 少し遅かっただけで。