初恋ラプソディ

「……本当に、大した怪我じゃなくてよかった」

「パパ」

「何だ」

「珍しいね」

「何が」

「そんな顔するの」

「……うるさい」

 ボクは笑った。

 ママも笑った。

 そして思う。

 パパは……きっと今夜。

 何度もボクの部屋を覗きに来る。

 ボクが寝たあとに。

 頬の腫れを確かめに――そして、翌朝になっても。

「別に心配してない」

 とか言うんだろうな。

 絶対、心配しまくってるくせに。


 *

「で」

 ママが、じっとボクを見る。

「鼻血は?」

「……何」

「鼻血」

「それは、殴られたから」

「そうなの?」

「うん」

 嘘ではない。

 たぶん。

 いや。

 正確には違うけど……別に言う必要もない。

 瑠花に頬キスされて、その直後に鼻血が出たなんて。

 絶対に――言う必要はない。

「ふーん……」

 ママはまだ疑っている。

「ほんと?」

「ほんと」

「律」

「何」

「目、泳いでる」

「泳いでない」

「泳いでるよ」

「気のせい」

 パパが横から口を挟む。

「梨歩」

「何?」

「鼻血くらいあるだろ」

「でも顔殴られたの頬だよ?」

「衝撃で出ることもある」

「そうなのかな……」

「あるだろ」

 パパ、ありがとう。

 今だけは心からそう思った。

 この話はこれで終わり。

 そう思った。

 そのとき。

 ママのスマホがまた鳴った。