増子くんは恐そうだけど、本当は優しい

 その日の昼休み。僕は知ちゃんが「一緒に昼ごはん食べよう」と誘いに来る前に、こっそり教室を抜け出した。

 知ちゃんは友だちが多いので、僕一人いなくても困らないだろうし、兄さんへの取り次ぎを頼みに来る人たちも、この時間くらいお休みしても怒らないでくれるはず。
 自分の役目だと思っているそれを休止しても、果たしたい目的が今の僕にはあった。

 まずは昇降口へ行って、靴箱をのぞいてみる。

(出席番号26だから、たぶんここのはず……)

 目当ての場所に、大きな靴が入っていることを確認して、ならば校内のどこにいるのだろうかと考えを廻らせる。

(どこかの空き教室や、準備室だったりしたら探すのが難しいけど……まずは定番からかな)

 僕は靴箱の近くにある階段を、上へと昇り始めた。
 三階までは教室が並ぶ廊下と繋がっていて、その先まで昇ると、もう屋上へ出る扉しかない。
 扉に鍵がかかっていたらどうしようと、一瞬思ったが、そんなことはなかった。ドアノブを回してみたら、簡単に開いた。

 ギイッと音をたてて開いた扉から、おそるおそる外を覗いてみる。
 想像していたよりも狭くて、フェンスに囲まれた古い給水タンクと非常用の鉄製の階段しかなく、人の気配もなかった。

(やっぱりそう簡単に見つからないか……)

 そう思って扉を閉めようとしたのに、閉まらない。

「え?」

 どうしてだろうと何気なく上を見上げて、僕の頭よりもずっと高い位置で、大きな手が扉を掴んでいることに気がついた。

「うわああっ」

 扉に手が届くほど僕のすぐ後ろに、いつの間にか誰かが立っていることにまるで気がついていなかった。
 扉の向こうに誰かが——「彼が」いないか、期待して、とても集中していたからに他ならない。
 手の主は僕をかわして、扉の隙間からさっと屋上へ出ていく。

「あ………!」

 それは僕が、ここにいないかと期待して、捜しにきたうしろ姿。
 少し目を離すとすぐにいなくなってしまうその背中を、今度こそ逃がさないように、僕は必死に手を伸ばした。

「増子くん、待って!」

 初夏の眩しい太陽の下で、白いシャツ姿の彼がふり返った。