増子くんは恐そうだけど、本当は優しい

「聖良、起きろ」

 耳に馴染んだ僕を呼ぶ声に、僕は目を瞬かせる。
 瞼を開けると飛び込んでくる眩しい光に、目を細めながら視線を上向けると、僕を見下ろす優しい眼差しと目が合う。

「ん……僕、寝てた?」
「少しな」

 どうやら僕は増子くんの膝を借りて、うたた寝していたらしい。
 起き上がるのが惜しくて、膝に頬を押しつける。

「もう少しこうしてたい」
「授業サボるな」

 増子くんをこの場所から連れ出すために、あの手この手と口上を並べていた時の僕のように、至極まっとうなことを増子くんが言うのが、面白くて笑ってしまった。

「そうだね」

 僕が笑うと、増子くんの目はますます優しくなる。
 それが、好きだ——と思う。

 増子くんが兄さんに『お願い』をした日から、また僕たちは昼休みをあの屋上で、二人で過ごすようになった。
 他の時間はクラスのみんなと一緒に教室にいるけれど、この時間は二人だけ——それが、お互いに「好きだ」という気持ちを伝えあった僕たちが選んだ日常だ。
 教室にいるより近い距離で、二人きりで過ごす。
 それが幸せで、僕は前以上にいつもぽやぽやしている。

「行くぞ」

 増子くんに急かされて、仕方なく身体を起こした。
 すぐに立ち上がった増子くんに置いていかれないように、僕も急いでその後を追う。
 大きな背中が屋上への出入り口の扉へ向かうのを見ていると、やっぱりどうしても頬が緩む。
 あの日、一生懸命に追いかけた背中——それが今は、確実に僕を待っていてくれるとわかるから。

「待ってよ」

 差し伸べた僕の手を、増子くんも手を伸ばして掴んでくれる。僕に向けられる眼差しは、柔らかく温かい。

(やっぱり増子くんは優しい)

 今日もそう実感しながら、手を繋いで教室へ帰るのが、僕の大切な幸せだと思った。