増子くんは恐そうだけど、本当は優しい

 その日、増子くんは放課後まで、一度も教室からいなくならなかった。

 昼休みに二人で屋上へ行くこともなく、ひさしぶりに知ちゃんとお弁当を食べた。
 増子くんはずっと隣にいるのだけれど、僕が他の人と話している時は会話に入ってこないので、ほぼ話はできていない。
 まだ先輩たちから助けてくれたことにお礼も言えていないし、僕の名前を呼んでくれたことへの気持ちも伝えられていない。

 放課後になり、僕は思い切って、一緒に帰らないかと誘ってみた。

「増子くん、今日、一緒に帰ってもいい?」

 いつも一緒に帰っている知ちゃんは、何も言わずそーっと僕から離れていく。
 増子くんがまだ顔を上げないうちに、僕に手を振って教室を出て行ってしまった。

(もし増子くんが嫌だって言ったら、いつものように知ちゃんと帰るのに……)

 ズルい僕がそんな逃げ道を作らないためになのか、さっさと帰ってしまった知ちゃんを少し恨めしく思う時間があるくらいには、増子くんの返事は遅い。
 ひょっとして寝ているのかとも思ったが、のっそりと顔を上げた増子くんは、こちらを見ないままでようやく口を開いた。

「ああ」
「————!」

 その短いひとことが、いつだって僕は飛び上がりそうに嬉しくて、急いで帰る準備をする。

「待ってね、すぐ準備するから」

 鞄も持たず、手ぶらの増子くんは、帰るのに準備など必要じゃない。
 立ち上がって教室の出入り口へと向かう。

 でもそこで立ち止まって、僕を待っていてくれることが嬉しかった。
 いつも遠くなっていく背中を、ちょっと寂しく見送っていたので、そうじゃなくて一緒に帰れることが嬉しくて、僕は大急ぎで荷物をまとめて、増子くんのところへ走った。