「どっ、どどど……」
いつも二人で内緒話をする時の階段前の壁際へ行くと、知ちゃんは大急ぎで口を開いた。
でも気持ちばかり焦って、うまく言葉にならないらしく、珍しくどもっている。
「どうしたの?」
僕が笑いながら訊くと、「それはこっちのセリフ!」と叫ばれた。
「え、なんで増子? 増子と一緒に帰ってくるってことは、今まで聖ちゃんが昼休みに会いに行ってた相手って……まさか、増子なの!?」
ずいぶん増子くんの名前を連呼するんだなぁなんて考えると、ますます笑いがこみ上げてきて、結果、知ちゃんの問いに笑いながら答えてしまう。
「うん、そうだよ」
「なんでそんなにニコニコしてんの!?」
それは知ちゃんの焦りようが面白いからでもあるし、ようやくちゃんと、昼休みを増子くんと過ごしていることを話題にできそうだからでもある。
でも一番は——。
「増子くんが、授業受けるために、一緒に教室へ帰ってきてくれたからかな……」
やっぱり笑いながらの僕の返答を聞くと、知ちゃんはガクリと膝を折った。
「ヤバ……清良さんになんて言おう……」
そういえば、僕が昼休みに一人でふらっといなくなることについて、知ちゃんが何か言うこともなかったけれど、兄さんも特に知らない様子だった。
確か、僕のことは逐一報告するようにと、知ちゃんは兄さんから指示を受けているはずなので、それをせずにいてくれたんだなと今更ながら思う。
「兄さんに、何も言わずにいてくれてたんだね」
「ん……」
知ちゃんは大きなため息を吐きながらも、姿勢をもとに戻した。
どうやら頭の切り替えができたらしい。その早さが、いつもすごいと思う。
「聖ちゃんが自分のことを優先するなんて珍しいから、秘密にしといてやりたかったし……あの人もそろそろ弟離れした方がいいと思うし……」
知ちゃんは時々、兄さんのことを一歩引いた場所から冷静に見た発言をする。
心酔して、崇拝するような態度をとる人が多い中、それはとても珍しいことで、「知樹のくせに!」と兄さんは怒り心頭だけど、僕は面白い関係だなとずっと思っている。
「でもさすがに、増子は……」
知ちゃんがまた増子くんの名前を呼んで、それで僕はハッとした。
そうだった。兄さんと知ちゃんのことを考えている場合じゃなかった。
今は増子くんについて、知ちゃんにちゃんと説明しなきゃ。
「増子くん、優しくて良い人だよ……あんな噂、全部嘘だと思う」
なるべく信じてもらえるように、真剣に話すと、知ちゃんはまたはあっとため息を吐いた。
「だろうな、じゃないと聖ちゃんが懐くわけないから」
「懐く……」
その表現に多少引っ掛かりはあるけれど、確かに最初から増子くんの後を必死に追い、かなり早い段階で、さっさとその傍にいることを決めた僕は、主に忠実な忠犬のようかもしれない。
「そんなにあからさまかな」
半分独り言のような呟きに、知ちゃんはしっかりと「うん、かなり」と返事をくれた。
「聖ちゃん……増子のこと好きなの?」
知ちゃんの問いかけに、心臓が大きく跳ねる。
「————!」
それは当然、そうなのだと思う。気になってしょうがなくて、必死に追いかけて、傍にいたくて、一緒にいてほしくて——。
増子くんに向ける思いが、今の僕の全部みたいなところがある。
「うん……好き」
言葉にしてみたら、それがすとんと自分の中にも落ちた。
(そうか、僕って増子くんのことが好きなんだ)
その気持ちは、やっぱり恥ずかしくて照れくさいけれど、自分にとってとても大事なものだと思った。
いつも二人で内緒話をする時の階段前の壁際へ行くと、知ちゃんは大急ぎで口を開いた。
でも気持ちばかり焦って、うまく言葉にならないらしく、珍しくどもっている。
「どうしたの?」
僕が笑いながら訊くと、「それはこっちのセリフ!」と叫ばれた。
「え、なんで増子? 増子と一緒に帰ってくるってことは、今まで聖ちゃんが昼休みに会いに行ってた相手って……まさか、増子なの!?」
ずいぶん増子くんの名前を連呼するんだなぁなんて考えると、ますます笑いがこみ上げてきて、結果、知ちゃんの問いに笑いながら答えてしまう。
「うん、そうだよ」
「なんでそんなにニコニコしてんの!?」
それは知ちゃんの焦りようが面白いからでもあるし、ようやくちゃんと、昼休みを増子くんと過ごしていることを話題にできそうだからでもある。
でも一番は——。
「増子くんが、授業受けるために、一緒に教室へ帰ってきてくれたからかな……」
やっぱり笑いながらの僕の返答を聞くと、知ちゃんはガクリと膝を折った。
「ヤバ……清良さんになんて言おう……」
そういえば、僕が昼休みに一人でふらっといなくなることについて、知ちゃんが何か言うこともなかったけれど、兄さんも特に知らない様子だった。
確か、僕のことは逐一報告するようにと、知ちゃんは兄さんから指示を受けているはずなので、それをせずにいてくれたんだなと今更ながら思う。
「兄さんに、何も言わずにいてくれてたんだね」
「ん……」
知ちゃんは大きなため息を吐きながらも、姿勢をもとに戻した。
どうやら頭の切り替えができたらしい。その早さが、いつもすごいと思う。
「聖ちゃんが自分のことを優先するなんて珍しいから、秘密にしといてやりたかったし……あの人もそろそろ弟離れした方がいいと思うし……」
知ちゃんは時々、兄さんのことを一歩引いた場所から冷静に見た発言をする。
心酔して、崇拝するような態度をとる人が多い中、それはとても珍しいことで、「知樹のくせに!」と兄さんは怒り心頭だけど、僕は面白い関係だなとずっと思っている。
「でもさすがに、増子は……」
知ちゃんがまた増子くんの名前を呼んで、それで僕はハッとした。
そうだった。兄さんと知ちゃんのことを考えている場合じゃなかった。
今は増子くんについて、知ちゃんにちゃんと説明しなきゃ。
「増子くん、優しくて良い人だよ……あんな噂、全部嘘だと思う」
なるべく信じてもらえるように、真剣に話すと、知ちゃんはまたはあっとため息を吐いた。
「だろうな、じゃないと聖ちゃんが懐くわけないから」
「懐く……」
その表現に多少引っ掛かりはあるけれど、確かに最初から増子くんの後を必死に追い、かなり早い段階で、さっさとその傍にいることを決めた僕は、主に忠実な忠犬のようかもしれない。
「そんなにあからさまかな」
半分独り言のような呟きに、知ちゃんはしっかりと「うん、かなり」と返事をくれた。
「聖ちゃん……増子のこと好きなの?」
知ちゃんの問いかけに、心臓が大きく跳ねる。
「————!」
それは当然、そうなのだと思う。気になってしょうがなくて、必死に追いかけて、傍にいたくて、一緒にいてほしくて——。
増子くんに向ける思いが、今の僕の全部みたいなところがある。
「うん……好き」
言葉にしてみたら、それがすとんと自分の中にも落ちた。
(そうか、僕って増子くんのことが好きなんだ)
その気持ちは、やっぱり恥ずかしくて照れくさいけれど、自分にとってとても大事なものだと思った。



