増子くんは恐そうだけど、本当は優しい

「おーい弟くん、会いたいって先輩が来てるよー」

 廊下側の席の奴に声をかけられて、僕は慌てて自分の席を立った。

「あ! ありがとう」

 続いてすぐに、教室の出入り口付近に集まっていた奴らからも、声がかかる。

「弟くん、こっちもー」
「じゃあ、次に行くね」

 急がなければと思いながら、廊下の方へ向かおうとすると、僕の前の席に座って今まで話をしていた親友が、あきれたような声を上げる。

(せい)ちゃん、あのさあ」
「え……何?」

 二つも声かけが続いているし、出来ればそっちの話は後にしてほしいという気持ちで返事をすると、さすが小学校からの友だちの(とも)ちゃんは、僕の意図を組んで前に向き直ってくれる。

「なんでもね、いいよ後で……」
「ごめんね! ありがとう!」

 僕は知ちゃんに手を合わせて、廊下へ急いだ。
 最初に待っていたのは見たことのない二年生で、僕の顔を見ると、緊張気味に紙袋をさし出す。

「あの、これ……高崎先輩に渡してほしいんだけど……」

 僕は丁寧に紙袋を受け取りながら、その人に尋ねた。

「誰からのプレゼントなのかわかるように、中に名前を書いたものは入っていますか?」

 外側をぐるっと見たところ、そういうものが何もなく、確認してみたのだが、訊かれた先輩は面食らったように僕を見る。

「え? いや、入ってないけど……」

 僕は制服の胸ポケットから、メッセージカードとペンをとり出した。

「よかったらこれ、使ってください。名前が書いてあったら兄さん、ちゃんとお礼状を書きますよ」

 訝しい顔で僕を見ていた二年生は、兄さんの話題になった途端、前のめりに僕からペンとメッセージカードを受け取った。

「そうなのか!?」
「はい」

 僕は頷いて、その人がメッセージを書き終わるのを待つ。
 終わったら紙袋に入れて、それを、腕に下げていた大きな折り畳みバッグに大事にしまった。

「確かにお預かりしました」

 その人がお礼を言って去っていくのを見送ると、今度は次の人のところへ急ぐ。

「お待たせしました!」

 そこで待っていたのは二人組の一年生で、一人がもう一人に小突かれて、恥ずかしそうに綺麗な封筒をさし出す。

「あの、これ……高崎先輩に渡してほしくって……」

 こちらは丁寧にクラスと名前が書かれていたので、僕は大切に受け取った。

「兄さんから返事がほしいですか? それとも、読んでもらうだけでいいですか?」

 その人は友だちに向かって「どうしよ? どうしよ?」と相談していたが、心が決まったらしく、僕に向き直る。

「今回は……読んでもらうだけでいいです」
「はい、わかりました」

 折り畳みバッグのポケットに入れていた付箋にそう書いて、封筒に貼って、丁寧にしまう。
 二人が行ってしまってから、他に待っている人はいないか周りを確認して、ひとまず自分の席へ帰った。

「この休み時間は、二人か……」

「お疲れ」と僕を出迎えてくれた知ちゃんは、折り畳みバッグをチラリと見る。

「この間、全校集会があったばかりだから、ちょっと多いね」

 朝からもう二つのプレゼントと、四通の手紙を預かっていることを確認しながら言うと、知ちゃんが深々と息を吐いた。

「あいかわらず清良さんはすげーな」

 兄さんを褒められることはやっぱりとても嬉しいので、僕としては頬が緩んでしまう。

「そうだね」

 その顔を見ながら、知ちゃんもちょっと笑った。

「まったくお前は……」

 ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられて、くすぐったくてまた笑ってしまった。