【毎日更新】魔法王国の幼馴染み(旧・魔法王国の絆の軌跡)

 (誰、だ?…これは…夢か。幻覚か?俺、もう死ぬのか?)

 変貌したセリスの絶美な姿に、ルアンは苦痛の中、思わずそんな事を思った。

 セリスの限界に近かった体にエネルギーが|《みなぎ》り、再度ルアンの治癒を始める。

 (!これは…。覚醒?でもとっくにしたはずなのに…。完全覚醒ってやつかな?)

 自分の変化に驚きつつも、手にそのエネルギーを集める。

 「…何でも良いや、これならルアンを救える!」

 そして、ルアンの腹部に流し込む。
 暫くすると、ルアンの腹部が優しく温かい感覚で包まれる。それは、段々と広がり体中に行き渡る。

 「ん……」

 その温かさにルアンは心地好さと、苦痛が和らいでいくのを感じた。そして、種も成長が止まり、徐々に縮小していき、やがて闇のエネルギー共々、完全に消滅した。

 セリスが、ルアンの顔を見ると苦悶の表情から穏やかな物に変わっていた。呼吸も落ち着き、顔色も戻っている。

 「良かった〜!」

 ルアンの様子に、セリスは安堵の息をつくと、その場にへたりこむように座った。

 (でも、さっきのは何だったんだろう?…国王様の言ってた最後の条件って、もしかして…愛する人が死にかける事だったのかな?
 「悪かったな、セリス。肝心な時に何も出来なくて…」

 彼女が、ボーッと先程の事を思い出し考えていると、ルアンが腕を使い体を起こした。
 そして決まりが悪そうに謝った。
 セリスは、それを首を降って否定する。

 「ううん!そんな事ないよ!ルアンは、あの時、私を励ましてくれたでしょ。ルアンが叱咤してくれたから、私は立ち直れたし戦えたんだよ」
 「……それは、何よりだ」

 そんな彼女にルアンは照れくさくなり、顔を逸し、少しぶっきらぼうに答えた。

 「むしろ謝るのは私の方だよ。私の事に巻き込んでごめんね。」
 「バーカ。それこそ違うだろ。不可抗力なんだから。それに、国王からお前の一族の事を聞いた時から覚悟の上だ。」

 俯きがちに申し訳なさそうに言うセリスに、ルアンはコツンと彼女の額を小突いた。
 セリスが顔を上げると、彼の顔は責めるめるものではなく、むしろ愛おしそうな表情だ。

 「それより、お前さっき、結婚どうのとか言ってたか?」
 「えっ!?いやー…必死だったから覚えてないなぁ〜」

 ルアンが思い出したように問いかけると、セリスは、しどろもどろに答えた。

 (あはは。嘘でしょ!あの状況で、ちゃんと聞こえてたの!?覚えてるの!?)

  自分の声が届き、しかも覚えていてくれた事に対して嬉しさを感じた半面、恥ずかしくなったようだ。
 彼女の顔は熟れた林檎のように真っ赤になっている。

 そんな彼女の態度にルアンは、悪戯っ子のような意地の悪そうな顔をする。

 「嘘だな。その反応じゃ、絶対覚えてるだろ。つーか言っただろ」
 「そ、空耳とか気の所為じゃない?」
 「じゃあ何で目を逸らすんだよ。自分で暴露してるような物だぞ?」
 「うっ……」

 セリスは、赤くなった顔を見られないように逸らすが、ルアンに指摘され、更に顔を赤くし俯いた。

 「それに俺にはハッキリと聞こえたぞ」
 「〜〜〜!分かってるなら改めて聞かないでよ!意地悪!馬鹿!」
 「いってぇ、痛ぇって!やめろ!」
 「からかうルアンが悪い!」

 恥ずかしさの限界を迎えたセリスは、膨れっ面でルアンの肩をバシバシと叩く。口では止めろと言う割に、ルアンもどこか嬉しそうに笑っている。

 (良かったな、セリス。幸せにな。)

 そんな仲睦まじい二人の様子を、影から密かに見ていた人物がいた。セリスと戦った男である。

 ルアンは灰色の髪の男の存在に気がつくと、セリスを止めさせて話しかける。

 「セリス、あそこに誰か居るぞ」
 「え?………あ、あの人は私が戦った…」
 「と言うことは、本当の親父さんか?」
 「うん。会った事ないから解らないけど、多分そうなのかな?」
 「だったら、ちゃんと話せよ。」
 「そうだね。」

 二人がヒソヒソと会話していると、灰色の髪の男はその場を立ち去ろうとする。
 セリスは慌てて、その男を引き留めた。

 「あの!待ってください!」
 「………」

 それに気がついた男は、何も言わずに立ち止まる。振り向きもしない。

 「私は、貴方の話がしたいんです!」
 「話すことなどない。」
 「私には、あるんです!お願いですから、こちらに来てくれませんか?」
 「………」

 暫く黙り込んだ後、二人の方へと歩き出す。それは、実の娘からの頼みに葛藤しているようにも窺えた。しかし、覚悟を決めたのか、二人の方へと歩き出す。

 そして、彼らの前に着くと、外套のフードを外した。中から露わになったのは、灰色の短髪と、セリスと同じ黒い瞳、やや痩せた頬だった。齢四十くらいだろう。

 「あ、来てくれてありがとうございます!私は…」
 「挨拶は良い。話と言うのは?」

 セリスの挨拶を遮るように、言葉を被せ、話を促す男。
 セリスは、一瞬驚き目を丸くするが、直ぐに本題に入った。

 「あ、はい。あの…。あなたは、本当に…私の本当のお父さん、なんですか?」
 「…いや、違うよ。……俺には君のような立派な娘なんて居ない。人違いじゃないか?」
 「本当に…。本当に違うんですか?バルファスの言ってた事を信じる訳ではないけど、じゃあ何で私の事を知ってるって言ったんですか?聖天魔法の事だって」

 セリスは、灰色の髪の男の目を見つめて、矢継ぎ早に尋ねる。
 ルアンは、彼女が言っている事を聞いていない為、黙って二人の様子を窺っている。
 灰色の髪の男は、隠せないと思ったのか、ため息をつくと、重い口を開いた。