「ぐっ⋯!」
パァン!と言う破裂音と立てて、上着の背中上部が弾け飛び血がジワリと滲む彼の逞しい背中が覗く。
何とか踏みとどまったルアンが、痛みに耐えながら振り向くと敵の魔法士は手を突き出す形で地面に伏し気を失っていた。
この間、何が起きたのか分からないセリスは、ただただ目を丸くするしかなかった。
「くそ⋯! まだ動けるのか!」
ルアンは、体を捻り再び雷撃波を食らわせる。
今度こそ、敵の魔法士は動かなくなった。
いつの間にか止んだ喧騒の音が、この乱闘が終わったことを知らせていた。
「くっ⋯!」
「ルアン!?」
敵が倒れたのを見届けたルアンは、緊張が解けたのか痛みに顔を僅かに歪め、よろめく。
「っ」
「ルアン!」
セリスがすぐさま隣から支えようと腕を掴む。
二人の距離は顔がつきそうなほどに近くなり、
(っ!)
セリスは胸の高鳴りをごまかすように顔を逸らした。
(ダメ!今はそんな場合じゃない。照れてる場合じゃないの!)
そして、そう自分に言い聞かすとルアンの背中の傷に目を向けると、そこには生々しい傷があった。
「…酷い傷……ごめん。私のせいで…」
「大したことはない。それよりもお前が無事で良かった」
沈痛な面持ちで俯きで謝罪するセリスの頭の上に、ルアンの手がそっと置かれる。
ただ、『ぽんっ』と乗せられただけの掌の温度は、いつもより少しばかり熱かった。
その温もりに泣きそうになりながらも、セリスが躊躇いがちに顔を上げる。
すると、そこには柔和な目つきのルアンがいた。しかし、瞳の中には僅かに苦痛の色が浮かんでいる。無理をしているのは明白だ。
「ルアン…?怒ってないの?」
「どうして…お前を、怒る必要があるんだ…」
「だって、そもそも私が隙を作らなきゃ、ルアンが怪我することもなかった⋯!」
「何か、…あったんだろ。お前は、理由もなく、⋯油断するような奴じゃないのは、昔から知ってる…っ」
ルアンは喘ぎ喘ぎ、自責の念に駆られているセリスを宥めるように言葉を紡ぐ。
けれども、セリスの顔は曇ったままだ。
「⋯⋯そう、だな⋯。⋯悪いと思ってるなら、後で事情を詳しく聞かせてくれ」
「…う、うん」
「この話は、終わりだ。俺たちも、戻るぞ…」
漸くセリスが頷いたの見ると、ルアンは手を離す。次いで、背中の傷に響かないよう慎重に体に力を込め、
「戻るって言ったって、その傷じゃ⋯」
「言っただろ⋯大したことないって」
重い足を一歩踏み出した、その瞬間。
ルアンの背中の傷が引きつるような鋭い悲鳴を上げた。
「ーーーッ!」
彼の口から思わず苦鳴を鳴らし、地面に膝をついてしまう。
「ほら、もう言わんこっちゃない…」
セリス、やれやれといった表情で言うと、ルアンの腕を首に回す。
「っ………すまない」
「いいよ、慣れてるし。ほら医務室行こう。手当てしてもらわないと、悪化させちゃう」
決まりが悪そうに顔を逸らし呟くルアンに、セリスは苦笑いで返した後、医務室へ向かって一歩を踏み出した。
悔しさと苦悶の表情を浮かべるルアンを敢えて見ないようにしながら。
そうして一歩一歩着実に歩を進めていた二人だが、数キロ歩いた地点で、とうとうルアンに体力の限界が来たのだろう。
彼の体がグラリと前に傾く。
「っとー!」
セリスが倒れかけたルアンを渾身の力で引き止め、座らせた。
(これ以上は、もう⋯。どうしよう)
ゼェーハァーと、一際苦しそうに喘いでいるルアンに憂色の色を濃くしつつ、
無理をさせずに、連れて行く方法を模索していた。
そこへ、土を蹴るような慌ただしい足音が近づいてくる。
「お、居た居た! おーい! 二人共!」
聞き慣れた声にセリスが顔を上げる。
見えたのは鮮やかな赤髪の仲間、ガレンだ。
眉が見える程短い前髪、ツンツンとした短髪、少年のような顔つき、彼の活発さを表している。
彼は来るやいなや二人の前で片膝をついた。
「どうした? こんなところに二人で座って」
「あのね…」
「おい、セリス」
ガレンの質問にセリスが答えようとした時、ルアンが余計な事を言うなと言わんばかりに、目で牽制した。
しかし、彼女はそれを一瞥し受け流すと、平然と話を続ける。
「……ルアンが怪我しちゃったから、医務室まで連れていきたいんだけど……。もう体力もなさそうで」
「怪我?」
「そう、背中をね」
セリスに告げられた言葉に、ガレンの表情から笑みが消え、真面目なものへと変わる。
そのまま、ルアンの背後に回り込み、痛々しい有様を正視した。
「ありゃー、これは随分やられてるな。ルアンにしては珍しいんじゃね? こんなヘマするの」
尋常ではない負傷具合に、ガレンの眉間に皺が刻まれる。が、すぐさま表情を塗り替え何時もの明るい調子に戻し、あえて軽口を叩いてみせる。
「………あ! もしかして、セリスに何かあったか?」
「……うる、せぇな。なんだって…いいだろ」
からかわれた事が気に障ったのか、ルアンは怒気のはらんだ瞳でガレンを睨む。
しかしながら、額に滲む脂汗と青白い顔色が迫力を欠かせていた。
「悪い悪い。で? 医務室に連れてけば良いのか?」
「うん。お願いできる?」
ガレンはセリスの頼みを「おー、任せろ!」と快諾した。それから、ルアンの前に背を向けしゃがむと「乗れよ」と顎で促す。
「…断る…。少しすれば……なんとか、歩ける……」
「いいから、おぶられとけって」
「いい…っつってんだろ…」
だが、ルアンはガレンの厚意を頑なに突っぱねる。
いくら仲が良いとはいえ、年下に背負われるのは彼のプライドが許さなかったのだ。
けれども、ガレンとて、これ以上無理をさせるつもりは毛頭ない。
ガレンは、ルアンを無理やり背負った。
「お、おい!やめろ⋯!」と嫌がるルアンの声を無視して。
ガレンの横を付き添うように歩くセリスの甘く優しい香りが、ルアンに届く。
「私が治癒魔法使えたら、良かったんだけどね⋯」
「⋯そもそも、使える奴自体、少ないだろ……。お前が気にすることじゃ、ない……」
「そうだぞー。オレだって使えないしな」
そうこうしながら、医務室に着いた三人。
室内には、治癒魔法士であり医務官のギルバードが待機していた。
「あ、ギルバードさん。良かったです。居てくれて」
「こいつの事、お願いします」
ガレンはルアンをギルバードに託すと、「じゃオレは、まだ片付けがあるから」と、言って去っていく。
セリスの礼に手を振りながら。
奥ではルアンを受け取ったギルバードが、直ちに彼をベットにうつ伏せに寝かせ、手を翳しヒーラーズ・アイを発動し、脳内に鮮明に移しだされるルアンの体内(患部付近)を見ていた。
「骨や内蔵に異常はないね。命にも別状もないよ」
ギルバードは魔法を解除し手を離すと、視えた結果をセリスに伝える。
「良かった…」
それを聞いたセリスは、ホッと息を吐き出し、漸く緊張で強張っていた表情を和らげた。
最後にギルバードの治癒魔法で、止血と傷口を塞ぎ治療は終わった。
一連の治療が終わり、彼は手を離し「ふぅ…」と一息つき、
「とりあえず傷は塞いだけど、まだ激しく動くと開いちゃうから、気をつけてね」と注意を促した。
こうして、ギルバードの治療により大幅に回復したルアンが、この後セリスに話しかけ冒頭に至るわけである。
パァン!と言う破裂音と立てて、上着の背中上部が弾け飛び血がジワリと滲む彼の逞しい背中が覗く。
何とか踏みとどまったルアンが、痛みに耐えながら振り向くと敵の魔法士は手を突き出す形で地面に伏し気を失っていた。
この間、何が起きたのか分からないセリスは、ただただ目を丸くするしかなかった。
「くそ⋯! まだ動けるのか!」
ルアンは、体を捻り再び雷撃波を食らわせる。
今度こそ、敵の魔法士は動かなくなった。
いつの間にか止んだ喧騒の音が、この乱闘が終わったことを知らせていた。
「くっ⋯!」
「ルアン!?」
敵が倒れたのを見届けたルアンは、緊張が解けたのか痛みに顔を僅かに歪め、よろめく。
「っ」
「ルアン!」
セリスがすぐさま隣から支えようと腕を掴む。
二人の距離は顔がつきそうなほどに近くなり、
(っ!)
セリスは胸の高鳴りをごまかすように顔を逸らした。
(ダメ!今はそんな場合じゃない。照れてる場合じゃないの!)
そして、そう自分に言い聞かすとルアンの背中の傷に目を向けると、そこには生々しい傷があった。
「…酷い傷……ごめん。私のせいで…」
「大したことはない。それよりもお前が無事で良かった」
沈痛な面持ちで俯きで謝罪するセリスの頭の上に、ルアンの手がそっと置かれる。
ただ、『ぽんっ』と乗せられただけの掌の温度は、いつもより少しばかり熱かった。
その温もりに泣きそうになりながらも、セリスが躊躇いがちに顔を上げる。
すると、そこには柔和な目つきのルアンがいた。しかし、瞳の中には僅かに苦痛の色が浮かんでいる。無理をしているのは明白だ。
「ルアン…?怒ってないの?」
「どうして…お前を、怒る必要があるんだ…」
「だって、そもそも私が隙を作らなきゃ、ルアンが怪我することもなかった⋯!」
「何か、…あったんだろ。お前は、理由もなく、⋯油断するような奴じゃないのは、昔から知ってる…っ」
ルアンは喘ぎ喘ぎ、自責の念に駆られているセリスを宥めるように言葉を紡ぐ。
けれども、セリスの顔は曇ったままだ。
「⋯⋯そう、だな⋯。⋯悪いと思ってるなら、後で事情を詳しく聞かせてくれ」
「…う、うん」
「この話は、終わりだ。俺たちも、戻るぞ…」
漸くセリスが頷いたの見ると、ルアンは手を離す。次いで、背中の傷に響かないよう慎重に体に力を込め、
「戻るって言ったって、その傷じゃ⋯」
「言っただろ⋯大したことないって」
重い足を一歩踏み出した、その瞬間。
ルアンの背中の傷が引きつるような鋭い悲鳴を上げた。
「ーーーッ!」
彼の口から思わず苦鳴を鳴らし、地面に膝をついてしまう。
「ほら、もう言わんこっちゃない…」
セリス、やれやれといった表情で言うと、ルアンの腕を首に回す。
「っ………すまない」
「いいよ、慣れてるし。ほら医務室行こう。手当てしてもらわないと、悪化させちゃう」
決まりが悪そうに顔を逸らし呟くルアンに、セリスは苦笑いで返した後、医務室へ向かって一歩を踏み出した。
悔しさと苦悶の表情を浮かべるルアンを敢えて見ないようにしながら。
そうして一歩一歩着実に歩を進めていた二人だが、数キロ歩いた地点で、とうとうルアンに体力の限界が来たのだろう。
彼の体がグラリと前に傾く。
「っとー!」
セリスが倒れかけたルアンを渾身の力で引き止め、座らせた。
(これ以上は、もう⋯。どうしよう)
ゼェーハァーと、一際苦しそうに喘いでいるルアンに憂色の色を濃くしつつ、
無理をさせずに、連れて行く方法を模索していた。
そこへ、土を蹴るような慌ただしい足音が近づいてくる。
「お、居た居た! おーい! 二人共!」
聞き慣れた声にセリスが顔を上げる。
見えたのは鮮やかな赤髪の仲間、ガレンだ。
眉が見える程短い前髪、ツンツンとした短髪、少年のような顔つき、彼の活発さを表している。
彼は来るやいなや二人の前で片膝をついた。
「どうした? こんなところに二人で座って」
「あのね…」
「おい、セリス」
ガレンの質問にセリスが答えようとした時、ルアンが余計な事を言うなと言わんばかりに、目で牽制した。
しかし、彼女はそれを一瞥し受け流すと、平然と話を続ける。
「……ルアンが怪我しちゃったから、医務室まで連れていきたいんだけど……。もう体力もなさそうで」
「怪我?」
「そう、背中をね」
セリスに告げられた言葉に、ガレンの表情から笑みが消え、真面目なものへと変わる。
そのまま、ルアンの背後に回り込み、痛々しい有様を正視した。
「ありゃー、これは随分やられてるな。ルアンにしては珍しいんじゃね? こんなヘマするの」
尋常ではない負傷具合に、ガレンの眉間に皺が刻まれる。が、すぐさま表情を塗り替え何時もの明るい調子に戻し、あえて軽口を叩いてみせる。
「………あ! もしかして、セリスに何かあったか?」
「……うる、せぇな。なんだって…いいだろ」
からかわれた事が気に障ったのか、ルアンは怒気のはらんだ瞳でガレンを睨む。
しかしながら、額に滲む脂汗と青白い顔色が迫力を欠かせていた。
「悪い悪い。で? 医務室に連れてけば良いのか?」
「うん。お願いできる?」
ガレンはセリスの頼みを「おー、任せろ!」と快諾した。それから、ルアンの前に背を向けしゃがむと「乗れよ」と顎で促す。
「…断る…。少しすれば……なんとか、歩ける……」
「いいから、おぶられとけって」
「いい…っつってんだろ…」
だが、ルアンはガレンの厚意を頑なに突っぱねる。
いくら仲が良いとはいえ、年下に背負われるのは彼のプライドが許さなかったのだ。
けれども、ガレンとて、これ以上無理をさせるつもりは毛頭ない。
ガレンは、ルアンを無理やり背負った。
「お、おい!やめろ⋯!」と嫌がるルアンの声を無視して。
ガレンの横を付き添うように歩くセリスの甘く優しい香りが、ルアンに届く。
「私が治癒魔法使えたら、良かったんだけどね⋯」
「⋯そもそも、使える奴自体、少ないだろ……。お前が気にすることじゃ、ない……」
「そうだぞー。オレだって使えないしな」
そうこうしながら、医務室に着いた三人。
室内には、治癒魔法士であり医務官のギルバードが待機していた。
「あ、ギルバードさん。良かったです。居てくれて」
「こいつの事、お願いします」
ガレンはルアンをギルバードに託すと、「じゃオレは、まだ片付けがあるから」と、言って去っていく。
セリスの礼に手を振りながら。
奥ではルアンを受け取ったギルバードが、直ちに彼をベットにうつ伏せに寝かせ、手を翳しヒーラーズ・アイを発動し、脳内に鮮明に移しだされるルアンの体内(患部付近)を見ていた。
「骨や内蔵に異常はないね。命にも別状もないよ」
ギルバードは魔法を解除し手を離すと、視えた結果をセリスに伝える。
「良かった…」
それを聞いたセリスは、ホッと息を吐き出し、漸く緊張で強張っていた表情を和らげた。
最後にギルバードの治癒魔法で、止血と傷口を塞ぎ治療は終わった。
一連の治療が終わり、彼は手を離し「ふぅ…」と一息つき、
「とりあえず傷は塞いだけど、まだ激しく動くと開いちゃうから、気をつけてね」と注意を促した。
こうして、ギルバードの治療により大幅に回復したルアンが、この後セリスに話しかけ冒頭に至るわけである。


