医務室の場所を聞き出したルアンは、腰をかがめ座り込んでいるセリスに手を差し出す。
「とりあえず医務室に行くぞ。動けるかか?」
「う、うん」
セリスはルアンの手を取り立ち上がる。
少し足が痛みはするが、歩けない程では無さそうである。
セリスはルアンに支えられながら歩き、二人は部屋を出ていく。
医務室に着くと、医務官らしき人物がおり、手当てをすると言われたが、ルアンはそれを断り自分が手当てすると言う。
「しかし…」
「頼みます、俺にやらせてください」
「分かりました……では、私は出ていきますね。薬などは自由にお使い下さい」
「はい。助かります。ありがとうございます」
渋る医務官に、頼み込み手当てをさせてもらう。医務官が出ていくと、医務室にはルアンとセリスだけとなった。
「ほら、足見せてみろ。さっき痛めただろ」
「うん」
ルアンは椅子に座っているセリスの前に片膝をついて跪き、ブーツと靴下を脱がせる。
そして、彼女の怪我の具合を見ると右の足首が赤く腫れていた。おそらく押されて倒れた際に捻ったのだろう。彼は、セリスの腫れた足首を見て眉根を寄せた。
「腫れてるな……ちょっと触るぞ?」
「うん」
ルアンは腫れた足首に触れ軽く押す。
すると、セリスは痛みで、「いっ」と小さな悲鳴をあげた。が、その後もゆっくりと、足首を伸び回す。
「……多分、捻挫だな。まずは冷やさないと。ちょっと待ってろ」
そう言うと、ルアンは立ち上がり桶に氷水を作る。
更に、薬などが入っている棚から湿布と包帯を出し、それらを持ってセリスの元に戻った。
「ほら、これに足入れろ」
「分かった……冷たっ」
セリスは、言われたとおりに桶に足を入れた。その瞬間、冷たさに思わず体をビクッとさせた。
その間に、ルアンは湿布や包帯の準備をテキパキと進めていく。
アイシングすること、しばらく。
「少しは腫れ引いたか?」
「さっきよりかは……」
「そうか、なら湿布貼って包帯で固定するか」
腫れが引いてくると手当てを始めるルアン。セリスの足に湿布を貼り、その上からキツメに包帯を巻く。
ふと子供の頃にも似たような事があった事を思い出し、ルアンの包帯を巻く手が止まった。
それを、不思議に思ったセリスは、ルアンに声をかける。
「どうしたの?」
「いや…少し昔を思い出しただけだ。昔にも俺を庇って怪我させただろ」
ルアンに言われて、セリスも子供の時の事を思い出す。
それは、二人がまだ七歳の時の頃。
二人の出会いは、国立魔法学校の初等部だった。
当時、他の生徒に比べて魔力操作が上手く出来なかったルアンは、孤立していた。
それでも、ルアンはどんなに罵詈雑言を言われても気にする事なく一人で過ごしていた。
そんな折、ルアンが図書室で一人本を読んでいた彼に、声をかけたのがセリスだったのだ。
セリスは事あるごとにルアンに話しかけに行った。
初めは、疎ましく思っていたルアンだが、天真爛漫な彼女の性格と、太陽のような笑顔にだんだんと惹かれていく。
だがある日、それは起きた。
ルアンの事を面白く思わない一部の男子生徒が、数人でルアンを囲うように立ち塞がり
「お前、下手なくせにミライルさんと一緒とか生意気なんだよ!」
「そうだ!そうだ!」
「お前は、一人でいればいいんだよ!ミライルさんから離れろ!ミライルさんが可哀想だろ!」
などと難癖をつけてきたのだ。
ルアンは、いつものことだと、スルーをしようとしたのだが、一緒にいたセリスが反論をする。
「やめて!わたしが仲良くなりたくて声かけたの!ルアンくんは悪くない!」
「うそだ!そんなの!」
「うそじゃない!だから、ルアンくんをイジメないで!ルアンくんは悪くないから!」
「うるせぇ!悪いのは、そっちだ!」
止めに入ったセリスを、逆上した男性生徒の一人が殴った。
「きゃあ!」
セリスは、その場に倒れてしまう。
それを見た男子生徒達は、「ヤベッ!」と漏らした後、教師に見つからないように一目散に逃げるように走り去っていった。
「だいじょうぶか!」
ルアンが慌ててしゃがみセリスの頬を見ると、彼女の頬はやや赤く腫れていた。
「えへへ。なぐられちゃった!」
セリスは何でもないかのように笑ってみせる。
「なぐられちゃったって….。なんで、そんなに笑ってられるんだよ。痛くないのか?」
「少し痛いけど、これくらいヘーキだよ!それよりも、ルアンくんはだいじょーぶ?」
「おれ?おれは なぐられてないから、どこも痛くない」
「本当に?心は?痛くない?」
「ホントーだ」
「あんなこと言われてたから、心がキュッて痛くなったんじゃ…」
「…なれてるから、なんとも思わないんだ。だから、セリスがそんな顔するなよ」
悲しそうな顔をするセリスに、ルアンは困ったように笑って言った。
自分の方が痛いはずのに、他人の心配をするセリスを見て、ルアンはどうしてそこまで人の為にできるのか不思議でならなかったからだ。
この後、直ぐに騒ぎを聞きつけた教師が来て、ルアンが事情を説明し、セリスは学校の保健室へと連れて行かれた。
この出来事がきっかけとなり、ルアンはセリスを守れるくらい強くなろうと決めたのだった。
「そんな事もあったね!」
懐かしそうに笑うセリスに、真剣な顔をしてルアンは言う。
「もうあの頃とは違うんだ。お前を守れるくらいには、俺は強くなったつもりだ。だから…」
「庇うなって?それは無理かな~。自然と身体が動いちゃうから。それに、今はお互い様でしょ?」
「そうだな。そういう奴だよな、お前は。
とりあえず手当ては終わったぞ。足、動かしてみろ。」
セリスは、右足首を軽く上下に動かす。
「どうだ?まだ痛むか?」
「…ううん、大丈夫」
「そうか、なら良い。帰ったらギルバートさんにも診てもらえよ」
「うん。ありがとう」
「おー…」
セリスが笑顔でお礼を言う。
すると、ルアンは照れ臭そうにそっぽを向き、ぶっきらぼうに返事をする。
「ねぇ、ルアン。聞いても良い?」
「なんだ?」
「いつから、あんな風に思ってくれてたの?」
「はぁ!?……お前な、それを今聞くか?普通」
突然のセリスの言葉にルアンは動揺し、すっとんきょうな声を出す。そして呆れたような顔をする。
「だって…、ちゃんと知りたいし」
「ったく……」
ルアンは、照れ隠しのように頭をかきながら視線を反らすと、少し躊躇いがちに答える。
「ガキの頃、お前に助けられた時からだよ。…悪いか」
「そうだったんだ…そんな前から。知らなかった…」
「まぁ、わざわざ言うようなものでないからな。」
「ふふ、そっか」
初めて知った事実にセリスは嬉しくなり笑った。その様子に、ルアンは何とも居た堪れない気持ちになる。
「もう良いだろ、この話は終わりだ。それより戻って、あの野郎とケリつけねぇと。まだ諦めてないだろうからな」
「どうするつもりなの?」
セリスがルアンを見上げながら少し不安そうに言う。
「まずは一発ぶん殴る」
「それはダメだってば!出来たら穏便に、ね?」
「………つってもな、それは難しいかもな…」
リシュエルは話し合いでは引き下がらない。と言うか、次はもう聞く耳も持たないだろう。
また、ルアン自身も当然引き下がるつもりは更々ない。
両者譲れない以上、実力行使でぶつかり合うのは当然の事である。
「な、なら!せめて、ルアンがあんまり大きな怪我しないようにして!」
「分かったよ、気を付ける」
「本当に分かってる?」
「あぁ……」
セリスが、しつこく念を押すものだから、ルアンは少し面倒臭そうに返事をした。
そんな時、医務室の扉がバンッと勢いよく開けられた。入ってきたのは、リシュエルと同じ銀髪隻眼の17歳くらい少女だ。
「セリスさん!ルアンさん!」
「えっ!レイリア様!?どうかされました!」
「様付けなんてしなくて良いって言ってるのに。って、そうじゃなくて…兄様に何かされたの!?」
言わずもがな、レイリアはリシュエルの妹であり、メルトビアの王女である。
誰とでも分け隔てなく接するセリスに、レイリアも心を許し、セリスの事を姉のように慕っている。
「え?どうしてですか?」
「先程、兄様と廊下で会った時にお二人の居場所聞いたら、医務室だと言ってたので。」
「なるほど…。そうだったんですね。」
「その怪我、兄様に何かされたんですよね!そうですよね!」
「うっ、これは…その…」
セリスは図星を突かれて言葉に詰まらせる。すると、その態度に確信を得たレイ
リアは、みるみると怒りの形相になる。
「やっぱり!兄様が!許せません!」
「落ち着いて下さい、レイリア様。私の怪我なら、捻挫なので大したことありませんから。」
「いいえ!落ち着いてなんかいられません!そもそも女性に手をあげた事自体が最低です!」
そして、怒り心頭に発すると言った感じで息巻いた。そんな彼女をセリスは宥めたが、彼女の怒りは治まることを知らず、それはむしろヒートアップしていた。
「私、兄様にガツンと言ってきます!」
「待ってください!」
勢いよく医務室を出ていこうとするレイリアをルアンが止めた。
「何ですか!?」
「俺が行くので、リシュエル様の向かった先を教えてください」
「そうはいきません!これは私と兄様の問題です。部外者は引っ込んでいて下さい!」
レイリアがそう言うと、ルアンは真っ向から反対する。
「それを言うなら、俺とリシュエル様の問題でもあります。何よりセリスを傷つけられて俺も腹が立ってるんです。行かせてください」
「レイリア様、今回の事は私達の問題なので、お願いします」
ルアンの熱意と、セリスに懇願されたレイリアは、それ以上強く出れず引き下がるしかなかった。
「……分かりました、そこまで言うなら。兄様なら多分、訓練所に居ると思います」
「そうですか、ありがとうございます。あと、一つ確認なんですが、リシュエル様の魔法はどういう物何ですか?体の自由が利かなくなりましたが…」
「……兄様の魔法は、重量を変える魔法です。おそらくルアンさんの体の重さを変えて動けなくしたんだと思います。」
「なるほど、ありがとうございます。
では、失礼します」
「待ってルアン!私も行く!」
セリスは急いで椅子から立ち上がり、一人で行こうとするルアンの後を追っていこうとする。だがしかし、彼に止められてしまう。
「ダメだ。お前は此処で大人しくしてろ」
「足なら大丈夫だよ!」
「ダメなものはダメだ。良いから、此処にいろ。」
「なんでよ!大丈夫だってば!自分は無理ばかりするクセに!」
「俺は良いんだよ!」
「何それ!狡い!」
ルアンとセリスの言い合いを見て、レイリアは思わず「ふふっ」と笑みを溢す。
レイリアの笑い声に、二人はハッと我に返ると、互いに恥ずかしそうに顔を背けた。そして、ルアンは咳払いをする。
「と、とにかく、これは譲れない。お前は此処にいろ。此処が嫌ならガレンとグレースの所にいろ」
「……分かった、此処に居る。その代わり、本当に気を付けてよ?」
「あぁ、分かってる。じゃ行ってくる」
渋々折れたセリスにルアンは短く返事すると、医務室を出て行った。
「…行っちゃった…もう、頑固なんだから」
「ふふ、お二人は本当に仲良しなんですね!」
「そ、それは、まぁ元々幼馴染みですし」
レイリアに微笑ましげに言われ、セリスは頬を染め、照れ臭そうに言う。
「良いなぁ…私もあんな風に素敵な殿方と恋をしたいです」
「大丈夫ですよ、レイリア様にも素敵な殿方がきっと現れます」
自分が王女と言う立場上、それが難しいことくらい解っているレイリアは、憂いを帯びた表情をする。
そんな彼女をセリスは励ました。
「そうですね、ありがとうございます!セリスさん!」
「いいえ。」
「私は、そろそろ戻りますね。セリスさんは、お大事になさってくださいね」
レイリアはそう言って微笑むと、医務室から出ていった。
医務室で一人になったセリスは、他国の医務室に居座るのも気が引けて、ガレンとエミリアの所に戻ることにした。
ゆっくりと椅子から立ち上がり
(後でルアンに怒られそうだけど…仕方ないよね)
そんな事を思いながら、ゆっくりと右足を庇いながら歩いていく。
暫く廊下を進んで行くと、待機しているガレンとエミリアが見えた。
二人はセリスの存在に気が付くと、慌てて駆け寄る。
二人が、あまりにも心配そうな顔をしているものだから、セリスは苦笑いを浮かべる。
「どうしたの!?大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと足挫いただけだから。」
セリスは心配させないように笑みを浮かべて言う。
「そう?大した怪我じゃないなら良いんだけど。」
「ルアンの奴は、どうしたよ。また一人で無茶しに行ったのか?」
ガレンは呆れたような表情でセリスに訊ねる。
「医務室までは一緒に居たんだけど、手当てしてくれた後一人で行っちゃった。一緒に行くって言ったんだけどダメだって怒られて」
((あー…なるほど))
セリスの言葉にエミリアとガレンは、なんとなくルアンの心情を察し納得をした。
と、同時に。
((まぁ、こんな事があったんじゃ過保護にもなるか))
とガレンとエミリアは、内心同情もした。
「とりあえず医務室に行くぞ。動けるかか?」
「う、うん」
セリスはルアンの手を取り立ち上がる。
少し足が痛みはするが、歩けない程では無さそうである。
セリスはルアンに支えられながら歩き、二人は部屋を出ていく。
医務室に着くと、医務官らしき人物がおり、手当てをすると言われたが、ルアンはそれを断り自分が手当てすると言う。
「しかし…」
「頼みます、俺にやらせてください」
「分かりました……では、私は出ていきますね。薬などは自由にお使い下さい」
「はい。助かります。ありがとうございます」
渋る医務官に、頼み込み手当てをさせてもらう。医務官が出ていくと、医務室にはルアンとセリスだけとなった。
「ほら、足見せてみろ。さっき痛めただろ」
「うん」
ルアンは椅子に座っているセリスの前に片膝をついて跪き、ブーツと靴下を脱がせる。
そして、彼女の怪我の具合を見ると右の足首が赤く腫れていた。おそらく押されて倒れた際に捻ったのだろう。彼は、セリスの腫れた足首を見て眉根を寄せた。
「腫れてるな……ちょっと触るぞ?」
「うん」
ルアンは腫れた足首に触れ軽く押す。
すると、セリスは痛みで、「いっ」と小さな悲鳴をあげた。が、その後もゆっくりと、足首を伸び回す。
「……多分、捻挫だな。まずは冷やさないと。ちょっと待ってろ」
そう言うと、ルアンは立ち上がり桶に氷水を作る。
更に、薬などが入っている棚から湿布と包帯を出し、それらを持ってセリスの元に戻った。
「ほら、これに足入れろ」
「分かった……冷たっ」
セリスは、言われたとおりに桶に足を入れた。その瞬間、冷たさに思わず体をビクッとさせた。
その間に、ルアンは湿布や包帯の準備をテキパキと進めていく。
アイシングすること、しばらく。
「少しは腫れ引いたか?」
「さっきよりかは……」
「そうか、なら湿布貼って包帯で固定するか」
腫れが引いてくると手当てを始めるルアン。セリスの足に湿布を貼り、その上からキツメに包帯を巻く。
ふと子供の頃にも似たような事があった事を思い出し、ルアンの包帯を巻く手が止まった。
それを、不思議に思ったセリスは、ルアンに声をかける。
「どうしたの?」
「いや…少し昔を思い出しただけだ。昔にも俺を庇って怪我させただろ」
ルアンに言われて、セリスも子供の時の事を思い出す。
それは、二人がまだ七歳の時の頃。
二人の出会いは、国立魔法学校の初等部だった。
当時、他の生徒に比べて魔力操作が上手く出来なかったルアンは、孤立していた。
それでも、ルアンはどんなに罵詈雑言を言われても気にする事なく一人で過ごしていた。
そんな折、ルアンが図書室で一人本を読んでいた彼に、声をかけたのがセリスだったのだ。
セリスは事あるごとにルアンに話しかけに行った。
初めは、疎ましく思っていたルアンだが、天真爛漫な彼女の性格と、太陽のような笑顔にだんだんと惹かれていく。
だがある日、それは起きた。
ルアンの事を面白く思わない一部の男子生徒が、数人でルアンを囲うように立ち塞がり
「お前、下手なくせにミライルさんと一緒とか生意気なんだよ!」
「そうだ!そうだ!」
「お前は、一人でいればいいんだよ!ミライルさんから離れろ!ミライルさんが可哀想だろ!」
などと難癖をつけてきたのだ。
ルアンは、いつものことだと、スルーをしようとしたのだが、一緒にいたセリスが反論をする。
「やめて!わたしが仲良くなりたくて声かけたの!ルアンくんは悪くない!」
「うそだ!そんなの!」
「うそじゃない!だから、ルアンくんをイジメないで!ルアンくんは悪くないから!」
「うるせぇ!悪いのは、そっちだ!」
止めに入ったセリスを、逆上した男性生徒の一人が殴った。
「きゃあ!」
セリスは、その場に倒れてしまう。
それを見た男子生徒達は、「ヤベッ!」と漏らした後、教師に見つからないように一目散に逃げるように走り去っていった。
「だいじょうぶか!」
ルアンが慌ててしゃがみセリスの頬を見ると、彼女の頬はやや赤く腫れていた。
「えへへ。なぐられちゃった!」
セリスは何でもないかのように笑ってみせる。
「なぐられちゃったって….。なんで、そんなに笑ってられるんだよ。痛くないのか?」
「少し痛いけど、これくらいヘーキだよ!それよりも、ルアンくんはだいじょーぶ?」
「おれ?おれは なぐられてないから、どこも痛くない」
「本当に?心は?痛くない?」
「ホントーだ」
「あんなこと言われてたから、心がキュッて痛くなったんじゃ…」
「…なれてるから、なんとも思わないんだ。だから、セリスがそんな顔するなよ」
悲しそうな顔をするセリスに、ルアンは困ったように笑って言った。
自分の方が痛いはずのに、他人の心配をするセリスを見て、ルアンはどうしてそこまで人の為にできるのか不思議でならなかったからだ。
この後、直ぐに騒ぎを聞きつけた教師が来て、ルアンが事情を説明し、セリスは学校の保健室へと連れて行かれた。
この出来事がきっかけとなり、ルアンはセリスを守れるくらい強くなろうと決めたのだった。
「そんな事もあったね!」
懐かしそうに笑うセリスに、真剣な顔をしてルアンは言う。
「もうあの頃とは違うんだ。お前を守れるくらいには、俺は強くなったつもりだ。だから…」
「庇うなって?それは無理かな~。自然と身体が動いちゃうから。それに、今はお互い様でしょ?」
「そうだな。そういう奴だよな、お前は。
とりあえず手当ては終わったぞ。足、動かしてみろ。」
セリスは、右足首を軽く上下に動かす。
「どうだ?まだ痛むか?」
「…ううん、大丈夫」
「そうか、なら良い。帰ったらギルバートさんにも診てもらえよ」
「うん。ありがとう」
「おー…」
セリスが笑顔でお礼を言う。
すると、ルアンは照れ臭そうにそっぽを向き、ぶっきらぼうに返事をする。
「ねぇ、ルアン。聞いても良い?」
「なんだ?」
「いつから、あんな風に思ってくれてたの?」
「はぁ!?……お前な、それを今聞くか?普通」
突然のセリスの言葉にルアンは動揺し、すっとんきょうな声を出す。そして呆れたような顔をする。
「だって…、ちゃんと知りたいし」
「ったく……」
ルアンは、照れ隠しのように頭をかきながら視線を反らすと、少し躊躇いがちに答える。
「ガキの頃、お前に助けられた時からだよ。…悪いか」
「そうだったんだ…そんな前から。知らなかった…」
「まぁ、わざわざ言うようなものでないからな。」
「ふふ、そっか」
初めて知った事実にセリスは嬉しくなり笑った。その様子に、ルアンは何とも居た堪れない気持ちになる。
「もう良いだろ、この話は終わりだ。それより戻って、あの野郎とケリつけねぇと。まだ諦めてないだろうからな」
「どうするつもりなの?」
セリスがルアンを見上げながら少し不安そうに言う。
「まずは一発ぶん殴る」
「それはダメだってば!出来たら穏便に、ね?」
「………つってもな、それは難しいかもな…」
リシュエルは話し合いでは引き下がらない。と言うか、次はもう聞く耳も持たないだろう。
また、ルアン自身も当然引き下がるつもりは更々ない。
両者譲れない以上、実力行使でぶつかり合うのは当然の事である。
「な、なら!せめて、ルアンがあんまり大きな怪我しないようにして!」
「分かったよ、気を付ける」
「本当に分かってる?」
「あぁ……」
セリスが、しつこく念を押すものだから、ルアンは少し面倒臭そうに返事をした。
そんな時、医務室の扉がバンッと勢いよく開けられた。入ってきたのは、リシュエルと同じ銀髪隻眼の17歳くらい少女だ。
「セリスさん!ルアンさん!」
「えっ!レイリア様!?どうかされました!」
「様付けなんてしなくて良いって言ってるのに。って、そうじゃなくて…兄様に何かされたの!?」
言わずもがな、レイリアはリシュエルの妹であり、メルトビアの王女である。
誰とでも分け隔てなく接するセリスに、レイリアも心を許し、セリスの事を姉のように慕っている。
「え?どうしてですか?」
「先程、兄様と廊下で会った時にお二人の居場所聞いたら、医務室だと言ってたので。」
「なるほど…。そうだったんですね。」
「その怪我、兄様に何かされたんですよね!そうですよね!」
「うっ、これは…その…」
セリスは図星を突かれて言葉に詰まらせる。すると、その態度に確信を得たレイ
リアは、みるみると怒りの形相になる。
「やっぱり!兄様が!許せません!」
「落ち着いて下さい、レイリア様。私の怪我なら、捻挫なので大したことありませんから。」
「いいえ!落ち着いてなんかいられません!そもそも女性に手をあげた事自体が最低です!」
そして、怒り心頭に発すると言った感じで息巻いた。そんな彼女をセリスは宥めたが、彼女の怒りは治まることを知らず、それはむしろヒートアップしていた。
「私、兄様にガツンと言ってきます!」
「待ってください!」
勢いよく医務室を出ていこうとするレイリアをルアンが止めた。
「何ですか!?」
「俺が行くので、リシュエル様の向かった先を教えてください」
「そうはいきません!これは私と兄様の問題です。部外者は引っ込んでいて下さい!」
レイリアがそう言うと、ルアンは真っ向から反対する。
「それを言うなら、俺とリシュエル様の問題でもあります。何よりセリスを傷つけられて俺も腹が立ってるんです。行かせてください」
「レイリア様、今回の事は私達の問題なので、お願いします」
ルアンの熱意と、セリスに懇願されたレイリアは、それ以上強く出れず引き下がるしかなかった。
「……分かりました、そこまで言うなら。兄様なら多分、訓練所に居ると思います」
「そうですか、ありがとうございます。あと、一つ確認なんですが、リシュエル様の魔法はどういう物何ですか?体の自由が利かなくなりましたが…」
「……兄様の魔法は、重量を変える魔法です。おそらくルアンさんの体の重さを変えて動けなくしたんだと思います。」
「なるほど、ありがとうございます。
では、失礼します」
「待ってルアン!私も行く!」
セリスは急いで椅子から立ち上がり、一人で行こうとするルアンの後を追っていこうとする。だがしかし、彼に止められてしまう。
「ダメだ。お前は此処で大人しくしてろ」
「足なら大丈夫だよ!」
「ダメなものはダメだ。良いから、此処にいろ。」
「なんでよ!大丈夫だってば!自分は無理ばかりするクセに!」
「俺は良いんだよ!」
「何それ!狡い!」
ルアンとセリスの言い合いを見て、レイリアは思わず「ふふっ」と笑みを溢す。
レイリアの笑い声に、二人はハッと我に返ると、互いに恥ずかしそうに顔を背けた。そして、ルアンは咳払いをする。
「と、とにかく、これは譲れない。お前は此処にいろ。此処が嫌ならガレンとグレースの所にいろ」
「……分かった、此処に居る。その代わり、本当に気を付けてよ?」
「あぁ、分かってる。じゃ行ってくる」
渋々折れたセリスにルアンは短く返事すると、医務室を出て行った。
「…行っちゃった…もう、頑固なんだから」
「ふふ、お二人は本当に仲良しなんですね!」
「そ、それは、まぁ元々幼馴染みですし」
レイリアに微笑ましげに言われ、セリスは頬を染め、照れ臭そうに言う。
「良いなぁ…私もあんな風に素敵な殿方と恋をしたいです」
「大丈夫ですよ、レイリア様にも素敵な殿方がきっと現れます」
自分が王女と言う立場上、それが難しいことくらい解っているレイリアは、憂いを帯びた表情をする。
そんな彼女をセリスは励ました。
「そうですね、ありがとうございます!セリスさん!」
「いいえ。」
「私は、そろそろ戻りますね。セリスさんは、お大事になさってくださいね」
レイリアはそう言って微笑むと、医務室から出ていった。
医務室で一人になったセリスは、他国の医務室に居座るのも気が引けて、ガレンとエミリアの所に戻ることにした。
ゆっくりと椅子から立ち上がり
(後でルアンに怒られそうだけど…仕方ないよね)
そんな事を思いながら、ゆっくりと右足を庇いながら歩いていく。
暫く廊下を進んで行くと、待機しているガレンとエミリアが見えた。
二人はセリスの存在に気が付くと、慌てて駆け寄る。
二人が、あまりにも心配そうな顔をしているものだから、セリスは苦笑いを浮かべる。
「どうしたの!?大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと足挫いただけだから。」
セリスは心配させないように笑みを浮かべて言う。
「そう?大した怪我じゃないなら良いんだけど。」
「ルアンの奴は、どうしたよ。また一人で無茶しに行ったのか?」
ガレンは呆れたような表情でセリスに訊ねる。
「医務室までは一緒に居たんだけど、手当てしてくれた後一人で行っちゃった。一緒に行くって言ったんだけどダメだって怒られて」
((あー…なるほど))
セリスの言葉にエミリアとガレンは、なんとなくルアンの心情を察し納得をした。
と、同時に。
((まぁ、こんな事があったんじゃ過保護にもなるか))
とガレンとエミリアは、内心同情もした。


