【毎日更新】魔法王国の幼馴染み(旧・魔法王国の絆の軌跡)

 その頃、セリスはと言うとリシュエルの部屋で、お茶を淹れてもらっていた。

 「今、お茶を淹れよう。そこのソファに座っててくれ」

 リシュエルは、部屋の中央にある大きなソファを指差しながら、セリスに言う。

 「お茶なら私が入れますから!」
 「君は客人だ。そんな事させられない。良いから座っててくれ」
 「分かりました」

 セリスは、緊張から落ち着かない様子で部屋の中を見る。

 (にしても、凄い部屋だ。私達の部屋とはまるきり違う)


 リシュエルの部屋は全て白を基調に統一されていて明るい。そこにきらびやかな装飾が施され、いかにも王族らしい部屋だった。

 エルヴェリアの宮廷魔法士達にも、各自部屋は与えられてはいる。しかし、王族や貴族とは違い質素な造りになっている。

(私達より豪華とは思ってたけど……。まさかここまでなんて……)

 自分達との部屋の差異にセリスは思わず呆然としていると、そこへお茶を淹れ終わったリシュエルが、ティーカップをソファの前のテーブルに持ってきた。
そのまま自分もソファに座り、セリスに話しかける。

 「お待たせ。ってどうかしたかい?」
 「あ、ありがとうございます。いえ、あのお部屋が凄く素敵なので」

 セリスは豪華なティーカップに入ったお茶を受け取りながら言う。

 「あぁ、なるほど。君たちの部屋とは違うのか」
 「えぇ、まぁ。それで、あの…大事な話とは何でしょうか?仕事中ですし、あまり時間がないので手短にお願いしたのですが。」
 「そうだね。じゃあ本題に入ろう」

 思わず気が遠くなるセリスだが、直ぐに気を持ち直と、リシュエルに用件を尋ねる。
 真剣な眼差しで見てくるリシュエルに、セリスはゴクリと唾を飲んだ。

 「オレの婚約者になってくれないか?」
 「え………?」

 セリスは、リシュエルからの思いがけない言葉に思考が停止し、

 「えぇえええぇ!?」

 数秒して何を言われたのか理解すると思わず叫んだ。後、ハッとしてリシュエルの顔を見ると苦笑していた。それを見てセリスは慌てて謝る。

 「あ、ごめんなさい。取り乱しました」
 「いや、構わない。突然こんなこと言われたら驚くのも無理はないからな」
 「…なぜ、私なんですか?リシュエル様になら、私よりももっとお似合いな人が他にいらっしゃるはずです」

 セリスは、戸惑いながら心底不思議そうな顔で言う。
 王族であるリシュエルが、平民である自分を選ぶ理由がさっぱり分からないのだ。それも協定国とはいえ、他国の人間で一回二回会ったことがあるだけで、特別親しい訳でもないのだから、尚更である。

「それは勿論、君が可憐だからだ」
「はぁ…」

何度言われても、セリスの心には全く響かない。

「それだけじゃ納得できないか?前回来た時に、オレに微笑んでくれただろう。君の屈託のない笑顔を見て、自分の物にしたくなった」
 「確かに…そんな事もあったような…」

 セリスは前回メルトビア城に来た時の事を思い返す。
 確かに、初対面の時に彼に微笑んで話した記憶がある。
 しかし、それはセリスにとっては普通の挨拶で、他の人にも同じようにしていた。彼を特別に贔屓したわけではなかった。

 「折角ですが、お断りさせて頂きます。私には恋人が居ますので」
 「あぁ、今しがた、そんなことを言っていたね。一緒にいた彼だろう?恋人と言うのは」
 「はい、ですので…」
 「その彼と別れてオレの方へと来てほしい」

 リシュエルは、セリスを真剣な表情で見つめて言う。

 「出来ません」

その視線にたじろぎながらも、ハッキリと断った。

 「……なぜ?彼とは幼馴染みの情でしょうがなく付き合ってるんだろ?」
 「そんな事はありません!私はちゃんとルアンの事が好きですし、好き合ってます!」

 リシュエルの言葉が癪に触り、セリスは思わず立ち上がり強気に抗弁した。

 「お話はそれだけですか?でしたら、失礼します」

それから、こう言うと、そのまま扉の方へと歩いて行こうとする。
どうにかセリスを、引き止めたいのだろう。リシュエルは、更に好条件を提示する。

 「本当に良いのかい?オレなら、彼よりもっと豪華な物を買ってあげられるよ」
 「そんな物は要りません!私は今のままで充分です!それにお金や物で人の気を引こうとする人とは尚更無理です。失礼します!」

 しかし、セリスは靡かなかった。
何不自由なく暮らせて、好きな人といられることに、本当に満足しているのだ。
それを侮辱されたような気持ちになり、強く言い切るとドアへと向かおうとする。だがーー。

 「そうか…。なら、君が婚約を拒むならエルヴェリアとの協定関係を解消するよ、と言ったら?」
 「!?」

 リシュエルからの衝撃的な言葉に、それは憚れた。
いや、足を止めざるをえなかった。

「それだけではなく、最悪戦争に発展するかもしれないな?」
 「っ…どういうつもりですか!私情で国の事を出すなんて!」
 「どうもなにも、オレはただ君が欲しいだけだ。その為なら手段は選ばない」
 「そんな事が認可されるとでも思っているんですか!エルヴェリアが許すとでも!」

セリスは自国を貶されたと思い、激昂した。彼女は自国であるエルヴェリアに誇りを持っている。故に今のリシュエルの発言が許せなかったのだ。

「勿論、思ってはいない。でもオレは王子だ。分かるだろ?」

 そんなセリスに構わず、リシュエルは徐に彼女に近づく。壁際に追い詰めるようにじわじわと。
彼の狂喜じみた表情にセリスの身の毛がよだつ。

 「と、とにかく!私はルアンと別れる気はありません!」
 「これで駄目なら仕方ない。出来たら手荒な事はしたくはなかったが…。無理やりにでもオレの方を向かせる」

 (何をするつもりなの…)

 リシュエルの不穏な言葉にセリスは身構えた。

 「あの男が居なくなれば、君はオレの物になるだろ」

 リシュエルは妖しい笑みを浮かべたまま言った。
 その言葉にセリスは、リシュエルがルアンに何か危害を加えようとしているのを察する。

 「まさか、ルアンに何かするつもりですか!」
 「さぁ?それは君たち次第だ。彼が身を引くか、君が婚約に応じるなら何もしない」
 「……本当ですか?本当に、私が婚約を受ければルアンに何もしないんですね?」
 「あぁ」
 「……」

 セリスは葛藤する。

 目の前の男の言葉を信じて良いのかどうか。今までの変わりようを見ていると、とてもじゃないが鵜呑みには出来ない。
 自分が受け入れた所で約束を破るかもしれない。でも、受け入れなければルアンに危害を加えるのは確実だろう。それは何としても避けたい。

 「分かりました。婚約の件お受け致します」
 「そうか、よかった。ありがとう」

 セリスは苦渋の決断をした。それは一重にルアンを守るためだ。そんな彼女の葛藤を知ってか知らずか、リシュエルは嬉しそうに笑った。

 「その代わり、ルアンには手を出さないで下さい。これが条件です」
 「あぁ、解っている。彼には一切手を出さない。では、これにサインをしてくれ」
 「はい。これでいいですか?」
 「あぁ、大丈夫だ。ありがとう」
 「では、失礼します」

 セリスはリシュエルに渡された紙に名前を記すと部屋を退室し、小走りでルアンの元へと向かう。

 これで良かったんだ、と自分に言い聞かせながら。