【毎日更新】魔法王国の幼馴染み(旧・魔法王国の絆の軌跡)

 それからは、何事もなく順調に進み、エルヴェリアとメルトビアを結ぶ国境橋まで来た一行。

 その橋を渡り、山を下りて少し進んだ所にある宿に到着したのは、日が暮れ始めた頃だった。

 宿は二階建てで、赤い屋根をしている。
 ガラガラと引き戸を開けルアンが中に入る。すると、人が良さそうな温顔な婦人が快く出迎えた。おそらく宿の女将だろう。

 「ようこそ、いらっしゃいませ」

 その婦人に人数を伝えると全員が泊まれる部屋数はあるという。案内されルアンが中へと入ればよくある宿のような作りで、十部屋はあった。これなら、一泊するには申し分なさそうだ。

 「どうだった?」

 出てきたルアンにグレースが問うた。

 「あぁ、大丈夫そうだ」
 「じゃ、ここで決まりだな!」

 ルアンが答えると、ガレンが嬉しそうに言う。
  その近くでは、セリスはと言うと精悍(せいかん)な顔の騎士と話している。

 楽しそうに話す二人に、ルアンは露骨(ろこつ)に面白くなさそうな顔で見ている。
  そんなルアンを見て、

 (あーこれは…)
 (嫉妬してるな…)
 ((分かりやすいなぁ))

 ガレンとグレースは、アイコンタクトで会話した。そして珍しい物を見た気分になった。まだ、ルアンとセリスが付き合う前は、こんな風に顔に出すことはなかったからだ。

 ルアンは一度視線を外すと、騎士団長と国王の元へ行き、この宿に泊まる旨を伝えた。
 それを聞き国王を初め、他の者達は馬を預け、次々と宿の中へと入っていく。

 「オレたちも中に行こうぜ」
 「そうね」

 続くようにガレンとグレースも入った。
 その後、ルアンが戻ってもセリスと騎士の青年の談笑は続いていた。
 暫く戸の前で腕を組み待っていたルアン。

 「おい、そろそろお前も入れ。他の騎士の連中はもう全員宿の中に行ったぞ」
 「あ!はい!…では」

 だが、なかなか終わりそうもない談話に痺れを切らしたのか、徐に二人に近寄り、青年に声をかけた。
  すると、青年はペコリと頭を下げ急いで宿の中へと入っていった。

 「夢中になりすぎだ」
 「ごめんごめん、話が弾んじゃって」

 最後にルアンとセリスが宿の中へと入る。すると、直ぐ「あの!」と不意に声をかけられた。

 「あ!さっきの!」

 声の方に顔を向けると、そこにいたのは先刻魔物から助けた女性だった。彼女はどうやら、この宿の従業員らしい。宿のマークが入った浴衣のような服を着ている。

 「先程は、ありがとうございました!」

 女性従業員は深々と頭を下げた。

 「いえ、そんな!頭を上げてください。
 ……それより無事に帰れたみたいで良かったです。」
 「何かお礼をさせてほしいのですが…」
 「そんな!お礼なんて良いですよ!私が勝手にやったことですから!」
 「しかし……些細なことでも良いので、何か…」

 女性従業員は何かしらしないと気が済まないようで、断るセリスに執拗に食い下がる。

 (うーん。どうしよう。本当に何も要らないんだけどな…)

 「じゃあ、何か甘い物はありますか?杏仁豆腐とか、デザート系の」
 「はい!ございます!」
 「なら、それを夕餉の時に、こいつにお願いします。」
 「ルアン!?」
 「分かりました!では後程お持ちしますね」

 困っているセリスを見かねてか、ルアンが横から口を出した。
 ルアンの言葉に女性は了承し、パタパタと忙しいそうに戻っていた。

 「私だけ良かったの?」
 「良いだろ。助けたのはお前なんだし、誰も文句言わねぇよ。たとえ言う奴が居たら俺が黙らせる」
 「物騒!?でも、ありがとうルアン」
 「おう。…それより俺らも部屋に行くか」
 「うん!」

 そうして二人はそれぞれ男女別に分けられた部屋へと入って行った。


 夕餉の時間になり。
 アリサンドを除く一同は大広間で夕食を頂いている。
 出された料理を全て食べ終える頃、セリスの所に杏仁豆腐が運ばれてきた。
 セリスは笑顔で礼を言って受け取る。

 杏仁豆腐は透明なデザート皿に入っている。中には杏仁豆腐と白玉が添えられていた。それを羨ましそうに見てくるグレーススに、セリスは苦笑する。

 「一口食べる?」
 「良いの!?」
 「うん、良いよ」
 「やった!」

 セリスは、杏仁豆腐の皿ごと、隣に座っているグレースに渡した。グレースは、目を輝かせてスプーンを手に取った。それから、杏仁豆腐を掬い口へと運ぶ。

 「ん~!美味しい!ありがと、セリス。」
 「ふふ。いーえ。じゃあ私も食べようかな!」

 幸せそうに食べるグレース。
 続いてセリスもスプーンを手に取り杏仁豆腐を食べる。

 「本当だ、すごく美味しい~!」
 「ふっ」

 美味しそうに食べるセリスを、ルアンは優しい眼差しで見つめていた。それに見気がついたガレンは、お前今どんな顔してるか、分かってるか?と心の中で呟いた。

 こうして夕食を終えると、それぞれ部屋に戻り就寝した。


 翌日の朝になり、朝食を済ませ準備を整えると、女将に礼を言うと宿を後にした。