消毒液など薬品のツンと鼻を刺す匂いが漂う、エルヴェリア城の医務室。
窓から射す午後の陽光が、白い簡易的な寝台を照らしている。
何時もは静けさに包まれている、この部屋だが今日ばかりは違う。
「ハァ!? 呪いをかけられたァ!? 」
男性らしき声が医務室中に響き渡った。
調子外れな声を上げたのは、齢二十五の菖蒲色の短髪の美青年。
宮廷魔法士になり七年目の彼は、ベッドの上で、ガタガタとうつ伏せ状態から身を起こそうとしている。
「ちょっと落ち着いて! そんなに大声出したら傷に障るって!」
慌てて制したのは、ミルクティーのような淡いベージュ色のミディアムヘアを、頭頂部で一つに結い上げた、容姿端麗な若い女性。
魔法王国エルヴェリア。
緑豊かで、空には魔法が煌めいている。
この国では、魔法士の育成に国を挙げ、力を注いでいる。
身分を問わず、誰でも入学が可能な魔法学校を経て、その中から特に才能を見込まれた者は、国王直属の宮廷魔法師として国の中枢を担う。
この誇り高き職は、まさに学生達の憧れだ。
しかし、魔法学校を卒業しただけでは、その輝かしい職にはつくことはできない。
その後に待ち受けている訓練を乗り越える必要がある。
あまりの厳しさに、離脱する者も多い中、今、王城では、その選ばれた者の中でも、特例として最年少で選ばれた一組の男女がいた。
それが、この二人だ。
「落ち着いてられるか! どうして黙ってた!」
「だ、だって!私よりルアンの方が大怪我で辛そうだったから…」
女性の装いは、宮廷魔法士の制服(金色の刺繍が施された群青色のジャケット)に白シャツ、同じく白いタイトなズボン。
それから、足元は茶色のロングブーツ。
青年も概ね似たような装いだが、異なる点がある。
一つはズボンの色だ。女性が白いのに対し、青年は黒いストレート。
二つ目は上着《ジャケット》だ。女性と同じ物を普段は着用しているが、現在はない。
理由があり破れて寝台の上に広げて置かれている。
おまけに、乱れたシャツからは真新しい包帯が覗いている。
ルアンは、セリスの返答にキリッとした細い眉を吊り上げる。
いつもの彼らしくはない。
「馬鹿か!お前は!」
ルアンの語尾を強めた物言いにセリスは肩をビクッと震えさせた。
「俺は外傷だけだ。治療すれば治る。だがセリス、お前のは違うだろ! 呪いだぞ、呪い!解ってるのかよ!」
ルアンの切れ長で紫色の瞳が、セリスを射抜くように捉える。
その目には、心配と焦りが滲んでいる。
その鋭い眼差しに思わずセリスが一歩後ずさった。その拍子に彼女の髪もユラリと揺れる。
「わ、解ってるよ! でも⋯自分より辛そうな人がいたら、誰だってそっちを心配するでしょ!」
セリスは気圧されながらも言い募る。
「……少なくとも、私には自分を優先するなんてできない⋯」
しかし、その声量はだんだんと小さくなり、最後には俯いてしまう。
ルアンはそんな幼馴染みの悲しそうな表情に、しまったという表情を浮かべる。
そして、平静に戻ったルアンは困り顔で、左寄りで分け、かきあげられた前髪をくしゃりと掴み
「⋯悪かったな⋯怒鳴って⋯。ただ俺と違って、お前のは下手すると命に関わる事なんだ。もっと自覚をもってくれ」
と優しく諭し、セリスの細い肩にそっと手を置いた。
二人が、なぜ医務室にいるのか。
それは、時は数時間前に遡る。
窓から射す午後の陽光が、白い簡易的な寝台を照らしている。
何時もは静けさに包まれている、この部屋だが今日ばかりは違う。
「ハァ!? 呪いをかけられたァ!? 」
男性らしき声が医務室中に響き渡った。
調子外れな声を上げたのは、齢二十五の菖蒲色の短髪の美青年。
宮廷魔法士になり七年目の彼は、ベッドの上で、ガタガタとうつ伏せ状態から身を起こそうとしている。
「ちょっと落ち着いて! そんなに大声出したら傷に障るって!」
慌てて制したのは、ミルクティーのような淡いベージュ色のミディアムヘアを、頭頂部で一つに結い上げた、容姿端麗な若い女性。
魔法王国エルヴェリア。
緑豊かで、空には魔法が煌めいている。
この国では、魔法士の育成に国を挙げ、力を注いでいる。
身分を問わず、誰でも入学が可能な魔法学校を経て、その中から特に才能を見込まれた者は、国王直属の宮廷魔法師として国の中枢を担う。
この誇り高き職は、まさに学生達の憧れだ。
しかし、魔法学校を卒業しただけでは、その輝かしい職にはつくことはできない。
その後に待ち受けている訓練を乗り越える必要がある。
あまりの厳しさに、離脱する者も多い中、今、王城では、その選ばれた者の中でも、特例として最年少で選ばれた一組の男女がいた。
それが、この二人だ。
「落ち着いてられるか! どうして黙ってた!」
「だ、だって!私よりルアンの方が大怪我で辛そうだったから…」
女性の装いは、宮廷魔法士の制服(金色の刺繍が施された群青色のジャケット)に白シャツ、同じく白いタイトなズボン。
それから、足元は茶色のロングブーツ。
青年も概ね似たような装いだが、異なる点がある。
一つはズボンの色だ。女性が白いのに対し、青年は黒いストレート。
二つ目は上着《ジャケット》だ。女性と同じ物を普段は着用しているが、現在はない。
理由があり破れて寝台の上に広げて置かれている。
おまけに、乱れたシャツからは真新しい包帯が覗いている。
ルアンは、セリスの返答にキリッとした細い眉を吊り上げる。
いつもの彼らしくはない。
「馬鹿か!お前は!」
ルアンの語尾を強めた物言いにセリスは肩をビクッと震えさせた。
「俺は外傷だけだ。治療すれば治る。だがセリス、お前のは違うだろ! 呪いだぞ、呪い!解ってるのかよ!」
ルアンの切れ長で紫色の瞳が、セリスを射抜くように捉える。
その目には、心配と焦りが滲んでいる。
その鋭い眼差しに思わずセリスが一歩後ずさった。その拍子に彼女の髪もユラリと揺れる。
「わ、解ってるよ! でも⋯自分より辛そうな人がいたら、誰だってそっちを心配するでしょ!」
セリスは気圧されながらも言い募る。
「……少なくとも、私には自分を優先するなんてできない⋯」
しかし、その声量はだんだんと小さくなり、最後には俯いてしまう。
ルアンはそんな幼馴染みの悲しそうな表情に、しまったという表情を浮かべる。
そして、平静に戻ったルアンは困り顔で、左寄りで分け、かきあげられた前髪をくしゃりと掴み
「⋯悪かったな⋯怒鳴って⋯。ただ俺と違って、お前のは下手すると命に関わる事なんだ。もっと自覚をもってくれ」
と優しく諭し、セリスの細い肩にそっと手を置いた。
二人が、なぜ医務室にいるのか。
それは、時は数時間前に遡る。


