遅れてきた日向のことを、三人はカフェで昼食を取りながら待っていてくれた。おしゃれな私服三人のなかへ、ひとり制服で入っていくのはどことなく気まずい。
着替えを持ってくるべきだったなと後悔しながら日向が席に着くなり、八尋がなにか買ってくると立ち上がろうとするのを慌てて止める。
「自分で行ってくるから大丈夫」
「……日向がそうしたいならいいけど」
絶対に納得していない様子に苦笑いを零しつつ、財布を手にレジへと向かった。みひろがちょっと不満そうに顔をしかめるのから逃げ出せてほっとしていると、栖原がお代わりを頼みについてきた。
「補習大丈夫だった?」
「片付け手伝ってたらうっかり。遅れてごめん。大丈夫だった?」
「うん、まあ」
どことなくの歯切れの悪さに、八尋の態度がまあまあ悪かったのだろうと推測ができた。ちらりと八尋たちのほうを見やると、努めて明るく振舞うみひろをよそに、むっとした表情のままこちらを見つめている彼と目が合う。
「八尋って、ふたりの前だといつもあんな感じなの?」
日向と目が合った途端に頬を弛ませるのへ、みひろがむっとした顔をするのが見えた。これでは日向にそんなつもりはなくとも、みひろから目の敵にされかねない。
「そうだねえ……、あ、日向くん、なににする?」
丁度順番が来たので、日向はドリンクとサンドウィッチを注文した。代金を払おうとしたところで栖原が自分の注文を捻じ込んだと思ったら、あっという間にさっさとIDで支払われてしまった。
「ちょっと、自分で払うってば」
「なんか日向くんって甘やかしたくなるんだよなあ」
「そういうの、おれ相手にやらなくていいから」
にやりと笑う栖原に思わずむっとする。八尋はともかく栖原には、甘やかされる筋合いはない。
「おれのこと揶揄って楽しい?」
商品を受け取って席へと戻りながらそう聞くのへ、栖原がにやにやと笑って肯定を寄越した。栖原からすれば日向にちょっかいをかけるたび、八尋がいやな顔をすることも面白いのだろう。
今日は昼頃に集まって適当にぶらぶらしようという話になっていた。日向は午前中補習があるので、このカフェで昼ご飯を食べながら待っていてもらうことになっていたのだ。
そもそも日向は今日、ここへ来るつもりはなかった。土曜日は補習があると知っていてみひろが土曜を指定してくるのには、八尋とふたりきりで出かけたい意図が見えている。しかし八尋には断られたと見えて、日向と栖原に要請がきた。
日向自身四人で遊ぶことに異論はないが、段々とみひろに申し訳が立たなくなってきていた。みひろがそれでも八尋と逢いたいと言うのだからいいのかもしれない。しかし日向がどう頑張ろうと、八尋の気持ちが彼へ向くことはないような気がする。
「栖原、またひなちゃんに奢ってやったの?」
八尋の隣に座ってサンドウィッチの封を開けていると、みひろがにやにやとした笑みを栖原へと向けた。八尋がむっとした表情をするのへ、栖原の顔に満足そうな笑みが広がる。
「奢ってもらってるのに、気に入らなそうな顔をするのがかわいいからね。杵埼が甘やかしたくなる気持ちもわかる」
栖原が頬杖をついて、面白がるような笑みを向けてきた。それを無視するようにサンドウィッチへとかぶりつく。
どういうつもりで八尋のことを挑発しているのか知らないが、心の底からやめてほしかった。急にパサパサに感じるパンを無理矢理咀嚼して飲み込みながら、腹が減っているはずなのに食欲が失せてしまう。
はじめて時間を巻き戻したとき、八尋はこのふたりのことを苦手だと言っていた。彼はきっとこういう風に、当てつけのように揶揄われるのがいやなのだ。それなのにこうしてここへ来てくれているのは、日向が頼んだからに他ならない。
八尋のほうへ謝罪を込めた視線を送ると、アイスコーヒーのストローを噛んでいた八尋の頬が僅かに弛んだ。なんとなく、この集まりは今日が最後のような気がする。
みひろが思った以上にいい奴だったので、そのうち八尋の気持ちが動くかもしれないと思ってはいた。しかしこうして傍で見ていると、八尋に苦行を強いているだけのような気がしてくる。
しかしみひろはそもそも、この状態の八尋を知っていてすきになったのだ。だから蔑ろにされようとへこたれないメンタルがある。
しかしなにをされても、折れないということではないだろう。みひろが栖原と日向の仲をさり気なく当て擦ってくるのは、日向にはほかの相手がいるのだと暗に示しているからか。
「栖原って、ひなちゃんのことすきだよね。付き合っちゃえば?」
揶揄するような笑みでそう言ったみひろの、目の奥が笑っていなかった。さすがの栖原も表情を引き攣らせて、変なこと言うなよとすぐさま否定する。
八尋が信じられないと言いたげな目でみひろを見ていた。栖原のほうを鋭く睨むのへ、彼が言いがかりだと否定するように両手を上げる。
「日向くんがいくらかわいくても、俺は女の子がすきだから」
「そ、そうだよ、みひろ。おれも女の子がすきだし」
「そうなの? お似合いだと思ったんだけどなあ」
緊張に跳ね上がった鼓動が耳元でうるさかった。もうサンドウィッチの味がしない。
へらりとその場を取り繕ったみひろがドリンクのストローを咥えた。日向が食べ終わるのを見計らって、そろそろ行こうかと笑う。
カフェを出ると、近くの商業施設内をぶらぶらと冷やかした。一応八尋はみひろと一緒にいることには同意してくれたようで、腕にしがみつかれるままみひろの意向へと従っている。
「さっきのあれ、なに?」
彼らから一定の距離を開けながら、傍で適当に服を見ていた栖原に問うた。栖原もみひろの意図が計りかねたのか、さあと首を傾げる。
「みひろも気づいたんじゃない? 杵埼が日向くんのことすきだって」
「八尋のあれは癖みたいなもんなんだけど」
「本当にそうなら、俺はあんなに睨まれていないと思う。日向くんに手を出したら殺されそう」
栖原が怖かったぁ! とわざとらしく自分を抱きしめて、震えるような仕草をした。なんだよそれと肩を叩くと、本当のことだよと苦笑われる。
「まあ、それでも俺はいいけど」
「うん?」
「日向くんと付き合えるなら、殴られようがなにしようが構わないけど」
「はあ⁉ なに言って、」
「俺は本気だよ、日向くん。さっきはみひろの手前ああ言ったけど、付き合うのもいいなって思っちゃった。考えてみてくれない?」
なにを言われているのか本当にわからなかった。また揶揄されているだけなのかと思えば、真摯に見つめてくる表情にその気配が微塵もない。
いやだとは思えない自分に愕然とする。だからといってすきなのかと問われると、思った以上にいい奴で気が合うとはいえ、付き合ってみようという選択肢が湧いてこなかった。
――おれはこれを八尋に強要していたのか。
好意を寄せられているのはうれしい。揶揄されているとばかり思っていたあれもそれもこれも、日向への好意があったからこその態度だったのだろう。そう思うと悪い気はしなかった。日向に想う相手がいなければ考えてみてもいいと思ったかもしれない。
それでも、日向の心には八尋がいる。結ばれないとわかってはいても、他のだれかとなんて器用なことはできない。
「ごめん。考えられない」
「手厳しいなあ! 即答しなくても」
大袈裟に傷ついたふりをしてくれる栖原にもう一度謝った。申し訳ないと頭を下げる日向に栖原が苦笑って、もういいよと言ってくれる。
「まあ、フラれるってわかってたし」
「……そうなの?」
「うん。杵埼のこと、すきだって見てたらわかるし。みひろのことを応援してくれる気持ちは本当なんだろうけど」
その言い分に言葉を詰まらせるのが、いちばんの答えになってしまった。気にしなくていいよと肩を叩かれて、行こうと促される。
栖原は告白したことを忘れたかのように、至って普段通りの態度だった。気まずく思っているこちらがおかしいような気がしてくる。
「さっきの、本気だったの?」
だからつい、気になって聞いてしまった。疑るような響きを声に感じ取ったのだろう、栖原から傷つくなあと力なく笑われる。
「いま、めっちゃ傷抉られてるんだけど」
「ごめん、あんまり普段通りだから」
「よく言われる。俺、別れた彼女とも友達に戻れるタイプだし」
「ええ、マジで?」
信じられないと思いつつ、栖原ならありそうだと納得してしまう、妙な説得力があった。気まずさを漂わせているよりも、気持ちを切り替えてもらったほうが、たしかに付き合いやすいと言えばそうなのだけれど。
「それって、しんどくない?」
「なにが?」
「フラれたときも、平気な顔して友達に戻るってことだろ?」
「……すきだからこそ、友達の顔してでも傍にいたいってことだよ」
まあしんどいんだけどね! と栖原があっけらかんと笑った。
すきだからこそ、友達の顔をして傍にいる。
その言葉が、日向の心に刺さって抜けない。
「俺も制服で来たらよかったなあ。制服デートっぽくてさ」
日向の気を紛らわそうとするように、突然そんなことを言われた。戸惑う日向に笑いかけてくれたのは、もう気にしなくていいということだろうか。
「デートって」
「これって、みひろに言わせたらデートでしょ。杵埼にはいい迷惑だろうけど」
「たぶん、そろそろ八尋も限界だと思う」
「もし四人で遊ばなくなっても、俺とふたりで遊んでくれる?」
「……それは友達として?」
その問いに、栖原が曖昧な笑みを寄越した。あからさまにアプローチされることはなさそうだが、これは厄介なことになったなあと苦々しく思う。
そうしているうちに、ふと辺りが陰っているのに気づいた。一定の明るさを保っている建物のなかでそんなことはありえない。
日向の視線の先にあの鳥居が現れていた。明らかに空間が歪んでいる。
――戻してやる、ってことか?
強く願ったつもりはない。ただ八尋を苛んでしまった心苦しさは感じている。
そして栖原に必要以上に好かれてしまった煩わしさも。
「日向くん? どうかした?」
その声に我に返ると、栖原から心配そうな目を向けられていた。どうやら彼にはなにも見えていないらしい。
また戻ってやり直したら、どうなるというのだろう。日向はすっかり、どうすれば八尋のためになるのかを見失っていた。
それならばいま、鳥居を潜る意味はない。
「なんでもない」
これを逃したら、もう二度と鳥居には巡り逢えないような気がした。
それでも日向は鳥居を視界から追い出して離れるほうを選んだ。
着替えを持ってくるべきだったなと後悔しながら日向が席に着くなり、八尋がなにか買ってくると立ち上がろうとするのを慌てて止める。
「自分で行ってくるから大丈夫」
「……日向がそうしたいならいいけど」
絶対に納得していない様子に苦笑いを零しつつ、財布を手にレジへと向かった。みひろがちょっと不満そうに顔をしかめるのから逃げ出せてほっとしていると、栖原がお代わりを頼みについてきた。
「補習大丈夫だった?」
「片付け手伝ってたらうっかり。遅れてごめん。大丈夫だった?」
「うん、まあ」
どことなくの歯切れの悪さに、八尋の態度がまあまあ悪かったのだろうと推測ができた。ちらりと八尋たちのほうを見やると、努めて明るく振舞うみひろをよそに、むっとした表情のままこちらを見つめている彼と目が合う。
「八尋って、ふたりの前だといつもあんな感じなの?」
日向と目が合った途端に頬を弛ませるのへ、みひろがむっとした顔をするのが見えた。これでは日向にそんなつもりはなくとも、みひろから目の敵にされかねない。
「そうだねえ……、あ、日向くん、なににする?」
丁度順番が来たので、日向はドリンクとサンドウィッチを注文した。代金を払おうとしたところで栖原が自分の注文を捻じ込んだと思ったら、あっという間にさっさとIDで支払われてしまった。
「ちょっと、自分で払うってば」
「なんか日向くんって甘やかしたくなるんだよなあ」
「そういうの、おれ相手にやらなくていいから」
にやりと笑う栖原に思わずむっとする。八尋はともかく栖原には、甘やかされる筋合いはない。
「おれのこと揶揄って楽しい?」
商品を受け取って席へと戻りながらそう聞くのへ、栖原がにやにやと笑って肯定を寄越した。栖原からすれば日向にちょっかいをかけるたび、八尋がいやな顔をすることも面白いのだろう。
今日は昼頃に集まって適当にぶらぶらしようという話になっていた。日向は午前中補習があるので、このカフェで昼ご飯を食べながら待っていてもらうことになっていたのだ。
そもそも日向は今日、ここへ来るつもりはなかった。土曜日は補習があると知っていてみひろが土曜を指定してくるのには、八尋とふたりきりで出かけたい意図が見えている。しかし八尋には断られたと見えて、日向と栖原に要請がきた。
日向自身四人で遊ぶことに異論はないが、段々とみひろに申し訳が立たなくなってきていた。みひろがそれでも八尋と逢いたいと言うのだからいいのかもしれない。しかし日向がどう頑張ろうと、八尋の気持ちが彼へ向くことはないような気がする。
「栖原、またひなちゃんに奢ってやったの?」
八尋の隣に座ってサンドウィッチの封を開けていると、みひろがにやにやとした笑みを栖原へと向けた。八尋がむっとした表情をするのへ、栖原の顔に満足そうな笑みが広がる。
「奢ってもらってるのに、気に入らなそうな顔をするのがかわいいからね。杵埼が甘やかしたくなる気持ちもわかる」
栖原が頬杖をついて、面白がるような笑みを向けてきた。それを無視するようにサンドウィッチへとかぶりつく。
どういうつもりで八尋のことを挑発しているのか知らないが、心の底からやめてほしかった。急にパサパサに感じるパンを無理矢理咀嚼して飲み込みながら、腹が減っているはずなのに食欲が失せてしまう。
はじめて時間を巻き戻したとき、八尋はこのふたりのことを苦手だと言っていた。彼はきっとこういう風に、当てつけのように揶揄われるのがいやなのだ。それなのにこうしてここへ来てくれているのは、日向が頼んだからに他ならない。
八尋のほうへ謝罪を込めた視線を送ると、アイスコーヒーのストローを噛んでいた八尋の頬が僅かに弛んだ。なんとなく、この集まりは今日が最後のような気がする。
みひろが思った以上にいい奴だったので、そのうち八尋の気持ちが動くかもしれないと思ってはいた。しかしこうして傍で見ていると、八尋に苦行を強いているだけのような気がしてくる。
しかしみひろはそもそも、この状態の八尋を知っていてすきになったのだ。だから蔑ろにされようとへこたれないメンタルがある。
しかしなにをされても、折れないということではないだろう。みひろが栖原と日向の仲をさり気なく当て擦ってくるのは、日向にはほかの相手がいるのだと暗に示しているからか。
「栖原って、ひなちゃんのことすきだよね。付き合っちゃえば?」
揶揄するような笑みでそう言ったみひろの、目の奥が笑っていなかった。さすがの栖原も表情を引き攣らせて、変なこと言うなよとすぐさま否定する。
八尋が信じられないと言いたげな目でみひろを見ていた。栖原のほうを鋭く睨むのへ、彼が言いがかりだと否定するように両手を上げる。
「日向くんがいくらかわいくても、俺は女の子がすきだから」
「そ、そうだよ、みひろ。おれも女の子がすきだし」
「そうなの? お似合いだと思ったんだけどなあ」
緊張に跳ね上がった鼓動が耳元でうるさかった。もうサンドウィッチの味がしない。
へらりとその場を取り繕ったみひろがドリンクのストローを咥えた。日向が食べ終わるのを見計らって、そろそろ行こうかと笑う。
カフェを出ると、近くの商業施設内をぶらぶらと冷やかした。一応八尋はみひろと一緒にいることには同意してくれたようで、腕にしがみつかれるままみひろの意向へと従っている。
「さっきのあれ、なに?」
彼らから一定の距離を開けながら、傍で適当に服を見ていた栖原に問うた。栖原もみひろの意図が計りかねたのか、さあと首を傾げる。
「みひろも気づいたんじゃない? 杵埼が日向くんのことすきだって」
「八尋のあれは癖みたいなもんなんだけど」
「本当にそうなら、俺はあんなに睨まれていないと思う。日向くんに手を出したら殺されそう」
栖原が怖かったぁ! とわざとらしく自分を抱きしめて、震えるような仕草をした。なんだよそれと肩を叩くと、本当のことだよと苦笑われる。
「まあ、それでも俺はいいけど」
「うん?」
「日向くんと付き合えるなら、殴られようがなにしようが構わないけど」
「はあ⁉ なに言って、」
「俺は本気だよ、日向くん。さっきはみひろの手前ああ言ったけど、付き合うのもいいなって思っちゃった。考えてみてくれない?」
なにを言われているのか本当にわからなかった。また揶揄されているだけなのかと思えば、真摯に見つめてくる表情にその気配が微塵もない。
いやだとは思えない自分に愕然とする。だからといってすきなのかと問われると、思った以上にいい奴で気が合うとはいえ、付き合ってみようという選択肢が湧いてこなかった。
――おれはこれを八尋に強要していたのか。
好意を寄せられているのはうれしい。揶揄されているとばかり思っていたあれもそれもこれも、日向への好意があったからこその態度だったのだろう。そう思うと悪い気はしなかった。日向に想う相手がいなければ考えてみてもいいと思ったかもしれない。
それでも、日向の心には八尋がいる。結ばれないとわかってはいても、他のだれかとなんて器用なことはできない。
「ごめん。考えられない」
「手厳しいなあ! 即答しなくても」
大袈裟に傷ついたふりをしてくれる栖原にもう一度謝った。申し訳ないと頭を下げる日向に栖原が苦笑って、もういいよと言ってくれる。
「まあ、フラれるってわかってたし」
「……そうなの?」
「うん。杵埼のこと、すきだって見てたらわかるし。みひろのことを応援してくれる気持ちは本当なんだろうけど」
その言い分に言葉を詰まらせるのが、いちばんの答えになってしまった。気にしなくていいよと肩を叩かれて、行こうと促される。
栖原は告白したことを忘れたかのように、至って普段通りの態度だった。気まずく思っているこちらがおかしいような気がしてくる。
「さっきの、本気だったの?」
だからつい、気になって聞いてしまった。疑るような響きを声に感じ取ったのだろう、栖原から傷つくなあと力なく笑われる。
「いま、めっちゃ傷抉られてるんだけど」
「ごめん、あんまり普段通りだから」
「よく言われる。俺、別れた彼女とも友達に戻れるタイプだし」
「ええ、マジで?」
信じられないと思いつつ、栖原ならありそうだと納得してしまう、妙な説得力があった。気まずさを漂わせているよりも、気持ちを切り替えてもらったほうが、たしかに付き合いやすいと言えばそうなのだけれど。
「それって、しんどくない?」
「なにが?」
「フラれたときも、平気な顔して友達に戻るってことだろ?」
「……すきだからこそ、友達の顔してでも傍にいたいってことだよ」
まあしんどいんだけどね! と栖原があっけらかんと笑った。
すきだからこそ、友達の顔をして傍にいる。
その言葉が、日向の心に刺さって抜けない。
「俺も制服で来たらよかったなあ。制服デートっぽくてさ」
日向の気を紛らわそうとするように、突然そんなことを言われた。戸惑う日向に笑いかけてくれたのは、もう気にしなくていいということだろうか。
「デートって」
「これって、みひろに言わせたらデートでしょ。杵埼にはいい迷惑だろうけど」
「たぶん、そろそろ八尋も限界だと思う」
「もし四人で遊ばなくなっても、俺とふたりで遊んでくれる?」
「……それは友達として?」
その問いに、栖原が曖昧な笑みを寄越した。あからさまにアプローチされることはなさそうだが、これは厄介なことになったなあと苦々しく思う。
そうしているうちに、ふと辺りが陰っているのに気づいた。一定の明るさを保っている建物のなかでそんなことはありえない。
日向の視線の先にあの鳥居が現れていた。明らかに空間が歪んでいる。
――戻してやる、ってことか?
強く願ったつもりはない。ただ八尋を苛んでしまった心苦しさは感じている。
そして栖原に必要以上に好かれてしまった煩わしさも。
「日向くん? どうかした?」
その声に我に返ると、栖原から心配そうな目を向けられていた。どうやら彼にはなにも見えていないらしい。
また戻ってやり直したら、どうなるというのだろう。日向はすっかり、どうすれば八尋のためになるのかを見失っていた。
それならばいま、鳥居を潜る意味はない。
「なんでもない」
これを逃したら、もう二度と鳥居には巡り逢えないような気がした。
それでも日向は鳥居を視界から追い出して離れるほうを選んだ。

![[完結]平凡くんはキラキラな幼馴染に甘やかされたい。](https://novema.jp/img/member/1385841/bvir3d3gmp-thumb.jpg)