恋の解法 〜友達以上にはならないと契約した親友(学園王子)にキスされたんだけど約束が違うな?〜

 新入生オリエンテーション。
 生徒同士は然ることながら、教員たちともぜひ親睦を深め合おうというのが主旨の、高校生活の中で最も初めにやってくる宿泊イベントだ。実に私立高校らしい行事である。
 バスで三十分程度の近場にある宿泊施設をいくつか貸し切り、三百人ほどいる一年生が全員参加する。部屋割りは一部屋につき二人から四人となるらしい。
 担任の柳井が部屋割りをするべく、教室の黒板に十一個の四角い枠を雑に描く。それによるとどうやら二人部屋と三人部屋がそれぞれ三部屋ずつ、四人部屋が五部屋、という振り分けのようだ。
 席順からして、オレが最初に部屋を割り当てられることになった。

「十王と同室なのは──」

 柳井がそこまで言ったところで、クラスメイトの三割ほどが俊敏に挙手した。オレが属するこの十組に女子生徒は一人もいない。挙手をしたのも当然ながら全員男子生徒だ。オレは苦虫を噛み潰す顔で、挙手しているクラスメートを見回す。亜希に元カノのプリクラを見せるようねだったという小木津千紘(ちひろ)も、高々と手を挙げていた。
 柳井はいささか呆れかえった声で、

「……神峰でいいな?」

 と賛同を求めてきた。
 しかしながらオレの一存で首肯するわけにはいかない。後ろを振り向いて本人の同意を確かめようとした。亜希は肘を突きつつ黒板のほうをぼうっと見ているので、異議はなさそうだった。
 オレは再度、柳井の方に向き直った。

「いいみたいです」

***

 新入生オリエンテーションは、最悪の気分で幕を開けた。
 七組から十組の生徒が、ここ、旅館「色葉(いろは)」に宿泊する。バスに乗り、おちおち寝てもいられない短時間で色葉に到着したあとは、早々に大広間への召集がかかった。言われるがまま大広間へと重い荷物を持って移動する。
 総勢四クラス分の約百三十人弱が一斉に移動したため、大広間へと続く廊下は芋洗いの状態だった。その雑踏の中、オレは何かに躓いてよろけ、隣を歩いていた一人の女子生徒にぶつかってしまった。

「わっ、すみません」

 衝突したことによって、彼女のバッグから雑然とした音を伴って十数枚の写真が床に落下した。その場に撒いたように写真が広がる。
 それらの光沢紙には、オレか亜希しか写っていなかった。カメラ目線でないところからして、隠し撮りだろう。食堂で昼食をとっている亜希、体操着でグラウンドを疾走しているオレ、亜希にネクタイを結ばせているオレ、等々。
 オレは絶句した。

「はは」

 無感情に笑ったのは亜希だ。
 それだけなら、まあ、かなり釈然とはしないが、想定の範囲内だった。盗撮くらいする生徒はいるだろう。「聖那様党」にも「亜希様党」にも、かなり熱狂的な御仁がいるということは聞き及んでいたからだ。
 しかし、重なった写真の中で一番上になっていた、保健室のベッドで眠るオレたちの寝顔の写真には、なぜだか本気で悲しくなった。極めつきは、オレたちの顔の周りを囲むようにして、赤い油性のペンでハートマークが描かれていたことである。まるでアベックが自分たちのツーショットにそうするように。
 女子生徒は泡を食ってそれらの写真を拾い集め、そそくさと退散しようとする。彼女は青白い面長の顔にマッシュルームを模したような髪型を載せていて、輪郭だけでいえば帽子付きのどんぐり──この帽子の正式名称は殻斗というが──に似ていた。

「なるほどな、」

 亜希が口火を切る。

「養護教諭もグルだったわけだ。病気の生徒二人を同じベッドで寝かせるなんて、確かに考えにくい」

 淡々とそこまで言って、また平然と歩を進め始めた亜希に、

「なんでそう、割り切って考えられるんだよ」オレは深くうなだれ、頭を抱えた。「……転校したい……」

 教師も信用ならないとくれば、もはや我々は一体何を信じて学校生活を送れば良いのか。盗撮なんて最低だ。肖像権の侵害だ。もう、みんな敵だ。馬鹿。くそったれ。

「ねえねえ、その写真ってどこで手に入るの?」

 突如として、一人の男子生徒が雑踏の中から現れどんぐりガールに駆け寄る。栗色の清潔感のあるショートヘアに、一七〇センチ弱の上背の彼は、高めのテノールで捲し立てた。

「やっぱりナントカ党に入らないともらえない感じ? スマホにデータで送ってもらうこととかできるのかなあ。いくらするの? あっ、亜希のは別に要らないんだよね。聖那ちゃんのだけで良い」
「おい、小木津」

 オレは怒気を孕んだ声色を投げる。小木津千紘は同じ十組のクラスメートで、部屋割り決めの際にオレとの同室を志願していた男の一人だ。

「その『聖那ちゃん』はやめろって、何度言えば」

 気色ばむオレにも飄々と、

「そうカタいこと言うなって」などと戯れ、こちらにウインクしてくる。右目の下にある小さなホクロが印象に残った。「いいじゃん、似合ってるし。世の中の可愛いものには、すべからく『ちゃん』がつくべきなんだよ。キティちゃんを、キティさんとは呼ばないだろ?」

 小木津はまったく筋の通っていない理論を展開してくる。

「そういう問題じゃねえ。それから、オレの写真を買おうとするのもやめろ」
「なんで」
「肖像権の侵害だ」
「この前読んだジョージ・オーウェルの本にさ、こんな一文があったよ。『Beauty is meaningless until it is shared.』」

 小木津の話はいつも脈絡に欠ける。彼が引用したのは『ビルマの日々』の一文だろう、オレも過去に読んだことがあった。訳すならばこうだ。「共有されるまで、美にはなんの意味もない」。

「美しいものはさ、みんなでシェアするべきなんだって。君もそう思うよね──って、えっ」

 どんぐりガールに共感を求めにいった小木津の声が裏返る。

「どっ、どうしたの、鼻血出てるよ!」
「……あ、亜希様と、目が合ってしまっ……」

 その言葉を最後に、こともあろうか、どんぐりガールはその場で卒倒した。咄嗟に小木津が腕を出したことで頭部を打ち付けずに済んだが、へなへなと座り込むように床に崩れ落ちる。

「だ、大丈夫っ?」

 オレは慌てて駆け寄る。亜希もオレに倣おうとしていたが、制止した。

「亜希はこの子に触るな。永遠に目覚めなくなる」

 目が合っただけで卒倒したのだ、いわんやボディタッチをや、である。

 小木津はあまりの事態に顔を歪める。「お前はマイケル・ジャクソンか」

 この一件により神峰亜希は「目が合っただけで女子を気絶させた男」として、ヤマ高の後世まで語り継がれることになる。
 先生呼んでくる、と小木津が人々の間を縫って駆け出した。オレはかたく目を閉じているどんぐりガールを支えながら、

「今後、お前はヤマ高のどの女子とも、目を合わすなよ」
 はー、と亜希は長い溜息をついた。「……転校したい……」

***

 どんぐりガールの失神により一時オリエンテーション会場は騒然となったが、教員らによって安全な場所へ運ばれた後、彼女はすぐに回復したらしい。
 その後は予定通りにイベントは進行した。宿泊施設周辺の散策や、英語のリスニングの講習、自己紹介ゲームと称した退屈なレクリエーションなどをして過ごしているうちに、あっという間に日が暮れた。
 消灯時間が迫る頃、昼間はずっと行動を共にしていた亜希の姿が見えなくなった。

「ここに亜希、いる?」

 十組の生徒が宿泊する部屋ひとつひとつに声を掛けるが、見当たらない。

「おかしいな、どこ行ったんだろ」

 オレが独り言のように言うと「それより聖那ちゃん大貧民やろうぜ」と、その四人部屋にいた小木津が誘ってきた。

「いいけど、オレ、強いよ?」

 過信ではない。オレは記憶のある中では、大貧民で負けたことがなかった。運の要素が大きいと感じる向きも多いだろうが、大貧民はカウンティングと心理戦が勝敗を大きく左右する。オレにとって、場に捨てられたカードを全て記憶する程度のことは造作もない。
 容赦なく三回ほど四人を叩きのめした頃、部屋の扉が勢いよく開いた。

「ここに聖那……あ、いた」

 今度は亜希がオレを探していたようだった。

「あ、どこ行ってたんだよ亜希。探したじゃねーか、って、うわっ」

 言い終えないうちに、亜希はオレのジャージの首元をかたく掴んで、ずるずると部屋から引き摺り出した。廊下まで出るとオレのことを床にあっさり捨て、

「もう少し危機感を持てよ」

 と言った。

「中学時代、色々と嫌な思いをしたんだろ」

 すぐにその言葉の意味を解することができなかったが、既に消灯時間を過ぎていることを思い出し、合点がいった。

「……心配してくれたの?」
「心配じゃない、忠告だ。聖那が学習能力のない馬鹿だからだ」

 おい、さすがに言いすぎだろ。素直じゃない奴め。

「ところで、どこ行ってたんだ」
「プロジェクターを設置してた」
「プロ……え?」
 


 オレと亜希の客室は十一平米ほどの和室で、かなりこぢんまりとしていた。
 部屋の中央あたりに非常にコンパクトなサイズのプロジェクターが置かれており、ケーブルで亜希のスマートフォンと繋がっている。プロジェクターの光は広縁との仕切りになっている障子に投影されていた。プロジェクターが映し出すは、大きな「M」という赤い文字。有料動画配信サービス、メットフリックスのスタート画面であることはすぐにわかった。
 思春期真っ盛りの男子高校生が二人きりで、プライベート空間で夜な夜な楽しむ動画といえば──もう、それしかないではないか。オレは早くもどぎまぎしてきた。

「い、いいのかな。学校行事で、いやらしい動画なんか見て」

 しかもこんな、大画面で。

「はあ?」スマホを操作しながら、亜希は素っ頓狂な声を出す。「そんなの一人で見ろよ」

 違うの? と拍子抜けした。

「だったら何」
 こちらの言下に亜希は答えた。「ホラー」

 その顔は、我が意を得たり、と言わんばかりの不敵な笑みをたたえていた。オレは即座に方向転換し、部屋の出口へ猛然とダッシュする。

「逃げるなよ、」亜希の声が悠然と追いかけてきた。「内鍵かけるぞ」
「な……なんだと」
「他の部屋ももう施錠してる時間だ。廊下で寝る羽目になっても知らないからな」

 オレは色を失い、わなわなと口唇を震わせた。

「お前がそんなに無体なことをする奴だとは……!」

 幽霊や心霊といった実体のないものが、昔から大の苦手だった。オカルトにもサイコにもスプラッターにもグロテスクにも、全て耐性がない。オレは平和主義者なのである。
「M」の赤字が消え、ホラー映画のタイトルが映し出される。『ミチコの慟哭』。その禍々しい字体のタイトル画面だけで、オレは「ひっ」とか細い声を漏らした。

「特等席はこちらです」

 などとこちらを茶化すように言いながら、亜希はオレの手を引っ張って自分の足の間に座らせ、更に羽交い締めにしてきた。

「や、やめろ、やめてくれ! 頼むから……!」

 決死の抵抗も虚しく『ミチコの慟哭』の再生が始まる。開始早々、ベッドの上で血みどろになっている男性の裸体が映し出された。「ぎゃあああ」と断末魔を響かせるオレの後ろで、亜希がげらげら笑っている。
 半分以上目を瞑ったり耳を塞いだりしていたので全容を詳らかにはできないが、大まかなストーリーはこうだ。
 主人公のミチコは風俗嬢という設定で、彼女と同じ布団で眠った男は、翌朝、ミチコが目覚めると決まって姿を消している。不審に思ったミチコが、普段は開かずの空間になっている、地下室への扉を開く。そこでは姿をくらましていた男たちが息絶え、死屍累々たる風情で重なっていた。彼らは夜間に覚醒するミチコの別人格「ミサト」が殺戮していた──要約すればただそれだけの話だ。
 それだけの話なのだが、いやはや、これが実に怖い。オレはタイトルさえ見聞きしたことがない映画だったが、国際映画祭で受賞歴もあるほどの有名な作品らしかった。
 映画の後半、辛抱たまらず、背後の亜希の胸元に顔を埋めていた。

「今、怖いの映ってるッ?」
「映ってる、映ってる」亜希は含み笑いで答える。
「ぎゃああああ!」
「なんで見てないのに叫ぶんだよ」

 オレが顔を押し付けている亜希の体幹が哄笑によって痙攣する。ここまで大笑いする亜希をオレは初めて見た。映画が終わる頃には「あー、十年分笑った」と亜希が目元に滲んだ涙を拭い、オレはオレで、まったく別の意図によって湧き出た涙をティッシュで押さえた。
 亜希が十年分笑ったというなら、こちらは十年分叫んだ。この野郎、覚えてやがれ……。

***

 当たり前といえば当たり前だが、睡魔はやってこなかった。
 慣れない蕎麦殻枕で、初めて泊まる古びた宿で、ライスペーパーのごとき薄い煎餅布団で、大嫌いなホラー映画を見た後なのだ。眠れるわけがない。
 部屋の奥から軋むような音が聞こえる、気がする。押入れの中から衣擦れのような物音がした、気がする。冷蔵庫が放つ微かなインバーターの動作音が、やけに大きく耳に届く。

「……こわ……」口元まで掛け布団を引き上げた。

 橙色の常夜灯が薄く照らす天井に、三つの染みが浮き出ているのに気付く。ちょうどムンクの『叫び』のような、泣き叫ぶ人の顔に見えた。先ほどの映画の「ミサト」が慟哭する表情にも似ている。
 ──怖い、怖すぎる。おい、そこからこっちを見下ろすんじゃねえ、ミサト。

「……聖那?」

 オレが五十回目の寝返りを打ったとき、三十センチほど離れたところに敷いてある隣の布団から声がした。まだ起きていたらしい。

「眠れないのか?」
「亜希のせいだろ」

 オレは非難の意思を目線に込める。

「こっちに入るか?」
「え」

 何を言い出すかと思えば、亜希はそんなことを提案しながら自分の身にかかった掛け布団を左手で持ち上げ、入口を作った。

「な……なんだよ」オレは狼狽える。「優しさが唐突すぎて、気色悪いっつうの……」
「まあ、聖那の言う通り、俺のせいだし」

 事もなげに亜希は言う。その声にはやっぱり、少しだけ冷やかしの笑いが見え隠れしている。
 嫌ならいいけど、と持ち上げた布団が閉じられそうになった。

「いや、待て」オレは白旗をあげる。

 このままでは徹夜は確定だ。しかも単なる徹夜ではない。夜通し恐怖に耐え忍び、奇妙な物音に打ち震えることになるのだ。
 オレはおずおずと自分の布団を這い出て、招待された場所に身体を横たえた。向かい合う形になる。亜希の体温で温められた三十六度の煎餅布団は、なぜか自分のものより柔らかな寝心地に感じられた。
 ぽん、ぽん。
 二回だけ、亜希がオレの背中を優しく叩いた。泣く赤子の背中を母親がさすってやるときの、あの力加減で。

「おやすみ」

 上から声が落ちてくる。いつものシニカルな声色ではなかった。穏やかな、柔らかな、オレの頭をそっと撫でるみたいな、そんな言い方だった。
 うん、おやすみ、と小さく応じながら、頭上を見上げた。亜希はもう目を閉じていた。
 しかし、アップに耐える顔だな。
 暗闇にさえおそろしく映える、白樺のように透き通った白い肌。完璧に左右均等の眉毛に、爪楊枝が五本は載りそうな長い睫毛、品の良い薄い唇。
 これは会心の出来だったろうな。オレはぼんやり考える。神様の、会心の一作だ。
 ふと、どんぐりガールのことを思い出した。亜希と目が合っただけで卒倒した彼女が、もし、今のオレの立場と入れ替わったらどうなるだろう。たぶん、二秒で血を吐いて絶命する。
 ふー、と小さく息をついた。天井のミサトともう一度目が合った。だけど今度は、全然怖くなかった。
 ──友達って、いいもんだな。
 恐怖も、笑いも、安心も、ぬくもりも、共有できるのか。いいもんだな。
 気づいた時にはもう、深い眠りの膜に包まれていた。

***

 朝日が室内を照らして、瞼の裏をオレンジ色に染めた。

「おい、聖那」

 耳元で亜希が呼びかけてくる声がする。

「……おはよう」

 オレは寝ぼけ眼をこする。昨日叫び過ぎたせいで喉がやや枯れていた。

「変な誤解を招いてる」

 出し抜けに亜希がそんなことを知らせてくる。「誤解?」と繰り返しながら、亜希が指差す方を見遣った。
 そこには、クラスメートが二人ほど、赤面で直立していた。おそらく集合時間を過ぎても姿を現さないオレたちを呼びにきたんだろう。
 眠気が吹き飛んだ。あとから知ったことだが、内鍵はオリエンテーションの規則でかけてはいけないものだったらしい(要は、オレは昨夜、その点でも亜希に担がれたのだ)。

「ち、ちょっと待ってくれ。これは違うんだ」

 二組の布団があるのに、わざわざ片方の布団で二人、向かい合わせで眠っていたのだ。関係性を誤って理解されても無理はない。

「あ、いやでもほら、多様性の、時代だし。いいと思う」
 クラスメートの声は明らかに上擦っていた。

「そういうのじゃない。本当にそういうのじゃないから」

 オレは両の掌をクラスメートの方へ向けながら、寝不足の頭を駆動させてなんとかその場を収めようと思案する。

「オレたちはね、あれだから。協定を結んでるから」
「協定?」

 聞き返したのは亜希だ。初耳だ、という顔をしている。当然だ。初めて言うんだから。

「『友達協定』を結んでるから。『友達を越えた関係には決してならない』、『お互いの身を危険に晒さない』という条件のもとに、締結された協定なんだ」

 自分でも支離滅裂なことを弄しているとは思う。でも寝起き直後、加えて寝不足の頭で捻り出せるアイディアはこの程度が限界だった。

「だから、オレと亜希は絶対に、君たちの誤解するような関係にはならない」

 な、と亜希に同調を求める。求めるというよりは、強請るという表現の方が近いか。
 亜希は面倒くさそうに、

「なんか、そうらしい」

 とクラスメートに向けて肩をすくめている。
 こうしてオレたちは、不可解な協定を締結した。その場の思いつきの放言だったが、オレはなかなか「友達協定」という響きが気に入ったのだった。
 帰りに寄ったお土産屋で、亜希がガラス棚に貼り付いて何かを熱心に吟味していた。そこにはピアスがずらりと陳列されている。

「お、ピアス。あけるの?」
「悩んでる。でも両耳は嫌なんだよな」

 ガラスケースの中にお行儀良く並ぶ、色とりどりの小さな輝き。数ミリサイズのシンプルなものから、親指ほどのモチーフがついた華美なものまで、なんでもござれだ。素直に、綺麗だなあ、とその輝きたちを見つめた。

「オレもあけたいかも。確かに、両耳は嫌だけど」

 痛い思いは一回だけでいい。
 ここでオレは閃いた。漫画だったら頭上にピカリと電球が点ったはずだ。

「片耳ずつ同じピアスをつけて、協定の証にしよう」
「は?」間抜けた声を出す亜希に、
「このピアスをつけていれば間違いなく、お互いの身は安泰ということだ」

 天啓を得た、と言わんばかりにオレは胸を張る。

「別につけなくても安泰だけどな」
「あ、そう」

 まあでも、と亜希はガラスケースを吟味しながら言葉を継ぐ。

「何か理由が必要だ、耳に穴をあけるための踏ん切りをつけるには。誓約だとか宣誓だとかには痛みがつきものだしな」
「よし、なら決まり」

 そのあとオレたちは暫しの討論を交わし、赤色の、小さめのピアスを選んだ。割り勘でひとつ、購入する。
 ひとつずつ、お互いの掌に載せた。飾りの燃えるような赤が、キラリと光った。

「『友達協定』、ここに発足だ」