Embrace it all―すべてを抱いて、生きていく―

 亞紗斗さんが、ヴァイオリンケースとは反対の手を、ジャケットのポケットへ入れた。


「梨歩」

「ん?」

 何かを取り出す。

 小さな箱。

「…………」

 理解するまでに、数秒かかった。





「え」


 亞紗斗さんが、こちらを見る。


 いつもと同じ。

 落ち着いた目。

 アイスグレーの瞳。
 

 でも。

 どこか、いつもより真剣だった。



「開けろ」

「え、ちょ、ちょっと待って」

「何故だ」

「いや、だって、これ……」

「いいから」

 亞紗斗さんに差し出され、あたしは受け取る。


 それは、小さなケース。


 指先が震えた。



「……これ、まさか」

「開ければ分かる」

「あの……あたしには、心の準備ってものが」


「以前も同じことを言っていたな」

「何の話?」

「婚約者だと公表した時」

「はぁ! それ今言う!?」

 思わず声が裏返る。