Embrace it all―すべてを抱いて、生きていく―

「梨歩」

「ん?」

「明日は何時に出る?」

「十時くらい。亞紗斗さんは?」

「昼過ぎだ」

「そっか。じゃあ朝ごはんくらい一緒に食べられる?」

「ああ」

 それだけの約束が、嬉しい。

 本当に。


「なんかさ」

「何だ」

「あたしたち、恋人っぽくないよね」

「今さら何を言っている」

「だって普通、もっとこう……毎週デートしたり、休みの日は一日一緒にいたりするもんじゃない?」

「普通が何かは知らない」

「ですよね」

 あたしは笑った。

 でも。

 亞紗斗さんは続けた。


「俺はこれでいい」

「え?」

「会える時に会えばいい」

「…………」

「毎日会えなくても、関係が変わるわけじゃない」

 さらりと言う。

 簡単に。


 でも。

 その言葉が、やけに胸に沁みた。


「あたしさ」

「何だ」

「たまに不安になるんだよね」

「何が」

「会えない時間が長いと」


 少し迷った。

 でも、言った。

「また、大切な人が遠くに行っちゃう気がして」


 亞紗斗さんは黙った。

 あたしは続ける。

「涼ちゃんの時とは違うって、分かってるんだけどさ」


 生きてる。

 連絡できる。

 次に会う約束だってできる。

 全部違う。


 でも。

 体のどこかが、まだ覚えている。


 突然失う怖さを。


「だから、返事がないと勝手に心配したりする」

「…………」

「重いよね。未だにこんな話、亞紗斗さんにしちゃうなんて。きっと……困らせてるよね、あたし」

 笑って誤魔化そうとした。

 でも。

 亞紗斗さんは、笑わなかった。


「重くない」

「え?」

「それで不安になるなら、俺に言え」

「でも忙しいでしょ」

「忙しいことと、梨歩を不安にさせることは別だ」

「…………」

 そういうことを。

 この人は、本当にさらっと言う。

 ずるい。


「亞紗斗さんってさ」

「何だ」

「たまに反則だよね」

「意味が分からない」

「分からなくていい」

 笑った――その時。