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あたしの泊まるホテル近くの川沿い。
夜風が、少し冷たかった。
それは、四月に入ってまもなくの頃だった。
昼間は暖かくなってきたけれど、夜になるとまだ薄手の上着が欲しくなる。
あたしは遊歩道のベンチに座って、亞紗斗さんを待っていた。
遠くに橋の灯りが見える。
川面に反射して、細長く揺れている。
左手に目を落とす。
桜の指輪。
涼ちゃんが遺してくれたもの。
七年以上経っても――今でも、ここにある。
あの日。
捨てようとして。
できなくて。
そのあたしに、亞紗斗さんは言った。
――忘れなくていい。
――全部持ったまま、俺のところに来ればいい。
あの言葉に救われた。
でも。
救われたからといって、全部の迷いが消えたわけじゃない。
あれから亞紗斗さんと付き合うようになって。
幸せな時間が増えて。
それと同時に――ふと、怖くなる瞬間もあった。
涼ちゃんを思い出さない日が増えた。
昔なら、朝起きた瞬間に思い出していたのに。
最近は……
仕事の予定を確認して。
今日の衣装を考えて。
亞紗斗さんから連絡が来ていないか確認して。
そうして一日が始まる。
それが怖かった。
でも。
前ほど、その恐怖にも飲み込まれなくなった。
忘れているんじゃない。
あたしの中に、ちゃんといる。
毎日思い出さなくても、涼ちゃんを愛したことがなくなるわけじゃない。
そんなふうに思えるようになったのは、たぶん。
亞紗斗さんのおかげだ。



