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「何をしている」
背後から聞こえた声に、肩が跳ねた。
(亞紗斗さん……?)
振り返れなかった。
手の中には、桜を象った指輪。
捨てようとして。
結局、捨てられなくて。
あたしは、それを握りしめたまま泣いていた。
「選べない……」
ようやく、それだけが声になった。
「できない……。涼ちゃんを、忘れることなんてできない……」
亞紗斗さんは、何も言わなかった。
あの時のように。
言い訳も。慰めも。
急かす言葉もなく。
ただ、あたしの後ろに立っていた。
しばらくして、
「忘れなくていい」
静かな声が落ちてきた。
「……え?」
「それは、梨歩にとって大切なものじゃないのか」
あたしは、握りしめていた手をゆっくり開く。
涙で滲んだ視界の中で、小さな桜が光っていた。
「……わからない」
大切。
そんなの、わかっているはずなのに。
「わからない……。大切なはずなのに。涼ちゃんだけを感じていたいのに、最近は……涼ちゃん以外の人のこと、考えたりして……」
言葉にするたび、胸が痛くなる。
「涼ちゃんのこと、忘れたくないのに……その人のことを思うと、苦しくて……」
亞紗斗さんは黙って聞いていた。
「これを外せば、次に進めるかもしれない。楽になるかもしれない。涼ちゃんのお姉さんも、手放してもいいって言ってくれた」
それでも。
「でも、涼ちゃんがそう言ったわけじゃないし……」
もう。
「もう涼ちゃんに聞くこともできないから……どうしたらいいのかわからない……」
返事は、永遠に返ってこない。
それが、たまらなく苦しかった。
「梨歩……。好きなやつが、できたのか」
「…………」
心臓が大きく跳ねた。
答えられない。
代わりに、彼にずっと聞きたかったことを口にした。
「亞紗斗さんなら……どう思う?」
「何がだ」
「前の恋人からもらったものを、いつまでも持ってる人」
怖かった。
それでも聞いた。
「やっぱり、いい気はしないよね。いつまでも過去に執着する、未練タラタラな人って思うよね」
声が震える。
「そんな人のこと、好きになんて……なれないよね……」
沈黙。
「やだ、あたし……何でこんなにベラベラ喋っちゃってんの。ごめんなさい、こんな話聞きたくないよね。いいの、聞き流して――」



