Embrace it all―すべてを抱いて、生きていく―

「外せないんだろ」

「…………」

「涼平の指輪」

 胸が詰まる。


「それは、梨歩にとって大切なものだ」

「……うん」

「なら、外す必要はない」

「でも……」


 声が震えた。

「でも、これ……婚約指輪なのに……」


 普通なら。


 前の恋人の指輪を外して。

 新しい人の指輪をつける。


 そういうものなんじゃないの。



「亞紗斗さん、嫌じゃないの?」

「何が」

「自分が贈った指輪の隣に、涼ちゃんのがあるの」

「別に」

 亞紗斗さんは少しも迷わなかった。





「…………」


「同じ意味の指輪じゃないだろ」

「え……?」

「涼平のそれは、梨歩が涼平に愛された証だ」


 静かな声だった。


「俺のこれは」


 亞紗斗さんがケースからリングを取り出す。




「これからの約束だ」




 涙が落ちた。

 
「過去と未来は、意味が違う」

 亞紗斗さんが、あたしの左手を取る。

「一つを選ぶために、もう一つを捨てる必要はない」

「…………っ」

「俺は前にも言ったはずだ」

 亞紗斗さんの指が、あたしの桜の指輪にそっと触れる。


「全部持ったまま、俺のところに来ればいいと」


「亞紗斗さん……」
 

 もう。

 涙が止まらなかった。


「ずるい……」

「何が」

「ほんと、ずるいよ……」


 涼ちゃんを忘れなくていい。

 指輪も外さなくていい。


 それなのに。



 未来までくれる。

 そんなの。


「そんなことされたら……」

 声が震える。

「もっと好きになるじゃん……」