水夜が翔澪との生活に慣れ始め屋敷内の掃除がすっかり終わると、今度は屋敷の外の手入れが始まった。
「今日は畑の手入れだ。しかし、なかなか骨が折れそうだな」
うっそうと茂る雑草に囲まれた畑を見ながら、翔澪はうんざりとした顔で言う。横にいた水夜は翔澪を見上げて笑顔になった。
「大変そうですが、綺麗になった畑を想像するととても楽しみですね。前は何か植えていたんですか?」
「ああ、人間がどのようにして作物を育てるのか興味があってな。トマトやキュウリ、白菜などいろいろな野菜を作っていた」
「そうなんですか!それじゃ、また作れますね。楽しみです」
水夜が目を輝かせてそう言うと、翔澪は水夜を見ながら微笑む。
「お前がそう言うと俺までなんだか楽しみになって来るから不思議だ。よし、やる気がわいてきた、さっさと終わらせよう」
二人は雑草をせっせと抜き始める。雑草に纏わりついていた穢れは雑草が抜かれる度に消滅し、穢れが充満していた畑は見た目と共にどんどん綺麗になっていく。
雑草がなくなると、水夜は鍬をもって土を耕し始めた。翔澪も一緒に耕し始めるとあっという間に畑は見違えるようになった。
「今日はここまででいいだろう。時期が来たら畝を作って種を植えよう」
「はい!」
二人は近くにある水道で手を洗い、腰かけようの二人掛けのベンチへ腰かける。水夜が用意していた水筒からお茶をコップにつぎ、二人で仲良く飲むと小さく息をついた。
「それにしても、水夜はずいぶんと手際がいいな。やり方を知っているのか?」
「実家で畑仕事も行っていました。一通りのことは全てできると思います」
なんてことないというように水夜が笑顔で返事をすると、翔澪は渋い顔をして大きくため息をついた。
「翔澪様?」
「水夜は本当になんでもやらされていたんだな。そんな扱いを受けていたとは、やはり許せぬ」
怒ったような顔の翔澪を見て、水夜は眉を下げて微笑んだ。
「確かに大変なことも多かったですが、家事も掃除も畑仕事も私にとっては楽しいことでもありました。何かを作り出したり、綺麗にしたり、自分の手で物事が変化していくのは楽しいですし、辛いことを忘れることができる唯一の時間だったんです」
水夜は自分の両手を見て嬉しそうに微笑む。そんな水夜の両手を、翔澪は優しく包み込んだ。
「お前の心が清らかなのは、そういうところからきているのだろうな。この傷だらけの手は、お前が頑張って生きているという勲章だ。そして、そんなお前とこれから一緒に生きていけることが俺は嬉しい」
そう言って、翔澪は水夜に優しく口づけた。
「っ!」
唇を離し、水夜を見つめる翔澪の瞳はとても優しく温かい。まるで体の奥からじんわりと温められ、水夜の全てを包み込んでいくようだ。
「ありがとうございます。私も、翔澪様と一緒に生きていくことができて幸せです」
(あの時、翔澪様に助けてもらわなかったら、私はここにはいない)
何処にも居場所がなく限界を迎え自ら命を絶とうとした水夜を、翔澪は引きとめここへ連れて来てくれた。水夜の生きる意味を作ってくれたのはまぎれもなく翔澪だ。
胸いっぱいに広がる幸せと喜びを向けるように、水夜はとびきりの笑顔で翔澪を見上げる。そんな水夜を見て、翔澪はうっとりとした視線を向け、水夜へまた口づける。
今度は、何度も水夜の唇を食み、舌で水夜の歯をなぞる。水夜が思わず口を開くと、舌は簡単に水夜の口の中へ入り、口腔内を縦横無尽に動きまわる。優しいのにどこか強引で、まるで水夜の全てをむさぼりつくそうとしているかのようだ。
(気持ち良すぎて頭がぼんやりとしてしまう……)
体中がどうしようもなく熱い。熱いのに、とても清らかで心地よい。神様との口づけはこんなにも気持ちの良いものなのかと驚きつつも、その気持ち良さで何も考えられなくなっていく。
口づけながら、翔澪は水夜の体をそっと撫でるように手を這わせた。翔澪の手つきは優しいのにどこか艶めかしい。翔澪の大きな手の感触が着物越しに伝わり、水夜の体はどうしようもなく疼いた。
「っはあ……」
翔澪の唇がようやく離れると、水夜は息つぎをしながらぼんやりとしている。蕩けた顔の水夜を見て翔澪はたまらない感覚に襲われる。水夜の頬を優しく撫でながら翔澪は小さく呟いた。
「たまらないな……」
「?」
何かを言われたような気がしたが聞こえなかったので水夜は蕩けた顔のまま首を傾げる。その仕草が可愛らしく、翔澪は嬉しそうに笑った。
「水夜は本当に可愛らしいな。どこにも出さず、ここにずっと閉じ込めてしまいたいほどだ。まあ、俺と一緒でなければ神域の外に出ることはできないから、実際に閉じ込めてしまっているようなものだが」
そう言って、翔澪は少しかがみ、水夜の顔を覗き込む。
「水夜はここから出たいと思うか?」
少しずつ頭が冴えてきた水夜は、目をぱちくりさせてから翔澪を見つめ、小さく首を横に振った。
「いえ、私は翔澪と一緒にいられるならずっとここにいたいです」
(私の居場所はここだもの。ここ以外にどこにもない)
むしろここから出て行けと言われたら、水夜はもう生きている意味がなくなる。
「そうか」
水夜の返事を聞いて翔澪はご機嫌そうに笑う。
「よし、畑も綺麗になったことだし、一緒に街へ行ってみようか。ここで掃除ばかりして水夜に飽きられてしまっては困るからな」
(私は飽きたりしないのに。でも、翔澪様と街を歩けるなんて、なんだか楽しそう)
水夜がそう思っていると、翔澪は水夜へ片手をかざす。すると、水夜の着ていた掃除用の着物が変わり、美しく鮮やかな着物に変化していた。
翔澪は水夜の髪を結んでいた美しいオーロラ色のリボンをほどき、水夜の手首に優しく結ぶ。それから翔澪の着ていた着物も綺麗な着物に変化し、翔澪は満足そうに頷いた。
「よし、支度は整った。それでは出かけよう」
そう言って翔澪が澪の片手を取り、歩き出そうとしたその時。どこからともなく、祝詞を読み上げる声が聞こえてくる。
(これは、お父様の声!?)
水夜はハッとして翔澪を見ると、翔澪は眉間に皺を寄せて小さく舌打ちした。
「こんな時に俺を呼び出すとは何事だ」
翔澪は水夜の体を引き寄せ抱きしめた。二人の体がキラキラと輝きだす。
(眩しくて、前が見えない……!)
光が消え、水夜が目を開けるといつの間にか湖の前にある鳥居の前にいた。どうやら神域を出たらしい。
「水夜!?やはり生きていたのか!それじゃ、その男性は龍神様の人としてのお姿……!?」
水夜たちの前には、翔澪と水夜を見て驚愕する清四朗と珠奈がいた。
「水夜!?それに、なんて美しい方……」
珠奈は水夜を見て怒ったような表情をするが、すぐに翔澪を見てうっとりとした顔になる。そんな珠奈に翔澪は心底嫌そうな視線を向けた。
「龍神様。お呼びだてして申し訳ありません」
「一体何の用だ。俺はお前たちに用はない。早々に立ち去れ」
そう言って、翔澪は水夜を連れて歩き出そうとする。だが、慌てて清四朗が立ちはだかった。
「お、お待ちください!龍神様、湖から穢れがなくなったこと、お慶び申し上げます。これも全てここにいる珠奈の神力の勾玉があったからこそ。そこにいる水夜には神力がありません。どうか、こちらの珠奈と引き換えに水夜をお返しいただけませんでしょうか」
清四朗の言葉に、水夜と珠奈は驚愕する。翔澪だけは何の感情もこもらない表情で清四朗を黙って見ていた。
珠奈は一瞬怒ったように清四朗を見たが、すぐに何かに気づいて表情を変える。
「龍神様、青条家次女、珠奈と申します。私の神力がお役に立ちましたこと、光栄に存じます。どうか、これからも龍神様のためにこの神力をお使いいただければ幸いです」
美しい笑みをつくり、珠奈はそう言って深々とお辞儀をする。
(そんな、お父様は私を連れ戻すつもりなの?でも、今更どうして?)
水夜は清四朗と珠奈の行動が理解できず、ただ茫然としているだけだ。そんな水夜の肩をより強く翔澪は抱き寄せ、冷ややかな視線を清四朗に向けた。
「今日は畑の手入れだ。しかし、なかなか骨が折れそうだな」
うっそうと茂る雑草に囲まれた畑を見ながら、翔澪はうんざりとした顔で言う。横にいた水夜は翔澪を見上げて笑顔になった。
「大変そうですが、綺麗になった畑を想像するととても楽しみですね。前は何か植えていたんですか?」
「ああ、人間がどのようにして作物を育てるのか興味があってな。トマトやキュウリ、白菜などいろいろな野菜を作っていた」
「そうなんですか!それじゃ、また作れますね。楽しみです」
水夜が目を輝かせてそう言うと、翔澪は水夜を見ながら微笑む。
「お前がそう言うと俺までなんだか楽しみになって来るから不思議だ。よし、やる気がわいてきた、さっさと終わらせよう」
二人は雑草をせっせと抜き始める。雑草に纏わりついていた穢れは雑草が抜かれる度に消滅し、穢れが充満していた畑は見た目と共にどんどん綺麗になっていく。
雑草がなくなると、水夜は鍬をもって土を耕し始めた。翔澪も一緒に耕し始めるとあっという間に畑は見違えるようになった。
「今日はここまででいいだろう。時期が来たら畝を作って種を植えよう」
「はい!」
二人は近くにある水道で手を洗い、腰かけようの二人掛けのベンチへ腰かける。水夜が用意していた水筒からお茶をコップにつぎ、二人で仲良く飲むと小さく息をついた。
「それにしても、水夜はずいぶんと手際がいいな。やり方を知っているのか?」
「実家で畑仕事も行っていました。一通りのことは全てできると思います」
なんてことないというように水夜が笑顔で返事をすると、翔澪は渋い顔をして大きくため息をついた。
「翔澪様?」
「水夜は本当になんでもやらされていたんだな。そんな扱いを受けていたとは、やはり許せぬ」
怒ったような顔の翔澪を見て、水夜は眉を下げて微笑んだ。
「確かに大変なことも多かったですが、家事も掃除も畑仕事も私にとっては楽しいことでもありました。何かを作り出したり、綺麗にしたり、自分の手で物事が変化していくのは楽しいですし、辛いことを忘れることができる唯一の時間だったんです」
水夜は自分の両手を見て嬉しそうに微笑む。そんな水夜の両手を、翔澪は優しく包み込んだ。
「お前の心が清らかなのは、そういうところからきているのだろうな。この傷だらけの手は、お前が頑張って生きているという勲章だ。そして、そんなお前とこれから一緒に生きていけることが俺は嬉しい」
そう言って、翔澪は水夜に優しく口づけた。
「っ!」
唇を離し、水夜を見つめる翔澪の瞳はとても優しく温かい。まるで体の奥からじんわりと温められ、水夜の全てを包み込んでいくようだ。
「ありがとうございます。私も、翔澪様と一緒に生きていくことができて幸せです」
(あの時、翔澪様に助けてもらわなかったら、私はここにはいない)
何処にも居場所がなく限界を迎え自ら命を絶とうとした水夜を、翔澪は引きとめここへ連れて来てくれた。水夜の生きる意味を作ってくれたのはまぎれもなく翔澪だ。
胸いっぱいに広がる幸せと喜びを向けるように、水夜はとびきりの笑顔で翔澪を見上げる。そんな水夜を見て、翔澪はうっとりとした視線を向け、水夜へまた口づける。
今度は、何度も水夜の唇を食み、舌で水夜の歯をなぞる。水夜が思わず口を開くと、舌は簡単に水夜の口の中へ入り、口腔内を縦横無尽に動きまわる。優しいのにどこか強引で、まるで水夜の全てをむさぼりつくそうとしているかのようだ。
(気持ち良すぎて頭がぼんやりとしてしまう……)
体中がどうしようもなく熱い。熱いのに、とても清らかで心地よい。神様との口づけはこんなにも気持ちの良いものなのかと驚きつつも、その気持ち良さで何も考えられなくなっていく。
口づけながら、翔澪は水夜の体をそっと撫でるように手を這わせた。翔澪の手つきは優しいのにどこか艶めかしい。翔澪の大きな手の感触が着物越しに伝わり、水夜の体はどうしようもなく疼いた。
「っはあ……」
翔澪の唇がようやく離れると、水夜は息つぎをしながらぼんやりとしている。蕩けた顔の水夜を見て翔澪はたまらない感覚に襲われる。水夜の頬を優しく撫でながら翔澪は小さく呟いた。
「たまらないな……」
「?」
何かを言われたような気がしたが聞こえなかったので水夜は蕩けた顔のまま首を傾げる。その仕草が可愛らしく、翔澪は嬉しそうに笑った。
「水夜は本当に可愛らしいな。どこにも出さず、ここにずっと閉じ込めてしまいたいほどだ。まあ、俺と一緒でなければ神域の外に出ることはできないから、実際に閉じ込めてしまっているようなものだが」
そう言って、翔澪は少しかがみ、水夜の顔を覗き込む。
「水夜はここから出たいと思うか?」
少しずつ頭が冴えてきた水夜は、目をぱちくりさせてから翔澪を見つめ、小さく首を横に振った。
「いえ、私は翔澪と一緒にいられるならずっとここにいたいです」
(私の居場所はここだもの。ここ以外にどこにもない)
むしろここから出て行けと言われたら、水夜はもう生きている意味がなくなる。
「そうか」
水夜の返事を聞いて翔澪はご機嫌そうに笑う。
「よし、畑も綺麗になったことだし、一緒に街へ行ってみようか。ここで掃除ばかりして水夜に飽きられてしまっては困るからな」
(私は飽きたりしないのに。でも、翔澪様と街を歩けるなんて、なんだか楽しそう)
水夜がそう思っていると、翔澪は水夜へ片手をかざす。すると、水夜の着ていた掃除用の着物が変わり、美しく鮮やかな着物に変化していた。
翔澪は水夜の髪を結んでいた美しいオーロラ色のリボンをほどき、水夜の手首に優しく結ぶ。それから翔澪の着ていた着物も綺麗な着物に変化し、翔澪は満足そうに頷いた。
「よし、支度は整った。それでは出かけよう」
そう言って翔澪が澪の片手を取り、歩き出そうとしたその時。どこからともなく、祝詞を読み上げる声が聞こえてくる。
(これは、お父様の声!?)
水夜はハッとして翔澪を見ると、翔澪は眉間に皺を寄せて小さく舌打ちした。
「こんな時に俺を呼び出すとは何事だ」
翔澪は水夜の体を引き寄せ抱きしめた。二人の体がキラキラと輝きだす。
(眩しくて、前が見えない……!)
光が消え、水夜が目を開けるといつの間にか湖の前にある鳥居の前にいた。どうやら神域を出たらしい。
「水夜!?やはり生きていたのか!それじゃ、その男性は龍神様の人としてのお姿……!?」
水夜たちの前には、翔澪と水夜を見て驚愕する清四朗と珠奈がいた。
「水夜!?それに、なんて美しい方……」
珠奈は水夜を見て怒ったような表情をするが、すぐに翔澪を見てうっとりとした顔になる。そんな珠奈に翔澪は心底嫌そうな視線を向けた。
「龍神様。お呼びだてして申し訳ありません」
「一体何の用だ。俺はお前たちに用はない。早々に立ち去れ」
そう言って、翔澪は水夜を連れて歩き出そうとする。だが、慌てて清四朗が立ちはだかった。
「お、お待ちください!龍神様、湖から穢れがなくなったこと、お慶び申し上げます。これも全てここにいる珠奈の神力の勾玉があったからこそ。そこにいる水夜には神力がありません。どうか、こちらの珠奈と引き換えに水夜をお返しいただけませんでしょうか」
清四朗の言葉に、水夜と珠奈は驚愕する。翔澪だけは何の感情もこもらない表情で清四朗を黙って見ていた。
珠奈は一瞬怒ったように清四朗を見たが、すぐに何かに気づいて表情を変える。
「龍神様、青条家次女、珠奈と申します。私の神力がお役に立ちましたこと、光栄に存じます。どうか、これからも龍神様のためにこの神力をお使いいただければ幸いです」
美しい笑みをつくり、珠奈はそう言って深々とお辞儀をする。
(そんな、お父様は私を連れ戻すつもりなの?でも、今更どうして?)
水夜は清四朗と珠奈の行動が理解できず、ただ茫然としているだけだ。そんな水夜の肩をより強く翔澪は抱き寄せ、冷ややかな視線を清四朗に向けた。

