穢れた龍神と生贄の花嫁

「!」

 水夜に顔を近づけると龍神は何かを確かめるように首を傾げ、そう言った。

(やっぱり、龍神様にはすべてお見通しなのだわ)

 もう嘘はつけない。そもそも、神様に嘘をつこうとすることが間違いなのだ。水夜は目を瞑って小さく深呼吸すると、目を開いて龍神の大きな顔を見つめた。

「申し訳ございません。私は青条家の長女ですが、神力を持ちません。ですので、巫女である妹の神力を宿した勾玉を渡され、ここに来ました。龍神様に嘘をつくなどもってのほかです。本当に申し訳ありませんでした」

 そう言って、水夜は深々とお辞儀をする。それを見て、龍神は悲し気な眼差しを水夜へ向けた。

──実の娘を、神力を持たないからと言って神に差し出そうとするとは何とも罰当たりなことだ。お前、名は何という

「水夜です」

──水夜か。良い名だ。俺は神力があろうとなかろうと、人間を食らうつもりはない。この身はこの場所から離れることが出来ぬ。それならば、邪気に取り込まれ神ならざるものとなろうと構わない。その運命を受け入れよう。お前も早々にここから立ち去れ

 そう言って、龍神は後ろを向き湖の中央へ進んで行く。

「……そう、ですよね。こんな私、食べるにも値しないですよね。神力も持たないこんな役立たずの私は、そもそも生きている価値が無い」

 両親にも妹にも蔑まれ、誰にも愛されずに生きて来た。龍神にすら食べてもらうこともできないのなら、もう生きている意味などない。