翔澪の唇が水夜の唇に重なると、水夜は目を大きく見開く。
(え……翔澪様と、口づけをしてる……?)
少し唇が離れたかと思うと、また唇が重なる。次第に翔澪の唇が水夜の唇を軽く食み始めた。何度も唇を食まれ、その度に柔らかい感触が伝わってくる。
(なんだろうこれ……すごく気持ちが良い)
水夜は目を瞑りながらうっとりした表情で翔澪からの口づけをされるがままに受けていた。
最後に、翔澪の舌がペロリと水夜の唇を舐めてから唇が離れた。
翔澪は水夜の顔を見て満足げに微笑む。
「この程度の口づけでそんな顔になってしまうなら、これ以上のことをすればお前はどうなってしまうのだろうな」
(そんな顔って……私、どんな顔をしてしまってるんだろう)
水夜が高揚しぼんやりとした顔で翔澪を見つめていると、翔澪は水夜に背を向けながら湯船に浸かる。下半身が湯に浸かると、くるりと水夜の方を向いた。
「水夜、俺はすぐあがるから、襦袢を脱いで風呂に入る支度をしてくると良い。入れ違いになろう」
「わ、わかりました」
水夜は脱衣所に出ると濡れた襦袢を脱ぎ、タオルを巻く。すると風呂場から翔澪が出てきた。
「さ、体を冷やす前に入るんだ」
翔澪に促されて、水夜は風呂場に戻った。さっきまで翔澪がいて口づけをされていた場所だと思うとそれだけでのぼせてしまいそうだ。
(腑抜けていてはだめだわ、気を引き締めないと)
大きく深呼吸すると、真剣な顔で体を洗い始めた。
*
「あがりました」
水夜がリビングへ戻ると翔澪の姿がない。どこへ行ったのだろうかと首を傾げていると、カタン、と小さく音がした。
「翔澪様?」
水夜が音のする方へ目を向けると、そこに見知らぬ男性がいて水夜は驚く。ふわりとした茶髪に和服に袴姿、イエローグリーンの瞳をした男性は水夜を見て目を丸くしていた。
「だ、誰!?」
「あんたこそ誰っすか?ここは神域、あんたみたいな人間がいる場所じゃ……って、いやでも人間のくせにずいぶんと気が清らかすぎる」
そう言って、ずんずんと水夜に近づいてくる。そして水夜に触れようとしたその時。
「気安く触るな」
ビリッとした低い圧のある声がすると水夜の背後から翔澪が水夜を抱き締めるようにして現れた。
「翔澪様!」
男性は目を輝かせると後ろに下がってかしこまる。
「この娘は俺の花嫁だ。お前が触れて良い存在ではない」
「は?え?花嫁!?翔澪様いつのまに!?それに屋敷までこんな綺麗になって……!」
驚く男性は翔澪と水夜、そして屋敷を見て手をバタバタさせている。
「久々に会えたと思ったらお前は相変わらず騒がしいやつだな。だがそうか、お前が形を持って現れることができるほどにまでなったか」
翔澪が水夜を後ろから抱きしめたまま嬉しそうに微笑む。
(翔澪様のお知り合い?)
不思議そうな顔で水夜が男性を見つめると、男性は水夜の思ってることに気がついたのか、にっこりと笑う。
「初めまして、花嫁様。俺は精霊の裕羅と申します。この神域で翔澪様のお世話をしていました」
「翔澪様の……!あっ、ご挨拶が遅くなってすみません。私は水夜と申します。翔澪様に助けていただいて、それから……」
(自分から花嫁と言うのはなんだか恥ずかしいわ)
水夜がためらっていると、翔澪は後ろから水夜を覗き込み、次の言葉を待っている。期待の眼差しを向ける翔澪の顔を見て、水夜は顔を赤らめた。
(そんな顔で見られたら、言わないわけにはいかない……)
「しょ、翔澪様の、花嫁、に、なりました……」
最後の方は蚊の鳴くような小さな声だ。だが、翔澪は満足そうに微笑むと水夜の首筋に顔をグリグリと押し付ける。
「なっ、翔澪様ったら!」
「おやおや、ずいぶんと仲がよろしいんですね!いやぁ、驚きましたよ。あの翔澪様がまさか花嫁、しかも人間をめとるだなんて」
裕羅が驚くようにそう言うと、翔澪はふふん、と愉悦の顔で裕羅を見る。
「俺の一目惚れだ。しかもこの屋敷をこんなに綺麗にしたのは水夜だぞ。お前もきちんと礼を言うがいい」
「翔澪様だって一緒に掃除してくださったじゃないですか、私一人だけじゃありません」
水夜がそう言うと、裕羅はさらに目を丸くする。
「翔澪様が!?一緒に掃除!?あの横暴で勝手気ままな翔澪様が……!?信じられない」
「おい、余計なことを言うな」
翔澪が睨みを効かせると、裕羅は肩をすくめてへらりと笑う。
「それにしても水夜様は美しい気を纏っておいでてすね。巫女にも匹敵するほどだ」
「私は……神力を持たないので巫女にはなれませんでした」
「ほう、巫女を輩出する家の出で?それなら納得です。神力を持たなくても水夜様はじゅうぶん素晴らしい方ですよ。なにせ翔澪様が見初めたお方なんですから」
そう言って、裕羅はその場に跪き頭を下げる。
「これからは翔澪様、そして水夜様にお仕えしましょう。なんなりとお申し付けください」
「そ、そんな、頭を上げてください!私はただの人間です!」
水夜が慌ててそう言うと、裕羅は顔を上げてにっこりと微笑む。
「あなたはもうただの人間ではありません。神の花嫁です。そしてこの神域を浄化した張本人だ。精霊である私がこうして姿を持って現れることができたのもあなたのおかげなのです」
裕羅がそう言うと、翔澪が水夜の横に立って水夜の肩を抱く。
「俺が穢れてしまったために、ここも穢れ精霊は姿を保てなくなり、ここにいることができなくなったのだ。だが、水夜が来てくれたおかげで穢れがなくなり、こいつは姿を持つことができた。水夜のおかげだ」
(そんな……私は何も特別なことはしていないのに)
戸惑う水夜の額に、翔澪は軽く口づける。
「もっと自信を持て、水夜。お前は俺の花嫁だ。これから精霊だけではなく、他の神々もお前の気に惹かれてここにやってくるやもしれぬ。そんなことでは他の神に簡単にのみこまれてしまうぞ」
そう言ってから、翔澪は水夜を抱きしめた。
「まあ俺がそんなことはさせないがな。神だろうがなんだろうが、水夜には絶対に触れさせない。水夜は俺の花嫁。俺だけのものだ」
(翔澪様……)
精霊だけではなく他の神様までここへ会いに来るかもしれない。果たしてそんなことがあるのだろうか、そんな価値が自分にあるとは思えない。だが、翔澪が言うのだから嘘ではないのだろう。
(私は、龍神翔澪様の花嫁。翔澪様にふさわしい花嫁になりたい)
水夜は翔澪の着物をキュッと掴むと、翔澪を見上げる。
「翔澪様に見合う花嫁になれるよう、精進しますね」
水夜のフワッと花が綻ぶような微笑みに、翔澪の心臓はドクンと跳ね上がる。神なのだからそもそも心臓などあるのかと自ら疑問になったが、それでも翔澪は己の体が水夜の一挙一動によって不思議な感覚に襲われるのを感じていた。
そして、それは嫌なものではなくむしろ心地よいもので、何度でも感じていたいものだった。
「水夜、絶対に離さない。ずっと一緒だ」
「……はい!」
*
その頃、青条家は日に日に穢れ始めていた。
「どういうことだ!どうして屋敷がこんなに穢れている!掃除をしていないのか、珠奈!」
「なっ、してるわよ!」
水夜がいなくなってから珠奈の侍女たちへの当たりが強くなり、侍女たちはひとり、またひとりと辞めていた。
掃除をする侍女がどんどん少なくなり、珠奈自ら屋敷を掃除しなければいけなくなったが、いかんせん浄化の力が足りない。そのせいで屋敷は穢れていく一方だった。
(私の神力まで弱まってきてるなんて、どういうことよ!?どうしてこんなことになったの!?)
珠奈は怒りでわなわなと震える。そんな珠奈を憎らしそうに見ながら、ふと父親の清四朗は口を開く。
「そういえば、水夜を生贄に差し出した龍神様の湖は日に日に清らかになっているようだ。まさかとは思うが、水夜が生きているのかもしれないな」
「はぁ?水夜が生きてる!?」
珠奈は気に食わないと言わんばかりの顔をするが清四朗は顎に手を乗せて考え込み、何かをひらめいたと言うようにニヤリと卑しい笑みを浮かべた。
「水夜が生きているなら、うまくいけばこの屋敷のために取り戻せるかもしれないな」
(え……翔澪様と、口づけをしてる……?)
少し唇が離れたかと思うと、また唇が重なる。次第に翔澪の唇が水夜の唇を軽く食み始めた。何度も唇を食まれ、その度に柔らかい感触が伝わってくる。
(なんだろうこれ……すごく気持ちが良い)
水夜は目を瞑りながらうっとりした表情で翔澪からの口づけをされるがままに受けていた。
最後に、翔澪の舌がペロリと水夜の唇を舐めてから唇が離れた。
翔澪は水夜の顔を見て満足げに微笑む。
「この程度の口づけでそんな顔になってしまうなら、これ以上のことをすればお前はどうなってしまうのだろうな」
(そんな顔って……私、どんな顔をしてしまってるんだろう)
水夜が高揚しぼんやりとした顔で翔澪を見つめていると、翔澪は水夜に背を向けながら湯船に浸かる。下半身が湯に浸かると、くるりと水夜の方を向いた。
「水夜、俺はすぐあがるから、襦袢を脱いで風呂に入る支度をしてくると良い。入れ違いになろう」
「わ、わかりました」
水夜は脱衣所に出ると濡れた襦袢を脱ぎ、タオルを巻く。すると風呂場から翔澪が出てきた。
「さ、体を冷やす前に入るんだ」
翔澪に促されて、水夜は風呂場に戻った。さっきまで翔澪がいて口づけをされていた場所だと思うとそれだけでのぼせてしまいそうだ。
(腑抜けていてはだめだわ、気を引き締めないと)
大きく深呼吸すると、真剣な顔で体を洗い始めた。
*
「あがりました」
水夜がリビングへ戻ると翔澪の姿がない。どこへ行ったのだろうかと首を傾げていると、カタン、と小さく音がした。
「翔澪様?」
水夜が音のする方へ目を向けると、そこに見知らぬ男性がいて水夜は驚く。ふわりとした茶髪に和服に袴姿、イエローグリーンの瞳をした男性は水夜を見て目を丸くしていた。
「だ、誰!?」
「あんたこそ誰っすか?ここは神域、あんたみたいな人間がいる場所じゃ……って、いやでも人間のくせにずいぶんと気が清らかすぎる」
そう言って、ずんずんと水夜に近づいてくる。そして水夜に触れようとしたその時。
「気安く触るな」
ビリッとした低い圧のある声がすると水夜の背後から翔澪が水夜を抱き締めるようにして現れた。
「翔澪様!」
男性は目を輝かせると後ろに下がってかしこまる。
「この娘は俺の花嫁だ。お前が触れて良い存在ではない」
「は?え?花嫁!?翔澪様いつのまに!?それに屋敷までこんな綺麗になって……!」
驚く男性は翔澪と水夜、そして屋敷を見て手をバタバタさせている。
「久々に会えたと思ったらお前は相変わらず騒がしいやつだな。だがそうか、お前が形を持って現れることができるほどにまでなったか」
翔澪が水夜を後ろから抱きしめたまま嬉しそうに微笑む。
(翔澪様のお知り合い?)
不思議そうな顔で水夜が男性を見つめると、男性は水夜の思ってることに気がついたのか、にっこりと笑う。
「初めまして、花嫁様。俺は精霊の裕羅と申します。この神域で翔澪様のお世話をしていました」
「翔澪様の……!あっ、ご挨拶が遅くなってすみません。私は水夜と申します。翔澪様に助けていただいて、それから……」
(自分から花嫁と言うのはなんだか恥ずかしいわ)
水夜がためらっていると、翔澪は後ろから水夜を覗き込み、次の言葉を待っている。期待の眼差しを向ける翔澪の顔を見て、水夜は顔を赤らめた。
(そんな顔で見られたら、言わないわけにはいかない……)
「しょ、翔澪様の、花嫁、に、なりました……」
最後の方は蚊の鳴くような小さな声だ。だが、翔澪は満足そうに微笑むと水夜の首筋に顔をグリグリと押し付ける。
「なっ、翔澪様ったら!」
「おやおや、ずいぶんと仲がよろしいんですね!いやぁ、驚きましたよ。あの翔澪様がまさか花嫁、しかも人間をめとるだなんて」
裕羅が驚くようにそう言うと、翔澪はふふん、と愉悦の顔で裕羅を見る。
「俺の一目惚れだ。しかもこの屋敷をこんなに綺麗にしたのは水夜だぞ。お前もきちんと礼を言うがいい」
「翔澪様だって一緒に掃除してくださったじゃないですか、私一人だけじゃありません」
水夜がそう言うと、裕羅はさらに目を丸くする。
「翔澪様が!?一緒に掃除!?あの横暴で勝手気ままな翔澪様が……!?信じられない」
「おい、余計なことを言うな」
翔澪が睨みを効かせると、裕羅は肩をすくめてへらりと笑う。
「それにしても水夜様は美しい気を纏っておいでてすね。巫女にも匹敵するほどだ」
「私は……神力を持たないので巫女にはなれませんでした」
「ほう、巫女を輩出する家の出で?それなら納得です。神力を持たなくても水夜様はじゅうぶん素晴らしい方ですよ。なにせ翔澪様が見初めたお方なんですから」
そう言って、裕羅はその場に跪き頭を下げる。
「これからは翔澪様、そして水夜様にお仕えしましょう。なんなりとお申し付けください」
「そ、そんな、頭を上げてください!私はただの人間です!」
水夜が慌ててそう言うと、裕羅は顔を上げてにっこりと微笑む。
「あなたはもうただの人間ではありません。神の花嫁です。そしてこの神域を浄化した張本人だ。精霊である私がこうして姿を持って現れることができたのもあなたのおかげなのです」
裕羅がそう言うと、翔澪が水夜の横に立って水夜の肩を抱く。
「俺が穢れてしまったために、ここも穢れ精霊は姿を保てなくなり、ここにいることができなくなったのだ。だが、水夜が来てくれたおかげで穢れがなくなり、こいつは姿を持つことができた。水夜のおかげだ」
(そんな……私は何も特別なことはしていないのに)
戸惑う水夜の額に、翔澪は軽く口づける。
「もっと自信を持て、水夜。お前は俺の花嫁だ。これから精霊だけではなく、他の神々もお前の気に惹かれてここにやってくるやもしれぬ。そんなことでは他の神に簡単にのみこまれてしまうぞ」
そう言ってから、翔澪は水夜を抱きしめた。
「まあ俺がそんなことはさせないがな。神だろうがなんだろうが、水夜には絶対に触れさせない。水夜は俺の花嫁。俺だけのものだ」
(翔澪様……)
精霊だけではなく他の神様までここへ会いに来るかもしれない。果たしてそんなことがあるのだろうか、そんな価値が自分にあるとは思えない。だが、翔澪が言うのだから嘘ではないのだろう。
(私は、龍神翔澪様の花嫁。翔澪様にふさわしい花嫁になりたい)
水夜は翔澪の着物をキュッと掴むと、翔澪を見上げる。
「翔澪様に見合う花嫁になれるよう、精進しますね」
水夜のフワッと花が綻ぶような微笑みに、翔澪の心臓はドクンと跳ね上がる。神なのだからそもそも心臓などあるのかと自ら疑問になったが、それでも翔澪は己の体が水夜の一挙一動によって不思議な感覚に襲われるのを感じていた。
そして、それは嫌なものではなくむしろ心地よいもので、何度でも感じていたいものだった。
「水夜、絶対に離さない。ずっと一緒だ」
「……はい!」
*
その頃、青条家は日に日に穢れ始めていた。
「どういうことだ!どうして屋敷がこんなに穢れている!掃除をしていないのか、珠奈!」
「なっ、してるわよ!」
水夜がいなくなってから珠奈の侍女たちへの当たりが強くなり、侍女たちはひとり、またひとりと辞めていた。
掃除をする侍女がどんどん少なくなり、珠奈自ら屋敷を掃除しなければいけなくなったが、いかんせん浄化の力が足りない。そのせいで屋敷は穢れていく一方だった。
(私の神力まで弱まってきてるなんて、どういうことよ!?どうしてこんなことになったの!?)
珠奈は怒りでわなわなと震える。そんな珠奈を憎らしそうに見ながら、ふと父親の清四朗は口を開く。
「そういえば、水夜を生贄に差し出した龍神様の湖は日に日に清らかになっているようだ。まさかとは思うが、水夜が生きているのかもしれないな」
「はぁ?水夜が生きてる!?」
珠奈は気に食わないと言わんばかりの顔をするが清四朗は顎に手を乗せて考え込み、何かをひらめいたと言うようにニヤリと卑しい笑みを浮かべた。
「水夜が生きているなら、うまくいけばこの屋敷のために取り戻せるかもしれないな」

