瞼の裏が明るい。
(……!朝ご飯の支度をしなきゃ!お母さまや珠奈に怒られてしまう!)
ガバッ!と勢いよく起き上がると、目の前にはいつもとは違う部屋の光景があった。
(そうだ、私、龍神様に命を拾われて神域に連れて来ていただいたんだったわ)
バクバクと鳴り響く心臓を落ち着かせるように大きく息を吐くと、隣からモゾモゾと動く気配がする。
「水夜?起きたのか?」
声のする方を向くと、翔澪が眠そうな目をしながら水夜を見上げている。
「翔澪様……」
水夜がホッとしたように微笑むと、翔澪は起き上がって水夜をそっと抱きしめる。
「怖い夢でもみたか?」
「いえ、……ここは実家の屋敷ではないのに早く起きて朝の支度をしないと怒られると思ってしまいました。いつもの癖です」
フフッと悲し気に水夜がそう呟くと、翔澪は水夜の頬に小さくキスをする。
「しょ、翔澪様!?」
「ここには水夜を虐げる者は誰もいない。水夜は安心していいんだ。もう怖くないぞ」
「……ありがとうございます」
(翔澪様に抱きしめられていると安心する。それに、自分がどこまでも清められていくようだわ)
水夜は驚くほどの至福を感じ、そっと目を閉じ、すぐに目を開けて翔澪を見上げる。水夜が頬を赤らめ嬉しそうに微笑むと、翔澪は満足そうな顔をして水夜の体を抱きしめたまま横になった。
「えっ?」
「まだ起きるには少し早い。もう少し寝よう」
(えっ、このまま?えっ!?)
昨夜寝る時には後ろから抱きしめられていた。それだけでも緊張していたのに、今は真正面から抱きしめられている。
どうしたものかと思っていると、頭上から小さな寝息が聞こえて来た。翔澪はすぐ寝てしまったらしい。水夜はフフッと小さく微笑むと、目を閉じる。緊張して寝れないと思ったが、いつの間にか夢の中へ旅立っていった。
*
「よし、今日で屋敷内全て掃除が終わりそうだな」
二度寝から目が覚めて朝の支度と朝食を済ませると、二人はまた屋敷内の掃除を始めた。書庫や客間、廊下など昨日できなかった場所を掃除していく。掃除の最中、穢れが水夜を狙ってまた襲い掛かって来ることもあったが、翔澪がその度に祓い水夜を守った。
「水夜の気は清らかだから、穢れが寄って来てしまうのだろうな。まったく、水夜へ近づこうなどと許せぬな」
翔澪はそう言って気難しそうな顔をする。
「穢れもそうだが、いずれ他の神にも水夜の清らかさが見つかってしまうかもしれん。やっかいだな……俺が守ってやればいいだけの話だが……」
顎に手を乗せてぶつぶつと翔澪は呟く。あまりに小さい声で聞き取れない水夜はどうしたのだろうかと首を傾げた。
「翔澪様?」
「あ、ああ。なんでもない。そんなことより、屋敷内の掃除は全て終わったな。疲れていないか?」
「翔澪様が一緒に掃除してくれたおかげで全然疲れていません。むしろ楽しかったですよ!」
穢れが消えていき屋敷内が綺麗になっていくのが水夜は嬉しくて仕方がいない。屋敷が綺麗になればなるほど、屋敷内の気がどんどん清められていくのがわかる。そして、それによって翔澪の力がどんどん強まっているが水夜にはわかった。
(翔澪様自身に纏わりついていた穢れもすっかりなくなって、翔澪様自身がとてもイキイキしてらっしゃるのがわかる)
水夜が嬉しそうに翔澪を眺めていると、翔澪はその視線に気づき微笑んだ。
「屋敷内が終わったから外にある畑の手入れもしたいが、明日にしよう。水夜、湯を沸かしておいたから風呂に入っておいで」
いつの間に風呂を沸かしていたのだろうか。水夜は驚いて目を丸くし、すぐにハッとする。
「翔澪様、今日は翔澪様が先に入ってください。やっぱり神様より先に入るなんて……」
昨日は言われるがまま先に風呂に入ったが、やはり神様より人間が先に風呂に入るのは違う気がして水夜は萎縮してしまう。
「俺が良いと言っているのにか?」
翔澪は水夜の頬に手を添え、優しく撫でる。それから、何かを思いついたかのように目を輝かせた。
「そうだ水夜、先に入れないと言うのであればこうするのはどうだ?」
(こ、この状況は……)
翔澪の提案は、翔澪の背中を流すというものだった。水夜は濡れてもいいように襦袢だけの姿だ。
ドキドキしながらも翔澪の背中にお湯をかけ、手ぬぐいで背中を拭く。
(翔澪様の背中、とても大きくて男らしい……)
色は白く美しい見た目をしているが、やはり男性なのだと思わざるを得ない。
「そういえば、神様にも性別があるのですね」
ふと水夜は疑問を口にする。龍の姿の時は特にわからなかったが、声と人の姿が男性なので性別があるのだと思う。
「ああ、気になったのか?本来は神に性別も形もない。人が崇め敬うようになったとき、望む姿が形つくられるのだ。俺は男性としての姿で在ることを望まれた、だからこの姿だ」
「なるほど」
もしも翔澪が女性の姿であっても、さぞ美しかっただろうなと水夜は思う。
「もし翔澪様が女性の姿だったら、同じ女性として仲良くなれたかもしれません」
それはそれで楽しいかもしれないと、水夜は小さく微笑む。
「友達になれたかもしれぬと?」
「そうですね。……あっ、すみません、神様と友達だなんて失礼ですよね」
水夜は慌ててそう言い、お湯で翔澪の背中を流す。だが、手元が狂い自分にもお湯がかかってしまう。
「あっ」
「大丈夫か?」
「大丈夫です、お湯が少しかかってしまっただけなので」
翔澪が振り返り水夜を気遣う。慌てて大丈夫だと言う水夜を、翔澪はジッと熱のこもった瞳で見つめた。
(翔澪様、どうしてそんな目をしてらっしゃるの)
水夜は翔澪の熱い視線にのぼせてしまいそうだ。ふと、着ている襦袢がお湯で透けてしまっていることに気がついて慌ててしまう。
「す、すみません!はしたない恰好で……」
水夜が慌てて自分の体を両手で隠そうとすると、翔澪は水夜の両手を掴み、グイッと引き寄せる。翔澪と水夜は鼻先が触れ合いそうなほどの距離になった。
「しょ、翔澪様……?」
「俺はお前と性別が違くてよかったと思っている。お前を花嫁にすることができたからな。別に神は性別を気にしないから、同性でも問題はないだろうが……」
そう言って、翔澪は水夜の体を眺め、うっとりとした顔になる。
「性別が違うからこそ、感じられることもあるだろう。俺はお前に触れたくて仕方がない。今はまだお前の心の準備ができていないだろうから気長に待つが、いずれはお前の全てを俺のものにすると決めている」
翔澪の言葉を聞いた瞬間、水夜の体の奥から言葉にできない何かがブワリと沸き上がり、水夜は顔を真っ赤にして翔澪を見つめた。翔澪は水夜の唇を見つめ、そっと顔を近づける。そしてそのまま、水夜の唇に自分の唇を重ねた。
(……!朝ご飯の支度をしなきゃ!お母さまや珠奈に怒られてしまう!)
ガバッ!と勢いよく起き上がると、目の前にはいつもとは違う部屋の光景があった。
(そうだ、私、龍神様に命を拾われて神域に連れて来ていただいたんだったわ)
バクバクと鳴り響く心臓を落ち着かせるように大きく息を吐くと、隣からモゾモゾと動く気配がする。
「水夜?起きたのか?」
声のする方を向くと、翔澪が眠そうな目をしながら水夜を見上げている。
「翔澪様……」
水夜がホッとしたように微笑むと、翔澪は起き上がって水夜をそっと抱きしめる。
「怖い夢でもみたか?」
「いえ、……ここは実家の屋敷ではないのに早く起きて朝の支度をしないと怒られると思ってしまいました。いつもの癖です」
フフッと悲し気に水夜がそう呟くと、翔澪は水夜の頬に小さくキスをする。
「しょ、翔澪様!?」
「ここには水夜を虐げる者は誰もいない。水夜は安心していいんだ。もう怖くないぞ」
「……ありがとうございます」
(翔澪様に抱きしめられていると安心する。それに、自分がどこまでも清められていくようだわ)
水夜は驚くほどの至福を感じ、そっと目を閉じ、すぐに目を開けて翔澪を見上げる。水夜が頬を赤らめ嬉しそうに微笑むと、翔澪は満足そうな顔をして水夜の体を抱きしめたまま横になった。
「えっ?」
「まだ起きるには少し早い。もう少し寝よう」
(えっ、このまま?えっ!?)
昨夜寝る時には後ろから抱きしめられていた。それだけでも緊張していたのに、今は真正面から抱きしめられている。
どうしたものかと思っていると、頭上から小さな寝息が聞こえて来た。翔澪はすぐ寝てしまったらしい。水夜はフフッと小さく微笑むと、目を閉じる。緊張して寝れないと思ったが、いつの間にか夢の中へ旅立っていった。
*
「よし、今日で屋敷内全て掃除が終わりそうだな」
二度寝から目が覚めて朝の支度と朝食を済ませると、二人はまた屋敷内の掃除を始めた。書庫や客間、廊下など昨日できなかった場所を掃除していく。掃除の最中、穢れが水夜を狙ってまた襲い掛かって来ることもあったが、翔澪がその度に祓い水夜を守った。
「水夜の気は清らかだから、穢れが寄って来てしまうのだろうな。まったく、水夜へ近づこうなどと許せぬな」
翔澪はそう言って気難しそうな顔をする。
「穢れもそうだが、いずれ他の神にも水夜の清らかさが見つかってしまうかもしれん。やっかいだな……俺が守ってやればいいだけの話だが……」
顎に手を乗せてぶつぶつと翔澪は呟く。あまりに小さい声で聞き取れない水夜はどうしたのだろうかと首を傾げた。
「翔澪様?」
「あ、ああ。なんでもない。そんなことより、屋敷内の掃除は全て終わったな。疲れていないか?」
「翔澪様が一緒に掃除してくれたおかげで全然疲れていません。むしろ楽しかったですよ!」
穢れが消えていき屋敷内が綺麗になっていくのが水夜は嬉しくて仕方がいない。屋敷が綺麗になればなるほど、屋敷内の気がどんどん清められていくのがわかる。そして、それによって翔澪の力がどんどん強まっているが水夜にはわかった。
(翔澪様自身に纏わりついていた穢れもすっかりなくなって、翔澪様自身がとてもイキイキしてらっしゃるのがわかる)
水夜が嬉しそうに翔澪を眺めていると、翔澪はその視線に気づき微笑んだ。
「屋敷内が終わったから外にある畑の手入れもしたいが、明日にしよう。水夜、湯を沸かしておいたから風呂に入っておいで」
いつの間に風呂を沸かしていたのだろうか。水夜は驚いて目を丸くし、すぐにハッとする。
「翔澪様、今日は翔澪様が先に入ってください。やっぱり神様より先に入るなんて……」
昨日は言われるがまま先に風呂に入ったが、やはり神様より人間が先に風呂に入るのは違う気がして水夜は萎縮してしまう。
「俺が良いと言っているのにか?」
翔澪は水夜の頬に手を添え、優しく撫でる。それから、何かを思いついたかのように目を輝かせた。
「そうだ水夜、先に入れないと言うのであればこうするのはどうだ?」
(こ、この状況は……)
翔澪の提案は、翔澪の背中を流すというものだった。水夜は濡れてもいいように襦袢だけの姿だ。
ドキドキしながらも翔澪の背中にお湯をかけ、手ぬぐいで背中を拭く。
(翔澪様の背中、とても大きくて男らしい……)
色は白く美しい見た目をしているが、やはり男性なのだと思わざるを得ない。
「そういえば、神様にも性別があるのですね」
ふと水夜は疑問を口にする。龍の姿の時は特にわからなかったが、声と人の姿が男性なので性別があるのだと思う。
「ああ、気になったのか?本来は神に性別も形もない。人が崇め敬うようになったとき、望む姿が形つくられるのだ。俺は男性としての姿で在ることを望まれた、だからこの姿だ」
「なるほど」
もしも翔澪が女性の姿であっても、さぞ美しかっただろうなと水夜は思う。
「もし翔澪様が女性の姿だったら、同じ女性として仲良くなれたかもしれません」
それはそれで楽しいかもしれないと、水夜は小さく微笑む。
「友達になれたかもしれぬと?」
「そうですね。……あっ、すみません、神様と友達だなんて失礼ですよね」
水夜は慌ててそう言い、お湯で翔澪の背中を流す。だが、手元が狂い自分にもお湯がかかってしまう。
「あっ」
「大丈夫か?」
「大丈夫です、お湯が少しかかってしまっただけなので」
翔澪が振り返り水夜を気遣う。慌てて大丈夫だと言う水夜を、翔澪はジッと熱のこもった瞳で見つめた。
(翔澪様、どうしてそんな目をしてらっしゃるの)
水夜は翔澪の熱い視線にのぼせてしまいそうだ。ふと、着ている襦袢がお湯で透けてしまっていることに気がついて慌ててしまう。
「す、すみません!はしたない恰好で……」
水夜が慌てて自分の体を両手で隠そうとすると、翔澪は水夜の両手を掴み、グイッと引き寄せる。翔澪と水夜は鼻先が触れ合いそうなほどの距離になった。
「しょ、翔澪様……?」
「俺はお前と性別が違くてよかったと思っている。お前を花嫁にすることができたからな。別に神は性別を気にしないから、同性でも問題はないだろうが……」
そう言って、翔澪は水夜の体を眺め、うっとりとした顔になる。
「性別が違うからこそ、感じられることもあるだろう。俺はお前に触れたくて仕方がない。今はまだお前の心の準備ができていないだろうから気長に待つが、いずれはお前の全てを俺のものにすると決めている」
翔澪の言葉を聞いた瞬間、水夜の体の奥から言葉にできない何かがブワリと沸き上がり、水夜は顔を真っ赤にして翔澪を見つめた。翔澪は水夜の唇を見つめ、そっと顔を近づける。そしてそのまま、水夜の唇に自分の唇を重ねた。

